桜中央学園⑪
「しかしこうなると話が変わってくるな」
アキラと白鷺が当初考えていたのは、ある程度浅い地下にある防空壕の調査だ。
しかし実際には巨大な地下遺跡を思わせる空間を調べなければならなくなった。
――本当にドローンと私だけで調査するの?
アキラはドローンから送られてくる映像を呆然と見つめる。
ドローンに搭載されている小型カメラは暗視ができないため、カメラ自体のフラッシュ機能を使って撮影をしている。
暗い地下では見える範囲が限られてしまっていた。
ぎゅっと魔除けの指輪を握り込む。意を決したようにアキラは顔を上げた。
「ここに学園の呪いを解く手掛かりがあるんですよね……」
「ガムランボールはこの地下への入り口を示していた。きっとこの中に何かあるはずだ」
「私、中に行きます」
アキラは幽霊にも虫にも出会いたくなかったが、目の前にある手掛かりに繋がるチャンスを逃したくなかった。
白鷺は一つ頷き、「ちょっと待って居なさい」とそこらに散らばる魔除けグッズをあさりはじめる。
「万が一古い遺跡だった場合、カビや埃が有害だ。これを付けていきなさい」
白鷺から手渡されたのは顔の下半分を覆う防塵マスクだった。
パンデミック系の映画でよく見るガスマスクの下半分のような見た目だ。
中央と左右に円形のフィルターが嵌めこまれたそれをアキラは嫌そうに受け取る。
「これ付けないとだめですか」
「念のためだよ、それとこれ」
肩紐の付いたタンブラーを差し出す白鷺。受け取り飲み口を開けるといつものコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。
確証はなかったが、このコーヒーには不思議な力があるとアキラは思っていた。
強張った体を何度も和らげたそれを、黙って肩から掛ける。
アキラは渋々とマスクを装着し、倉庫の外に誰もいないことを確認し飛び出した。
――誰にも見られないようにしないと。
日の暮れかかる学園で、ジャージに防塵マスク姿の女子高生がキョロキョロと辺りを見回しながら地面に開いた穴に駆け込んでいく。
その様子が現実離れしていることをアキラは自覚していたが、もう引き返せなかった。
手元の端末でドローンの通った道を確認しながらアキラはゆっくりと坂を下る。
端末のライトを点け足元を確認すると、この坂も人工的に造られたことが伺えた。
「アキラ君どうだい?」
白鷺からの通信が入る。アキラは地図を確認しつつ返答した。
「暗くて肌寒いです。坂も岩が組み合わさってできているようです」
「しばらく坂が続くから気を付けてくれ。ドローンは坂の下に待機している」
「はい」
壁や床は年季が入っておりひびや苔が散見されたが、アキラが思っていたより内部は整備されていた。
壁を伝いゆっくりと一人分程度の幅を下る。進むにつれ徐々に坂の幅が広がっていくようだ。
ひやりとした空気がアキラの首筋を撫でる。
しばらく坂を下ると、坂の終わりを示すドローンのライトが前方に見えた。
「理事長、ドローンが見えました」
「よし、ではドローンを先行させる。少し距離をとって付いて行ってくれ」
「はい」
坂が終わると映像で見た広い空間に出る。トンネル状になっており床と壁は岩がはめ込まれた巨大な人工通路になっていた。
ライトを照らしながらアキラは周囲を見て、その
幽霊や大嫌いな虫が出そうなどと最早考えられないほど、アキラは目に入る光景に驚いていた。
歴史的建造物を初めて目の当たりにする衝撃を受けているようなものだ。
「どうかな、映像に映らない部分で気になることは?」
「映像通りですが……広くて圧倒されます」
ドローンの明かりと端末のライトを頼りに進んでいくと、アキラの目に奇妙なものが映った。
ドローンに搭載された小型カメラを通じて白鷺もそれに気が付いたようだ。
アキラの視線の先には、道なりに点々と光る複数の小さな明かりがあった。
「理事長、あれが見えますか?」
「ああ、何故光源が……」
まるで通り道を案内するかのように等間隔で光るそれにドローンが近づく。
アキラもそれに続くと、光源の姿が確認できた。
「LEDライトですね……」
「そのようだ。最近人が立ち入ったということか」
「なんだ、誰か先に入っていたんですね」
「恐らく他にも出入口があるんだろうな。純粋にこの空間の調査が目的か、あるいは……」
白鷺は言葉を濁す。
誰かが既に入っているという事実と光源のおかげで少しだけほっとしたアキラは、光の導く方へ足を進めた。
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