桜中央学園⑧
「アキラちゃん大丈夫?」
ナギサが心配そうな顔でアキラを覗き込む。
アキラは目の下のクマを手で触りながら軽く頷いた。
昨日は色々なことがあった。
ガムランボールの音色に導かれ、防空壕に繋がる穴を見つけた。
そしてその後校門でトーマと会い、炎に包まれる幽霊に遭遇した。
そして星野に支えられ帰路につくという頭がパンクしそうになる一日だった。
アキラは考え事があると眠れなくなる性質だ。
防空壕の探索について。
トーマに心配をかけていることについて。
とうとう幽霊を見てしまったことについて。
星野に抱いた安心感ついて。
頭を駆け回るそれらのことのせいで、昨日は勿論眠れずにずっと魔除けの指輪を触りながら布団に入っていた。
アキラがあまりにも酷い顔なので、ナギサは甘いものを与えたり肩を揉んだりと甲斐甲斐しく世話を焼いたが
あまり効果がないようだ。
「朝も急に学校一緒に行こうって言い出すし……何かあったの?」
「ううん、ナギサと一緒に登校したかったの」
「んー嬉しいけど本当に大丈夫?」
「うん」
ナギサの言葉に無表情で返すアキラ。
一晩中考え事をして、感情が追い付いていないようだ。
アキラは幽霊を見た後で一人でこの学園に足を踏み入れることに恐怖を感じた。
そこで同じ電車通学のナギサに朝一でメールをし、最寄駅で待ち合わせをして一緒に登校したのだ。
校門をくぐるときはナギサの腕に手をまわしながら、お化け屋敷に入るカップルのような状態になっていた。
「ナギサ、明日も駅で待ち合わせしよう」
「い、いいけど」
「来週も、再来週も、ずっとね」
「怖いよアキラちゃん……」
血走る目でナギサに迫るアキラ。
ついに幽霊を見たという事実に対しアキラはなりふり構っていられなかった。
魔除けの指輪を外さない。
学内で一人にならない。
アキラの学校生活においてこれらのことが必須条件となった。
アキラは元来友人にベタベタしないタイプだが、身と心の平穏を守るためには仕方がない。
ナギサも満更ではない様子なので、アキラは有難く甘えることにしたのだった。
アキラはクラスメートと喋っているトーマをちらりと見る。
昨日は申し訳ないことをした。
アキラは家に帰ってからしばらく幽霊のことしか考えられなかったが、朝日が昇るころにはトーマとのやりとりを思い出してへこんでいた。
思えば校門前でずっとアキラのことを待っていてくれて、アキラのことを考えて声をかけてくれたのだ。
トーマに嘘をついたこと、本当のことを話せないことがアキラの胸がズキズキと痛めつける。
机に突っ伏したアキラの頭をナギサが撫でた。
「少し寝なよ。先生が来たら起こすから」
「うん……」
遠のく意識の中、ナギサの声が微かに響く。
「ねえアキラちゃん。この指輪、ちょっと似合わないね」
「私もそう思う」アキラは心の中で呟きながら、僅かな眠りについた。
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