夢の狭間①

 頭上には快晴の空が広がっていた。

 昨夜までの嵐は辺りの雲を全て引き連れて行ったらしい。

 

 嫌な嵐だった。


 満開の桜を散らし、自分たちの家を揺らして荒らすだけ荒らして。


 それでも、――はこの嵐が去ることを望んでいなかった。

 地面に落ちてぐちゃぐちゃになった桜花は少しだけ淡い色を残して茶色くなっていた。


「言ったとおりに、晴れただろう」


 ――は黙っていた。背後から聞こえる声の主は分かっている。

いつ見てもくたびれている羽織りの模様が視界に入り、――は目だけでそれを追う。


「こら、井戸の淵に座るなと何回言わせるんだ」


 何度も聞いたその小言にしぶしぶ両足を地面におろす。改めて声の主を見ると、いつもの羽織の下は旅装だった。背中に袈裟と僅かな荷を括り、声の主である男は――の目の前に立ち顔を近づけた。


「――、私が居なくなった後、皆を頼むぞ」


 ああ、だから嫌だったんだ。嵐がほんの少しだけこの人の足を止めてくれても、別れは必ずやってくる。


「お前はそう見せないだけで心配をしすぎる性質があるから、もっと人を信じなさい」


 最後まで教師面をする男から顔をそむけ、――は今まで言えなかったことをゆっくり口に出した。



「 」







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