第13詠唱 理想と現実(後編)


 朝になり4時間かけて二人は千葉に来てとあるバスに乗っていた。

 

「会社の社長がテーマパークのチケットをくれてな、今からココに行くぞ」


  そう言い財布から一枚のチケットをリリィに見せる。 


「おもしろそー!このおしろほんとうにあるの?」


 西洋風の白い大きな城をバックに楽しそうにしている可愛いキャラクター達が写されたチケットを見て楽しそうに言う。


「あぁあるとも、ほら外見てみろ」


 バスはもうテーマパークのすぐ近く来ていて大きな白いお城が窓から直ぐに見えた。


二人は大人二人分の高さはあろう綺麗な鉄柵の門と明るい音楽が健二とリリィを向かい入れた。


(ココに機動隊が来るのか......でもなんで来るんだろう、パパを狙いに?そんなはず)


 ファンタジーの物語に出てきそうなカラフルな建物を見渡していると突然、大冠(おおかん)を被った子供向けに可愛くデフォルトされた豚の様なフワフワの大きな着ぐるみがリリィと健二の前に突然現れる。


「ブヒッ!ドリーミーな世界へようこそ!僕はこの世界の王のイベリーピッグ!シクヨロぷぎー、君の名前は?」


 着ぐるみ特有の大げさな身振り手振りをして演技をしながら、甲高い声でセリフを言うキャラクターに思わずリリィは驚いて固まる。


「ほら、この国の王がお名前を聞いてるよ、答えてあげなきゃ」

「え、あ、たにかわはるひ、です」


 リリィは頭をペコリと下げるとイベリーピッグは頭を撫でる。


「シクヨロはるひちゃん!キミは可愛いね!気に入ったから抱っこしてあげるよ!」


 「ほらおいで」と言わんばかりに手を広げるイベリーピッグにリリィは近づくと、ガシッと抱きしめて一回だけボールの様に空に軽く上げて高い高いをして地面に優しく下す。


「じゃあね!マイハニー!」


 手をブンブン振って去って行く。


「運が良かったな、あの王様はめったに見れないんだよ」

「へ、へ~」


 リリィは突然高い高いをされたから呆然とする。

二人はその後テーマパーク内の案内マップを手に入れて歩くことにした。


「ねぇパパあのかごがいっぱいあるおおきなたてものなあに?」


 観覧車の方を指さし健二は見た瞬間「あぁ観覧車って言うんだ」と説明する。


「へー!わたしあそこにいきたい」

「じゃあ、あれに乗るか」


 テーマパークはとても広く、観覧車まで行くのにも良い運動になりそうな距離だったが、明るい音楽と海賊船やメルヘンチックな家など、ファンタジーの世界に居る感覚に胸が躍り不思議と二人は疲れを感じなかった。


 目的地に着くとやはり有名なだけあって、まだ大人の腰までしかない、リリィぐらいの小さい子供達を連れた家族とカップルで長蛇の列をなしていた。


「並んでるねぇ」


 リリィはいつもだったら頬を風船の様に膨らませて「ム~」と言っているが、周りに警戒しているのを察しられない様に楽しそうにしながら神経を研ぎ澄ませて魔力に警戒していた為列など気にしなかった。


「リリィ?本当に楽しいか?」


 その瞬間、リリィは大きなクリクリ目が飛び出しそうなほど見開いて驚き、思わず背筋を伸ばし額から冷たい汗を噴き出した。


「た、楽しんでるよ」

「そうか?それならいいけど」


 健二はそう言うと微笑んでリリィの頭を撫でた。リリィも健二には笑顔でいてほしい為笑って見せる。


(あの時みたいな出来事が繰り返される訳じゃない、もしもの時があったら魔武(まぶ)と指輪が私を守ってくれるんだ、今は気にしないで思いっきり楽しもう)


「もうすこしでのれるよパパ!たのしみだね」

「そうだな、高い所から見る風景はきっと綺麗なんだろうね」


 会話をしながら待ち、やっと番が来て目の前にガラス張りの球体の籠がゆらゆら揺れながら止まる。


「いがいとせまいんだね~」

「ホントだな~大人4人が入るか入らないかだ」


 中は向かい合うようにベンチが取り付けられていて、座ると足が当たるか当たらないかという近い距離だった。前に大勢で乗ったのガラスは結露で白く曇っていて、鉄製の椅子も真冬にしてはやけに暖かかった。


 椅子に座って数分後、ブザーと共にゆっくり動き始めた。


「あ!うごきだした!」

「外が見える様に曇ったガラスを拭くか」


 リリィは渡されたハンカチでガラスを拭く。


「わたし、パパといっしょのところでみる!」


 健二の膝の上に座りと、座られた本人は少し照れ臭そうに外の風景に目をやる。


「パパ、ありがとうね」


 ベルトの様に腰に回された健二の大きな手に両手を添える。


「何を急に、まぁでも僕こそありがとな、わがまま付き合ってくれて」

「ううん、わたしはずっとこういうのにあこがれてた、パパはすべてかなえてくれたからおれいいわなきゃいけないのはわたしのほう」


 「そうか」と健二は優しく言いギュッと抱きしめる。


 観覧車は二人の空気を呼んでいるのか、頂上当たりで速度を落とした。


「ほら見てみろ!城が見えるよ!」

「ほんとうだ!デカーい!」


 上空から見ても城の存在感は変わらず直ぐに見つけられるほど大きかった。


「そうだ!パパしゃしんとろうよ!ふたりのはじめてのりょこうに」


 健二は何故か少し戸惑うがニコリと笑い「あぁいいよ」と微笑み携帯をズボンのポケットから出すと、ガラスでできた壁をバックにリリィと写真を撮る。


「いっしょうのおもいでだね!」

「そうだな、これは二人の大切な思い出だ」


 そうして二人はその後も日が暮れるまでいろんなアトラクションに乗り、リリィは生まれて初めて心から面白いと感じた。


(なんだ、ココには魔導機動隊は愚か魔力を持つ覚者も見当たらない)

「案外魔女の占いも外れるもんだな」


 リリィは警戒心を完全に解き今まで警戒していた自分がおかしくなってカラカラと笑う。


「遥陽(はるひ)が元気になってくれてよかった」


すると広い園内を包み込む大音量の音楽と共に、七色にピカピカと光るバスぐらいはあるであろう、いろんなアニメで登場するキャラクターの形をした乗り物がダンサーや着ぐるみ達を乗せ一列になってゾウの様にゆっくりとやって来る。


「パレード、綺麗だな遥陽」

「だね!あ、みて!イベリーピッグだ」


 王の様にパレードを見ている大勢の人に手を振るイベリーピッグは、リリィを見つけると持っていたマイクを握り話始める。


「今日は最高な日だね!マイハニー!プギッこれは僕からの心からのプレゼントだ、受け取っておくれ!」


 そう言うと胸に着けていた金色のバラのブローチを、花火が上がる夜空に向かい投げて渡した。


「僕は幸せの王!もしも落ち込んだや泣きたい時は僕を思い出してね!ピギィ」


 リリィに大きく手を振るイベリーピッグに、「ありがとー!」とリリィも両手でブンブンと手を振った。


パレードは1時間に渡り続き行われた。


「さて、最後に大きなお城を見に行くか!」

「うん!」


出口へ向かう家族やカップルを避けながら流れに逆らって城に向かう。


「デカーい!」


 打ち上がる花火に照らされたライトアップされた清潔感のある白いお城を見て目を輝かせる。


 その時リリィの小さな両手が健二の片方の手を包み込む


「パパのてあたたかい!」

「リリィの手も暖かいな」


 健二が「幸せだ」と無意識にぽつりと呟く


「......」


 健二の言葉にリリィはアシュリーとの浜辺での思い出を思い出し笑顔に影が落ちる。


(またあの記憶か、思えばパパと居るとママの記憶が水泡の様に消えていく、どうでもいい魔導機動隊での記憶は今でも覚えているのに、思い出の宝玉と言いママの記憶は曖昧な記憶ばかり......本当にこれは私の記憶なのか?)


(貴方は自分の信じている貴方じゃない、か)夢でのその問いも今となってはどうでもよくなっていた、何故なら


「わたしもいまさいこうにしあわせだよ!」


 花火が打ち上がり辺りが明るくなった時だった、魔法で作られた弾丸が流れ星の様に飛んでくる。リリィが気づくのは健二の太ももに弾丸が着かないかの距離だった。


「パパ避けて!」


 すぐさま握っている手を放して健二を押し飛ばしてかばった。弾丸はリリィの柔らかい太ももを喰らいつき貫通し雪の様に白い肌を一瞬に紅色に染める。


「アァァァァァァァァァア!」


 あまりの痛さに叫び声をあげて地面に崩れ落ちそうなるが、もう一発発砲したのに気が付きもう一方の足で踏ん張って魔武である半分の盾を出して健二を守った。


「はるひ?」

「向こうにあるお店に走って逃げて!」

「で、でも!」

「いいから早く!」

 

 太ももの痛みを我慢して腹から叫ぶリリィに圧倒され、健二は走って近くにある店へ逃げる。


「そう、それで良いんだよパパ......」


 逃げる健二の背中を店に入るのを見送る


「アシエ・パルテール!」


 何もないタイルの地面から鋼の分厚く高い壁がお店を囲む


「お前らは、お前らは......」


 肩を震わせて怒りをあらわにするリリィ、また一発、こんどはリリィの額を目掛けて飛んで来たが盾で防ぐ


「これで満足か!私から何もかも奪い取って満足なのか!」


 「隠れてないで出て来いよ!」と魔力の気配を感じる場所に向かって言うと二つ人影が出てくる。


「まさかリリィちゃんがアイツの仲間だったなんでね」

「私はリリィちゃんを信じていたのに、なんで?」


 夜空に響き渡る二つの声は聞き覚えのある声だった。


 城の緑色の三角屋根の影から二人、姿を現した。


 リリィはその二人を目にした瞬間驚きのあまり、時が止まったようにパーク内で流れていたうるさかった音楽が聞こえなくなり、血が上っていた頭が冷静になる。


「私たちを思い出した?」

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