第12.5詠唱 理想と現実 ~それぞれの長い夜~
「まぁ丁度良かったです。リリィさん、貴方にお渡ししたい物と一つ警告をしたくてここに来ました」
「私に?」
ポケットから、ガラスでできた深い紫色の指輪を取りだすとリリィに渡す
「キレイ」
月明かりに照らされた指輪は、中にラメでも入ってるのかキラキラと無数の星のように光り、まるで小さな宇宙のようだった。
「それは流星の指輪と言い、昔魔女がこの世を支配していた時に魔女の王が指にはめていた物です」
その瞬間リリィの表情が変わり、目からは警戒の色を感じた。
「なんでそんな凄いものを私にくれるんですか?」
「その魔道具は二つ願いを叶えられることができます。今後リリィさんには必要になると思いまして」
「私に必要?何故そんなことが?」
「実は私は魔女と人間のハーフなので、魔女が最も得意とする未来を知る占いが出来るんですよ」
できる占いの種類は種族によって違くて、魔女はその人の数年先の未来・今どこにいるかを占うことが出来るのだ、因みに魔法少女や人間は、魔女と似ていてその人の今日何が起きるか、ラッキーカラーだとかだ。
「やはり魔女でしたか、その高い鼻とユニコーンの血の異常なまでの摂取量はそうじゃないかと思いました」
「そうだったんですか、なら話が早いです占った結果、明日ももう一泊ココに止まってください」
「もし移動したら?」
健二を失いたくないという気持ちが強くなっているせいか、背中は冷たい汗でグッショリと濡れる。
「20分前、魔道機動隊の6人程の小隊がこの世界に来ました、恐らくこの世界を把握でき次第リリィさんを取り戻しに大隊を率いて来るでしょう」
「大隊?でもそんなに魔導機動隊員も居ないはずじゃ」
「たしかに第5地区には13人しか居ませんが、他の地区の覚者を加えれば可能かと思います」
リリィはまた昔の事が起きるんじゃないかと思い、恐怖のあまり地面に膝をつき体を震え始めた。
「そ、そんな......」
「すみません、流石に私でも一人で大隊に勝てません。なのでココはお引きになった方がよろしいでしょう」
「でも!初めての家族旅行なんだよ?ねぇ、お願い、助けてよ」
「お願い助けて」と震えた声ですがりつくが、ベティはすまなそうに深々と頭を下げたまま答えようとはしなかった。
「私はどうもする事は出来ませんが、もしもの時が起きたらその指輪が助けてくれます」
「クッ......」
リリィは攻めなかったが、ベティは小さな子を一人助けられない自分、そしてこれから何が起きるのか知っているのに何もできない自分に苛立ちを感じた。
* * * *
「そこに居るのはメルか」
健二は覚えのある魔力を感じて、目をつむったまま天井に向かって言うと呼ばれたメルは、顔からスーと姿を現す。
「魔法であの子を追い出してまで何の用だ?旅行中は姿を現さない約束だろ」
「報告したい事があってね」
ふさふさの大きな狐耳と尻尾を生やす釣り目の彼女は、前に垂れている青く長い髪を片手で後ろにやる。
「報告?手紙でいいでしょ」
「はぁ?大体この私が来て上げたんだから感謝しなさいよね!」
着物の袖から手を出して地団駄を踏む。
「分かった分かった、ありがとう狐の妖精さん、で?報告ってなんなの?」
「っつたく、報告ってのは2つあってね、この世界を行き来できる転送ゲートが思ったよりも早く完成したから20分前に妖精の偵察部隊がこの世界に来たの、恐らく時期に第五地区の魔法機動隊の3グループがリリィちゃんを探しに来るわ」
「ホントにみんな優秀だな......まぁ計画が早く進むからいいけど」
「本当にできるの?今日一日の主人を監視してるとできそうに見えないけど」
「やっぱり私が今まで通りあんたに化けていったほうが良いんじゃない?」と腰に手を当ててため息を出すメルに、健二は腰を起こすと「余計な心配はするな、健二としての僕は違う」と目を見る。
「それが心配だっつーの!」
「分かった分かった、で?二つ目の報告は」
しばらく健二を見てからまた大きなため息を吐く。
「二つ目の報告はベティが四地区の研究所から姿を消した事」
「やっぱりか、そんなに取り戻したいのかねぇ魔女の黄金時代」
予想がついていたのか呆れた様にため息を吐くと、メルは「だから魔女をチームに加えるのは反対だったのよ!」と不機嫌そうに言う。
「まぁ、明日リリィの前に機動隊が来たとして、ベティは手出しできないから妨害される心配もないろうけど」
「だといいけど......」
するとメルはジーと健二を見る。
「どうした?」
「いや、本当に演技が上手いなって」
「演技?あぁ、本当の自分を見失ったからかもしれないね......遠い昔に」
「時々、四地区のリーダーの女と魔法の使えないごく普通の男と子供の為に戦う母親のどれが本当のあんたか分からなくなる時があるわ」
「あまり仮面を被らないほうが良いわよ、あの子も心配してるから」と注意すると、健二は黙る。
「まぁ良いわ、報告はそれだけよ、じゃーね」
窓を開けて去ろうと窓枠に足を掛けた時「あ、そうそう」とまた健二の方を振り向く。
「例の薬、まだ未完成だけどアイラの方に送る事になったわ」
「そうか」
「そうよ、じゃあね優しいお父さん」
「せいぜい家族ごっこを楽しみなさい」と意地悪そうに言うと、窓から飛び降り狐の姿に戻り森の木々を忍者の様にヒョイヒョイと飛び越えて遠くへ消えていった。
健二は起き上がり、メルが消えていった窓に近づいて外の風景を眺める。
「あれ?パパおきてたの?」
笑顔で言う彼女の頬には涙の跡があり、健二は聞こうとしたがなんとなく止めておいた。
「まぁな、明日が楽しみで眠れなかったんだ」
(きっと心配かけたくなくて笑顔を作ってるんだろう)
そう言うと「わたしもあしたたのしみ!」と笑顔になる、しかしその笑顔は心なしか月の様に冷たくて寂しい感じだった。
そのせつない笑顔に健二は見ていられなくなり目をそらす。
「じゃあおやすみパパ」
そう言うと自分の布団に入り目を瞑ると、リリィは意識が谷に突き落とされた様に直ぐにスースー寝息を立てて寝始める。
寝たのを確認した健二は、墨を零したように星の見えない真っ黒な夜空を眺めた。
「明日、か」
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