悪意の水底から
その部屋の中で、旧式のテレビだけがノイズとともに瞬いている。黒い箱の上にはうっすらと埃が積もっており、長いこと手入れされていないことが知れる。塵の群れはテレビの正面に置かれた椅子と、ちいさなテーブルに乗ったビデオテープを除く全てと共にあり、そこにあることが当然であるかのように振舞っている。
部屋を風が通り抜ける。鉄が軋む音と、施錠音がして、やがて一人の女が暗闇から顔を覗かせた。
美しい女だった。すらりと伸びた四肢はぴったりとしたズボンと清潔さを感じさせる白いシャツによく映え、髪の艶やかさは、闇の中でも輝くようだった。
女はその双眸で、ざわつくテレビを一瞥してから、テーブルに視線を移した。それから歩き出すと、最近使用した形跡のあるビデオテープを手に取り、デッキに挿入して椅子に座った。
女の手には、古いリモコンが握られている。外から持ってきたらしきそれは、少し赤黒く汚れていた。
再生が始まる。ノイズは消え失せ、画面には代わりにコンクリートの壁が映し出された。テーブルか何かの上に置かれているようで、端に木目が見えた。音はなく、空気の震える様だけが記録されている。
女は握っていたリモコンのボタンを押した。早送りの表示が現れ、画面下に教示された残り時間を表示するバーだけが高速で進んでいく。風景に変化はなく、時が止まっているかのようにも思える。
残り五分のあたりで、女は早送りを停止した。時は平常を取り戻し、やがて動き出す。
コツ、コツ、という硬質な足音が、徐々に大きく、そして明確に聞こえてくる。その足音はカメラの付近で立ち止まると、カメラを手に取ったようだった。コンクリートの壁が揺れる。カメラは下に向けられ、しばらくじっと微動だにしなかったが、次第に前進し、薄汚れた階段を見せた。
降りた先で、カメラは一人の少女を映し出した。
鎖につながれ、その先で血に汚れた肢体を晒している。少女は衣服をまとっていなかった。むき出しの肌には無数の裂傷に打撲痕があり、苛烈な暴力に晒されたことを、見るものに嫌でも理解させる。しかしながら、他に汚れは見えず、そのことが少女に向けられた執着を感じさせる。
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