謎の黒い液体

えびのしっぽ

第1話

「ホラ、飲んでみなよ」


 男は、女に真っ黒な液体が入ったカップを差し出した。


「イヤよ、何これ」


「コーヒーに決まっているじゃないか」


「ホントに?」


 女はカップに顔を寄せて、クンクンと鼻を動かした。


「何の匂いもしないけど・・・。本当にコーヒーなの?これ」


「何で嘘を言う必要があるんだよ。ホラ、早く。冷めないうちに」


 男は、女の胸もとに押しつけるようにカップを差し出した。


「わかったわよ、飲むわよ。だから急かさないで」


 女は、男からカップを受け取ると、唇を近づけた。


 男は、息を殺して女の口元をじっと見つめている。


「こっち見ないでよ」


「いいから早く飲め」


 男は、いらついた口調で言う。


 女は、カップの中の黒い液体をほんの少し口に含むと、固く目を瞑り、ゴクリと飲み下した。


 男は、口の端を曲げてニヤリと笑った。


 次の瞬間、女は、苦悶の表情を浮かべ、激しく嘔吐えずきだした。


「ちょっ、いったい何よこれ!何を飲ませたのよ!」


 女は、しばらくその場にうずくまって嘔吐えずいた後、口元からヨダレを垂らしながら男を睨みつけた。その目には涙が溜まっている。


 男は、冷たく響く声で言った。


「どんな気持ちだ」


「すごく・・・、すごくムカつく気持ちよ!」


 そういうと、女は、男の顔に唾を吐きかけた。


 *  *  *


「こんな感じで良かったですか?」


 女は、口元をハンカチで拭いながら男に言った。


「ああ、とてもよかった。また、頼むよ」


 男は、礼を言うと、財布から何枚かの紙幣を取り出し、女に手渡した。

 

「でも、変な趣味ですね。得体のしれない飲み物を相手に飲ませて、戸惑っている姿を見るのが好きだなんて」


「ハハ、自分でも変わった性癖で困っているよ」


 男は、苦笑いをしながら答えた。


「わたしはお金さえもらえれば、別にいいんですけど。それより、さっきの黒い飲み物ってなんだったんですか?甘ったるいようで、ちょっと苦いような・・・」


「あれか。知らない方がいい」


「えー、なんでですか。教えてくださいよ」


 女は、バッグにハンカチを直し終えると、男の顔を見た。


 その瞬間、全身の血の気が引いた。


 男の目は、真っ赤に血走り、体中の穴という穴から真っ黒の液体が流れ出していた。


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