あとがき

 怪獣を咥えたあの日以来、ロンは遊ぶことを覚えた。これまで買ってきた噛むとキュッキュと音がするメロンパンも、ようやく役割を与えられたし、古びたタオルを使っての引っ張りっこも覚えた。


 私はネットを駆使して、どんな犬でもハマってしまうという、タマゴ型のおもちゃを購入し、ロンの反応を見てみた。効果はばっちりだった。

 噛みやすいが誤飲することのない、ほどよい大きさで、噛むとこれもキュッキュと音がする。ボールのように投げるとタマゴ型の特性でどちらに弾んでいくのか予想がつかないところも、ロンにとってはたまらないようだ。ダッシュで探しに行っては、楽しそうな足音を立てながら戻ってくる。お気に入りなので口から離したくない気持ちと、もう一度投げてほしい気持ちの間で揺れている。そんなロンの隙を狙っておもちゃを奪い取り、また投げる。


 最初は、おもちゃに興味を示さない子だと思っていた。散歩だけが大好きで、あとは毎日ゆっくりとおだやかに過ごす。誰かが家にいるだけで満足。そんな子だと思っていた。


 でも最近は、ただ遊び方を知らなかっただけではないかと、私は考えている。食うには困らず、寝場所もあったが、「とってこい」と言ってくれるご主人さまは、きっとずっといなかったのだろう。


 散歩のときも、これまではただ自分の行きたい方向だけを見ていたロンだったが、この頃は、時々こちらを振り返りアイコンタクトをとるようになった。家の用事で忙しい時にロンの散歩を友人にお願いしたが、玄関先から一歩も動かず、私が出てくるのをずっと待ってくれていた時もあった。


 我が家は、ロンにとっては三軒目の居場所となる。一軒目はきっと、どこかの白い家だろう。二軒目は、とあるお店だ。その二軒と比べる気はないが、ただ、今この瞬間が、ロンにとって一番幸せな時であるようにと、そう願わずにはいられない。

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ミニチュア しゅりぐるま @syuriguruma

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