第9話 その日

 その日、由佳ちゃんは僕を優しく撫でながらテレビを見ていた。


  ◇  ◇  ◇


 私がテレビを見ていると姉がアルバイトから帰ってきた。


  ◇  ◇  ◇


 お父さんとお母さんはもうお布団の中で、僕はそのお布団にいつ潜り込もうかと考えていた。だけど、お姉ちゃんが帰ってきたので急いで玄関へ行った。


  ◇  ◇  ◇


 ロンは姉を出迎え、私と姉の間に寝そべった。


  ◇  ◇  ◇


 由佳ちゃんとお姉ちゃんは仲が良くて、お姉ちゃんが夜帰ってくると、よく二人で遅くまでおしゃべりをするのが日課だった。


  ◇  ◇  ◇


 私はいつものごとく、帰ってきた姉の話を聞いていた。姉は一日の間に何が合ったのかを事細かに話す。私も適当に切り上げれば良いものを、話を聞いているうちにどんどん盛り上がっていって、最近では毎日のように私はその場で寝落ちしていた。


  ◇  ◇  ◇


 僕は眠かったけど、いつもの通りお姉ちゃんと由佳ちゃんの間に座ってお話に参加していた。


  ◇  ◇  ◇


 畳の上に、私が買ってきたばかりの緑の怪獣のスマートフォン置きが落ちていた。あまりにかわいすぎて、会社に持っていく勇気がなかなかでないのだ。


  ◇  ◇  ◇


 僕の目の前には、由佳ちゃんが買ってきた、ぬいぐるみみたいな怪獣が落ちていた。


  ◇  ◇  ◇


 と、ロンがあくびをしながら思いっきり伸びをした。


  ◇  ◇  ◇


 眠くなった僕が口を大きく開けて背中を反らせると、怪獣がちょうど口元に来たので咥えてみた。


  ◇  ◇  ◇


 「えっ」姉も私もロンを見た。ロンがおもちゃを咥えるだなんて、初めてのことだ。正確には、ロンのおもちゃではないのだけれど……。


  ◇  ◇  ◇


 咥えた怪獣はなんだか噛み心地がよくて、ガブガブと噛んだ。


  ◇  ◇  ◇


 姉と私は顔を見合わせて、同時に笑いだした。今までさんざんおもちゃを買ってきたのに。なんでよりによって私のスマートフォン置きなのだ。


  ◇  ◇  ◇


 僕はなんだか楽しい気分になって、ブンブンと怪獣を振り回した。


  ◇  ◇  ◇


 姉と私はますます笑った。そして、涙がぽろぽろとこぼれた。


  ◇  ◇  ◇


 お姉ちゃんが怪獣の脚をつかんできて、僕と引っ張り合うような形になった。それがまた楽しくて、僕は前脚で怪獣を押さえつけ、またガジガジと噛んだ。


  ◇  ◇  ◇


 姉と私は、嬉しくて嬉しくて言葉が出なかった。

 ただただ楽しく、笑って泣いた。

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