第7話 歯ブラシ
ある日、僕の大好きなお姉ちゃんが僕に嫌なことをしてきた。僕の口の中になにか棒切れを突っ込んできたんだ。僕は何も悪いことしてないのに、なんで棒切れを口の中に入れられなきゃいけないのか、全くわからない。
お姉ちゃんは僕の口の中に棒切れを突っ込みながら、僕に優しく話しかけていた。どうやら僕に怒っているわけではないみたい。だけど少し痛いから、もうやめてほしいのに、お姉ちゃんはしつこかった。
前にいた場所でもらっていたご飯は、柔らかくて僕は噛む必要が全くなかった。そのせいか、僕の何本目かの歯は抜けてしまっていたし、今にも抜けそうにグラグラしている歯もあるんだ。そこをゴシゴシされるとすごく痛いのに、お姉ちゃんは決まってそこばかりを攻めてきた。
僕、何か悪いことしたのかな。
毎日毎日、僕がどんなに嫌がってみせても、お姉ちゃんは決まって僕が眠りにつく前に、その棒切れを僕の口の中に突っ込んだ。僕がそれをガジガジと噛むと、お姉ちゃんは喜んだ。
どんなに考えても僕は悪いことはしてなくて、だけどお姉ちゃんは毎日棒切れを口の中に入れてきて、もう僕は諦めてなんの抵抗もしないことにした。お姉ちゃんに抱っこされながら、口の中でシャカシャカシャカと小気味良い音をたてるその棒切れに慣れてきたのもある。犬である僕が人間に根負けするなんて、なかなかないことだ。だけど僕はお姉ちゃんが大好きだから、お姉ちゃんがそれをしたいのなら、僕は嫌だけど我慢したっていい。
それともう一つ、僕は我慢していることがある。それはお姉ちゃんがくれるおやつが、美味しいんだけど硬すぎること。この際だから言っておくけど、なかなか噛み切れなくて困るんだ。お姉ちゃんは僕が食べ終わるまでしっかり持っていてくれるけど、食べ終わる頃には顎が疲れちゃうんだ。
だけど気のせいかな。最近、ちょっとうまく噛めるようになってきた気がする。お姉ちゃんと僕のおやつを引っ張り合うのも、少し楽しくなってきた。でもやっぱり疲れちゃうから、このことは内緒にしておこう。
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