第6話 秋

 ロンの秋は忙しい。

 リフォームをしてから何年も経った我が家は隙間風がすごく、秋になるとすぐに石油ストーブが出される。石油ストーブはお湯が沸かせて乾燥知らず。おでんなどの煮物も美味しくじっくり作れるので、我が家では重宝している。


 そんな石油ストーブがロンを忙しなくさせるのは、そこで焼き芋が焼かれるからだ。私達が甘い匂いをキャッチする随分前からロンはそわそわとし始め、ようやく食べられる頃になると、家族の誰からもらおうか、誰がくれるだろうかと四人の間を歩き回る。この人だと、決めた人の前で行儀よくお座りをし、片時も目を離すことなくこちらを見つめる。その熱い視線に根負けしてあげてしまったが最後。ロンはこの頃では爪を立ててねだるようになってしまった。


 一度ロンが、口の周りに焼き芋のカスをつけて、更にねだってきた姿を写真に収めたことがある。とても可愛らしくて、何度も何度も見返してしまう。


 ロンは基本的になんでも食べるが、特に焼き芋と納豆には目がない。納豆に? と思うだろうが、その納豆にもよだれを垂らすのだから驚きだ。人間の食べ物はあまり与えるべきではないが、納豆なら健康によさそうだし、タレをかける前のものなら塩分濃度も心配あるまいとあげてみたら、はまってしまったようだ。今や誰かが納豆の蓋を開けるたびに、ロンはその人の元へかけよっていくようになった。


 ロンが家に来たとき、彼はもう6歳だった。事情はあまり知らないが、ロンはとあるお店に預けられ、そこで面倒をみてもらってはいたものの、主人といえる人がいない状況で暮らしていた。そのお店が移転することになり、移転先がペット禁止だったため里親を探すことになったそうだ。


 家に連れてきたのは姉だった。ロンの話を友達から聞き、里親として名乗り出た。母が犬嫌いだったので心配したが、お試しでということで最初の了解をもらい、こんなに大人しい子ならと母が安心したところで正式に引き取り手となった。


 ロンは我が家に笑いを連れてきた。それまでの我が家は、いつ終わるかわからない長い長い吹雪の中を、息をひそめて暮らしているかのようだった。ロンが来るまで母は、祖母を亡くしたことで気落ちしていた。その頃の母が、一人でテレビを見ながら夕食を食べている小さな姿は、今思い出しても胸が苦しくなる。

 一人にさせたくなかった。だが、仕事で遅くなるのはやむを得なかった。


 そんなときにロンが家に来たのだ。母をロンとをふたりにしておくのも心配だったが、むしろうまく行った。ずっと犬を飼いたがっていた、姉の作戦勝ちだった。

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