第5話 綾ちゃん

 新しいお家に来て、朝と夜がもう何回来たのか、僕がわからなくなった頃、お家に綾ちゃんがやってきた。

 綾ちゃん、綾ちゃん、綾ちゃん。

 綾ちゃん、綾ちゃん、綾ちゃん。

 僕は綾ちゃんの周りをぐるぐると回った。

 綾ちゃんは僕を抱き寄せて、いつものようにわしゃわしゃとなでてくれた。


 ねえ、綾ちゃん。

 僕がいたあの場所はどうなったの?

 僕はまた別のお家に行くの?

 僕を迎えに来てくれたの?

 僕は綾ちゃんと一緒に住めるの?


 ねえ、綾ちゃん。

 僕は、どこにいるのが幸せなのかな?


 僕には質問がたくさんありすぎて、さんざん綾ちゃんの周りをうろついた。僕が落ち着きを取り戻して綾ちゃんの隣に座ると、お姉ちゃんがやってきて、ふたりは仲良く話をしだした。


 そうか。ふたりは仲良しだったんだ。

 僕はお姉ちゃんにお尻をくっつけて座り直した。


 綾ちゃんは僕に美味しいササミを買ってきてくれていた。ササミは大好きだけど、綾ちゃんに散々焦らされて食べるのササミは格別に美味しい。

 そして綾ちゃんはもう一つ、丸い何かを袋から出した。なにか押すとキュッキュと音がするものだ。クンクンと思いっきり匂いを嗅いでみたし、綾ちゃんも僕用に持ってきたもののようだったけれど、美味しそうな匂いはこれっぽっちもしないし、どうしたらいいのかわからなかった。


 少しのどが渇いたのでお水を飲みに行ったその時だった。僕の左の後ろ脚が変な動きをしたのは。脚を持ち上げただけなのに、ピクピクと変な動きをして止まらない。歩くことに支障はないけれど、動かす度にプルプルと震えて気持ち悪い。


 お姉ちゃんと綾ちゃんが心配そうに僕を見ていた。お姉ちゃんは水飲み場から帰った僕を抱き寄せ、左の後ろ脚をたくさんたくさん撫でてくれた。それでもたまに僕の脚は震えていて、お姉ちゃんをこれ以上心配させたくないのに止まらなかった。


 しばらくして綾ちゃんが立ち上がった。お姉ちゃんとお話しながらお外に行く方へ向かっていく。僕は置いてけぼりだった。


 どうやら僕はまだ、このお家にいていいらしい。

 綾ちゃんが帰ったあと、またお姉ちゃんが僕のところにやってきて、脚を優しく撫でてくれた。

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