第3話 昔の記憶
僕の名前はロン。綾ちゃんに連れられて、最近新しいお家にきたばかり。
このお家は四人家族で、僕のお世話はいつも優しいお姉ちゃんがしてくれる。僕の名前を一番多く呼ぶし、お散歩もご飯の用意もお姉ちゃんがしてくれる。ちょっと痛いことをするあの場所に僕を連れて行くのもお姉ちゃんだけど、僕はお姉ちゃんが大好きだ。
あとは、最初僕を怖がっていたお母さんと、あんまりお家にいない由佳ちゃん、そして忘れちゃいけないのがお父さんだ。お父さんはこの家のボスだから、僕のボスでもある。ボスの言うことは絶対だ。ボスは他の三人のことをとても大切に思っている。だから、僕はみんなと仲良くする。例えおはようとおやすみの挨拶をするだけの由佳ちゃんのことであっても。
いつもお家にいないその由佳ちゃんがめずらしく僕と二人でお家にいた日、僕らは初めて一緒にお散歩にでかけた。由佳ちゃんは僕と初めてのお散歩に張り切っているのか、緑と川の匂いのする方角へ僕を連れて行った。お姉ちゃんやお父さんとのお散歩のときには来たことのない所まで、どんどん進んでいった。僕も調子がでてきて、どこまででも行ける気がした。
小さな橋を渡ったその時だった。僕はどこか懐かしい場所にいた。
辺りを見回す。
僕はここを知っている?
気になって調べたくなった。
辺りをくんくん嗅ぎ周り、よく周りを見渡して、どんどん進んでいった。由佳ちゃんが戸惑っているのもわかっていたけど、由佳ちゃんの言うことはお父さんやお姉ちゃんの言うことほど強くない。
車通りの少ない住宅街。川沿いの道から一本入ったところ。同じような建物がたくさんならんでいる、突き当りの白いお家。僕はこの家に懐かしさを感じた。玄関に座って誰かが出てくるのを待った。由佳ちゃんは僕を引っ張って、川沿いの方へ連れて行こうとしたけれど、僕はここを動きたくなかった。
だって、僕の知っている人がここにいるかもしれない。顔は思い出せないけど匂いを嗅げばわかるはずだ。僕が小さい頃、たくさん遊んでくれた人。会いたい。もしかしたら、この白いお家の中にいるかもしれない。あの人に会いたいんだ。あの人がここにいるのか確かめたいんだ。
僕はずっとその場所を動かなかった。
でも、誰も出ては来なかった。
由佳ちゃんはずっと困ったような顔をして、僕になにか話しかけてた。
誰も出てこなくても、僕はずっとずっと待っていた。
最後には、由佳ちゃんは僕を引きずるようにして、新しいあのお家へ連れ帰った。
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