第2話 春
ロンのくるくるとした茶色い巻き毛は芝生の緑によく映える。
ロンがうちに来てから3年が経った。父はよく話すようになり、母は犬嫌いが治り、姉は車を買った。家族間のやり取りはいつも、ロンで始まりロンで終わった。いまや我が家はロンを中心に回っている。今日も姉の車でロンを広い公園に連れてきたところだ。
ロンが来た日のことはよく覚えていない。だが、それから数週間のことは今でも思い出せる。ロンは一声も発することなく、いつも誰かにお尻をくっつけて座っていた(犬はお尻を人にくっつけると安心感を得るらしい)。そんな大人しいロンが元気になるのはお散歩のときだけで、私が初めて連れて行ったときは、予想もしないはしゃぎっぷりに驚いた。家の門を開けた瞬間に飛び出していってしまったのだ。いつもゆっくり動き、飛びかかることもなく、声もあげないロンが突然走り出すなんて、思いもしなかったから新鮮だった。それで知った。いつもは大人しいロンだけど、本当はお散歩の大好きな、どこにでもいる、やんちゃでかわいい犬だったのだ。
ロンはそのやんちゃな部分を隠していた。大人しく息をひそめて、じっと様子を伺っていた。家族の誰かにお尻をくっつけて安心しようとしていた。私たちはその度にロンを優しくなでた。それでも、ロンはよく脚を痙攣させていた。痙攣の理由がわからない私達は、そういう癖なのか、病院に連れて行った方がよいのかと思案したものだ。でも、いつの間にか痙攣はなくなっていた。
今になって思う。知らない家、知らない人に囲まれて眠る。人間を信頼してはいるものの、ストレスがロンの脚を痙攣させたのだろう。あの時のロンがどんな気持ちでいたのか、想像することもできない。ただ、緊張していたことだけは確かだ。
そんなロンも、やがてピンポンの音に吠えるようになり、テレビに動物が映ると唸り声をあげ飛びかかるようになった。私たちの家を自分の家と認めてくれたのだろう。私達はライオンや象に吠えるロンに対し、ロンちゃんには敵わない相手だよ、と笑いながら、また春の穏やかな公園に連れて行ってあげようと思うのだった。
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