美しい人ほど、薄命で、散り際に独特の印象が付きまとうのは何故でしょう。彼女の香りというのが、未だに残り香としてそこにあるような気がしてきます。そういう人物に、彼も、我々読者自身も、どうしょうもなく惹かれてしまうのですね。
雨の降る季節に咲く花を主題とした本作は、立ち止まっていた青年がある不思議な体験を通して、再び歩み始めるまでの物語。止まない雨の中、ひとり孤独に立ち止まっていた時間を、無駄と捉えるか、それともそこに何か意味を見出すか。水が流れるように時もまた流れ、どんな過去もいつか思い出となる。それがいい思い出となるか悪い思い出となるかは、きっと過去ではなく、現在に依るのでしょう。物語を総括する青年の語りが、終幕と共に爽やかな余韻を感じさせられます。