俺とレッドが出会ったのは十年くらい前かな?いや、十五年?多分それくらい前だったと思う。


ピンクはそんな曖昧な感じで話し始めた。


あれはそう……俺が日本のいざこざに嫌気がさして、そうだ!海でも見に行こう!って事でコスタリカのココ島を目指してた時だったね。


あそこは綺麗なんだよねぇ、コスタリカの西海岸から片道三十時間以上はかかるんだけどね!ははは!それでも行く価値があるくらい美しい秘境なんだよ!そうだ、今度グリーンも一緒に行こう!絶海の孤島なんだけど、サメがウヨウヨしてて……ってまた話がそれた。ごめんごめん!


それで、船に乗って二十時間。夜にふと目が覚めた俺は甲板に出たんだ。何となく、いつもなら絶対二度寝するんだけど……なんの魔が刺したかなー?そしたらさ、レッドが居たんだよ。居たって言うよりは海に流されてた。


いやぁーあれにはかなりビックリしたね!あんな絶海に、見た目十二か十三歳くらいのの女の子が流されてるんだから!とりあえず俺は引き上げたよ。服は着てなかったんだけど、俺はロリコンじゃないから大丈夫だった。


明かりの無い暗い海の中で、彼女の赤い髪だけが目立ってて不気味だったよー本当。引き上げた時、流されていたとは思えないぐらい彼女の呼吸は整っててね……引き返すのも何か嫌だったから、そのままココ島に向かう事にしたんだ。


だって二十時間も船に揺られてたんだよ!?今更引き返すのとか無理無理!てかもう今思えば彼女の息が無かったらそれはそれでココ島に向かってたよ!


え、そんな顔しないでよグリーン。寧ろ息がもう無いなら引き返すのも無意味でしょうが!


でまぁ、ココ島に着いて、俺はのんびりバカンスしてた訳。横に赤髪の子供を寝かせて。うん、今思い出すとかなり異様な光景だね。良かったよ、孤島で。


彼女の目が覚めたのはココ島に着いて三日目の晩だったかな?俺が寝てたらさ、物凄い爆発音みたいなのが聞こえて、慌てて飛び起きたんだよ!


いやいやこんな絶海の孤島で有り得ない!何事だっー!?って。横を見れば彼女が居なくて、それも焦ったね。まさか音の正体が彼女だなんて、その時は思わなかったけどさ……


爆音のする方へ俺は走ったよ。いや、嘘。歩いていった。だって寝起きだったし、そもそも走るのとかしんどいし。


そしたらココ島の木々を素手で殴り倒しながら暴れ狂う赤い髪の彼女が目に入ったんだ。色んな物や人を見てきた俺だけど、流石にアレは初見だった。


唸りながら、赤い髪を乱して、一心不乱に辺りを喰らい尽くす勢いで暴れる彼女を少しの間固まって見つめた。


それで思ったんだ。


あ、ココ島守らなきゃ!!!


って。いや、俺のサンクチュアリが見ず知らずの子供に荒らされまくってるんだよ!?俺はその時ココ島の叫び声を聞いたんだって!


いやなんで素手で大木を殴り倒してる奴に飛び込んで行けたのかって聞かれたらさぁ……あそこまでは無いにしろ、そりゃ俺も数々の修羅場をくぐってるからね。


まぁその判断は甘かったんだけど……その時に俺はコレ、右腕一本捥がれた訳よ!ははは!めっちゃ痛かった!でも、ココ島は守れた!


今となっては笑い話だからさ、そんな顔しないでよグリーン。え?引いてるの?俺に?え?


ココ島とに比べたら俺の右腕なんて安いでしょ!うわー…そうか、普通は引くのか。あははは。


でもまぁ、それでとりあえず彼女は止まったんだよ!なんで止まったのかは分かんないけど、俺の腕を握り締めて止まった。もう髪の毛所じゃなく全身真っ赤になって、それでも静かに森林破壊を止めたんだ。


俺はとりあえず髪の毛を縛ってたゴムで右腕を縛って止血したんだけど……流石にこりゃ出血多量で死ぬわーと思って、家の奴に迎えにこさして彼女と二人、日本に帰ってきました!


ココ島ってヘリで行くと凄く近いんだ。笑える位。




「ちょっと、何か閥族キンドレッドの話よりも壮絶だったんですけど…。」


僕は二人の出会いに絶句した。確かにピンクが義手なのには理由があったんだろうし、少しは気にもなっていたけれど…まさかそんな過去があったなんて、驚きを通り越して驚愕だった。


それに、フラリとココ島へ行ける財力を持つピンクと、ヘリを出してピンクを迎えに行ける家とは……彼にも何か秘密があるのだろう。


「っとまぁそんな訳で幼いレッドは俺の元に来た訳さ!」

「最後ざっと纏めすぎでしょ!?」

「えぇーーー、本当にこれ以上は何も無いんだって!海に落ちてた赤い少女を拾った!その少女に腕を捥がれた!一緒に帰ってきた!それで終わりだよ!?」

「そんな軽く三段階で説明出来るほど浅い内容なんですか!?」

「俺的にはこれが限界なんだけど!」


なんだか結局、ピンクの話が本当なのか嘘なのか判断できないまま二人の出会い話は終わってしまった。少なからず僕も、レッドとは衝撃的な出会いをしたと思っていたけれど、ピンクの話を聞けばなんだかそんな出会いでさえ普通に思えてしまった。


「ほら、さっきも言ったでしょ?本名も素性も歳も、何一つ分からないって。分かってるのはあの暴君みたいな性格と赤い色、怪力と言うには説明のつかない力と馬鹿みたいにヒーロー思考だって事だけ。」

「そもそもレッドのヒーロー思考はどこから来たんですか?」


初対面でピンクの腕を捥ぎとった彼女が、あれ程までにヒーローに固執している理由が僕には分からなかった。そのまま、狂戦士のように育ってしまってもおかしくなかった状況だろうし、今でもその片鱗はありそうだ。


だけど、ああして自分をスーパーヒーローだと誇示し、少なからず暴走すること無く力を抑えられているのには、何か深い訳があるように思えた。


「あぁ……それはね、こっちに帰ってきてから俺がスーパー戦隊ゴレンジャイを観せてたからなんだよ!」

「安易!」


なぜか自慢げに笑うピンクに僕は激しく突っ込んだ。


「いやさ、彼女。レッドってば、一旦は俺の腕を抱いて大人しくなったものの、日本に帰ってきてから殆ど話もしないし、虚ろだし、かといって俺の腕を取り上げればまた暴れて施設を半壊させるしで…もうどうして良いか分からなくってさぁ。」


話さなくて虚ろな彼女だなんて、今のレッドからは想像つかない。あんなにも感情豊かで、豪快に笑い、盛大に怒りを表す彼女にそんな無機質な時代があったなんて。


「意思疎通が出来ない上に、あの驚異的な力って…もう危険物でしょ?災害でしょ?あの力がもし、閥族キンドレッドの誰かに付いたら?執行人になってしまったら?日本は…いや世界は滅茶苦茶になってしまう。」


ピンクは当時を思い出すように、自分の掌を見つめながら言った。そんなの、俺の愛する平等な均衡じゃない。と言わんばかりに。


「もう来る日も来る日も心配で……毎日七時間しか眠れなかったよ。辛かった。」


僕は突っ込みたかったけれど、これは突っ込んだら負けなんだと自分を戒めた。


「だから、彼女がその力を"何かを守るため、誰かの役に立つため"に使う事を覚えるようにと願って……スーパー戦隊ゴレンジャイ全72話を観せたんだ!」

「まぁまぁ話数多い!?」


くそ、つい突っ込んでしまった。僕の突っ込みにニヤニヤ笑うピンクを疎ましく思う。


「それが功を奏してね!ある日、彼女が言ったんだ……"あたしもレッドになれる?"って。そりゃもうあの瞬間のレッドは滅茶苦茶可愛かったね!俺に父性が目覚めた瞬間だったよっ!!」

「なるほど…それで彼女は自分の事を"レッド"と…」

「俺はその時、ここぞとばかりに畳み掛けたよ。"君は生まれながらにしてレッドなんだよ。見てご覧?君の髪はこんなにも美しく赤いだろ?これが証拠だ!"ってね。」

「半ば無理矢理に騙してる感はありますけど…ピンクのその判断は確実に正解でしたね。」


ニヤニヤしながら子供を丸め込もうとするピンクを想像して、僕はなんだか身震いした。まぁそのピンクの判断が無ければ、今頃世界はレッドの手によって混沌の渦に飲まれていたのかもしれない……し、そうでないのかもしれない。


「ナイス俺!素晴らしい俺!さっすが俺!それからレッドは明るくなった。赤くなったって言うのかな?目標を見定めた子供の成長は恐ろしいよー?めきめきぐんぐん身長も伸びに伸び、今のちょっぴりバイオレンスなレッドの出来上がり。」

「確かにバイオレンス要素は垣間見えますね。」

「あればっかりはもう、ね。レッドは喜怒哀楽の哀が無いからね。基本的には怒にステータスを極振りって感じだけど!」


それでも今の彼女はきっと、幼い頃の彼女より感情豊かで話の通じる人だと思う。猪突猛進も、そう悪いものじゃあ無い。


僕はその時、そんな勘違いを起こしていた。

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