7
エレベーターが開きリビングに入ってくるや否や、レッドは僕の隣に腰を下ろした。長い足を組み、僕の肩に腕を回しながら晴れ晴れしいほど豪快に笑いながら
「っさいっこーの気分だぜ!」
と言い放った。ヴェノムGTに乗って何をしてきたのかは分からないが、それはそれはもう悪魔が消えたかのように爽快な笑顔だ。
「レッド、全裸みたいな開放感の中悪いんだけど。
「あ"ぁ?そーゆうちまちました情報集めんのはピンク、お前の役目だろ!?それになぁ!一つ言っとくけど、全裸っつうのはもっと開放感があるんだよ!」
全裸談義は置いておくとして、
「ほら、俺はグリーンに
「まだしてなかったのかよ!?チッ…どーせまたグダグダと話を脱線させてたんだろ?ん?………おいグリーン、脱線する内はまだ良い、口説かれ始めたら直ぐあたしに言えよ?ぶっ殺してやるから。」
そんな物騒な事を耳打ちしながら、僕の肩をぐっと抱き寄せるレッドに、少しドキドキしながらピンクを見る。
「あははは、大丈夫大丈夫。俺がどれだけ平等な均衡を愛してやまないからって、流石にレッドのお気に入りに手は出さないよ!」
僕はピンクの平等な均衡は男女差も無いのだと思い知り、少し鳥肌が立った。別に差別するわけでは無いし、そういう人もいると理解している。けれど、自分が狙われるかもしれないと思うとそれはまた別の話だ。
「ったり前だろ。ま、とりあえずあたしは仕事のできねーピンクの代わりに
「いやいやレッド!調べてって言うのは乗り込んで来てって意味じゃ無いからね!ねぇ!ちょっ、聞いてる!?」
ピンクの叫び声も虚しく、僕の頭をクシャクシャと撫でたレッドは、嵐のようにリビングから出ていってしまった。響くのはエレベーターの«───行ってらっしゃいませ、レッド»と言う機械音。
「あーあ…面倒な事にならなきゃいいんだけど…」
「確実に乗り込みそうな勢いでしたけどね。」
「
やれやれと困り顔のピンクだが、どこか喜びを頬に浮かべているように見えた。
「それじゃ…レッドにも言われた事だし、そろそろ
「両親が殺されたことで、ですか?」
「まぁそれは結果だね。
僕はふと父を思い出していた。その死に様ではなく生き様を、だ。しかし正直に言えば、余り父の事を知らない。誕生日と血液型、芋焼酎が好きだって事位しか知らない。
家に仕事は持ち込まず、真面目で誠実な人。それが僕が父に持つイメージだった。寡黙だが決して仏頂面な訳ではなく、楽しそうに話す僕と母を見ながら暖かく微笑んでいる人。
遅くまで僕が受験勉強していると、好物のプリンをそっと机に置いてくれたり
急な雨が降れば、ついでだと言いながら仕事の帰りに車で迎えに来てくれたり
母との結婚記念日には必ずプレゼントを用意し、二人で祝っていた。
本当に、絵に書いたように背中で語る父だったと思う。まぁそれも僕が見ていたほんの一部で、全然何も分かっていなかったのだと、今になって現実を突きつけられている訳だけど。
「まさか
だった。
その言葉の響きが僕の中で虚しく繰り返される。
「僕は、父が研究所の所長だって事は知っていたのに…それ以外は何も知らなかったんですよね。どこで働いているのか、何の研究をしているのか、なぜそんな怪しい組織に雇われたのか…」
「まぁ子供って言うのはそんなものじゃないかな?親の事なんて小指の先程も知らない。逆も然り、だけど。」
ピンクはそう話しながらレッドが乗って行ったエレベーターをちらりと見た。その視線が気にはなったけれど、直ぐにこちらに顔を向け、また話し始めたピンクに、僕は集中することにした。
「それで、
「聞いた事無いですね…」
「そりゃあね!さっきも話したように"人知れず世界を救ってる誰か"の存在や"人知れず世界で暗躍している誰か"の存在なんて、表立って出てくる訳無いんだから。表立ってるのは大手企業やら産業、芸能人とかアイドル、そんなんでいーんだよ。」
ピンクはヒラヒラと手を振りながら、いたずら好きの子供が見せる意地悪な微笑みを浮かべる。
「
「その人達が世界を回してるんですか?」
「世界はまた別だよ!関わる事はあるけれどね。回してると言うより、回している一端を担っているって方が正しいかな。人間みな社会の歯車って事だよ!俺も!グリーンも!レッドでさえもね!」
世界の中心みたいなレッドの存在でさえ歯車だなんて、やはり世界は広い。そんな分かりきっていた事を改めて実感した。
「そんな歯車の中の一つである四斗辺家が今回、レッドや俺、グリーンの歯車に噛み合ってきた訳なんだけど……」
「でも、父を雇っていたのは四斗辺家では無いんですよね?」
「だね。それは三反園家だ。」
父は
「概ね正解!話が早くて助かるよ、本当。レッドはこのレベルの話でさえ聞いてくれないし理解してくれないからね…大変なんだ。この前も話が長いとかって苛立ってさぁ、上のお店半壊させそうになるし……」
ここまで話すのに割と遠回りした経緯を思えば、レッドが苛立つのも無理ないかもしれない。彼女の短気で短的な性格ではピンクの遠回りに耐えられないだろう。
「それじゃあその四斗辺家が僕の両親を殺した犯人って事なんですね。」
僕はグッと強く拳を握る。だが、そんな大きな一族を相手にして、僕ができる事などあるだろうか?警察に通報?いやいや、日本を牛耳っていて世界にも関わっているような団体だ。警察に根回しがない訳が無い。
どうせ僕が通報したところで、事件か事故で纏められるのが関の山だろう。犯人だって捕まるか分からない。それこそどこかの誰かが冤罪を着せられ、連れてこられるかもしれないのだ。有り得ない話では無い。寧ろ有り得そうな話だ。
「まぁまぁまぁそう答えを急ぎなさんな若者よ。」
思考の進まない僕に、ピンクは老人の真似をしながら相変わらずおどけた様に声をかけた。
「
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