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その後やっと言葉を発することができ、壁の事を聞きながら歩く僕に「スーパーヒーローだから」「そうゆーもんだから」「しらねー」「あたしの事はいいんだよ」と適当に返事をされながら僕達は裏路地を抜けた。
「それじゃあグリーン!乗れ!」
路地裏を抜け、街に出た僕にレッドが乗れと親指を立てて指さした先には
ヴェノムGTがとまっていた。街中でこのレベルの高級車がとまっているってだけで目立つというのに、そうだよなと言うべきか、その車体は彼女に合わせて真っ赤に塗装されていた。
この平和かつ平穏で平凡な街には実に似つかわしくない車。誰がこんな目立つ車乗るんだよ、ってレッドか。
「これ、ヴェノムGTじゃないですか。」
僕は一般的な男子として、つい口をついてしまった。
「お!流石グリーン!ヴェノムGTを知ってるとはなぁ!やっぱりあたしが見染めた男だな!」
ヴェノムGTに気を取られていたが、今彼女は僕のことを"見染めた男"だと言わなかったか?
「苦労したんだぜぇこれGETすんの!なんせ世界最速、生産量さえ満たしてればギネス記録を保持してる子だからなぁ。それに見ろ!このワイルドボディで艶やかな見た目!フロントスポイラーや可変式リアウイングの可愛さったらもう!なのに1,244馬力を誇るGMの7リッターV8ツインターボエンジン積んでるっつーかっこよさ!DB11と悩んだんだけどよぉ!なんつってもヴェノムGTのこの!前輪の曲線美よ!っかぁーー!堪んねぇーな!」
真っ赤な高級車ヴェノムGTに張り付き、撫で回しながらつらつらと話す真っ赤な女はかなり異様な光景なのだろう。先程から通行人の目が痛い。
「レゲーラも可愛いんだけどよぉ、なんつーかガルウィング式が気に食わねーっつうか、男なら小洒落てねーで普通にバシッ!とドア閉まれよ!!って思うだろ!?」
男では無く、車なのだけれど…と喉まで出かかった言葉を僕は飲み込んだ。ザワザワと集まりだしたこの人混みから早く立ち去りたかったのだ。
「レッド!とりあえず乗りましょう。続きは中で聞きますから!」
僕はレッドを取りまとめる様に、車に乗るよう促した。彼女は渋々、と言った感じだったが「お前もそろそろ走りてーだろぉ?」とヴェノムGTをもう一撫でして運転席へと乗り込んだ。
「あとさ、あとさ!IEも欲しーんだよなぁ!あのメタリックなカーボンボディは舐めても上手いぜ!なんつったってカーボンってことは超軽量だろ!?それで加速が2.7秒って事も頷ける!それから馬力は劣るがマクラーレンの720Sも有りだな!エアインテークと一体になってるデザインがさいっこーにエロい!メジャーなとこでブガッティもいいんだけどよ、あたしはシロンよりヴェイロン派だったからなぁーまぁタイヤが開発されたら欲しーよなぁ!あぁーでもウアイラも───」
「レッド、ちょっと話を戻しませんか?」
走り出したヴェノムGTの車内で、爛々とスーパースポーツカーについて息付く暇なく話し始めた彼女を、僕は遮った。
「あ、そうだな。ヴェノムGTって言えば──」
「いやいや、もっと前ですよ!誰がヴェノムGTの話に戻そうって言ったんですか、僕の両親の話ですよっ!」
僕は勢いよく走っている車の中で勢いよくツッコんだ。こんな漫才みたいな掛け合いをしている場合では無いのだけれど、レッドと話していると両親の死が嘘のように思えてしまう。完全に彼女のペースに巻き込まれてしまっているようだ。
「わりーわりー、つい。車の事となると周りが見えなくなっちまうんだよなぁー。」
彼女と過ごした数分を思えば、周りが見えなくなるのは車の事だけでは無さそうだけれど。
「それで、僕の両親が誰かに殺されたって言うのは理解したんです。理解したってだけでまだ受け入れられはいないですけど…と言うか僕は両親の遺体を放ったらかして何をしてるのか…。」
「あ?…あぁ、それに関しては大丈夫だ!」
両親の遺体を裏路地に野晒にしたままレッドの車に乗り込んでいる僕の、どこがどう大丈夫だと言うのだろうか?普通は警察に通報するべき所だろう。
「後で
レッドは前を見たまま淡々と言った。
もう会えないんじゃないかと思っていた。いや、実際問題、現実的にはもう会えないのだけれど…それでも両親との最後があんな風だったなんて、後生後悔するだろうから。
「落ち着いたらって、父と母を殺した犯人が見つかるまで、とかそんな事ですか?」
「んーー、いや、犯人は分かってる。」
「え?」
これは衝撃的な事実だった。レッドはどこまで両親の死に関与しているのだろうか。
「分かってるっつーか、知ってる?特定出来てる?いや、特定はできてねーか…いやぁ、でも…」
ブツブツと続けるレッドだが、彼女の中で"分かっている"と"特定出来ている"は同義語では無いのか、何やら怪訝な顔をしていた。
「まぁ後の話はピンクに聞いてくれ!」
ゴチャゴチャと考えるのが面倒になったのか、レッドは匙を投げた。
「ピンク?」
「そ!あたしがレッド、お前がグリーン、それならピンクもいて然り!だろ!?」
だろ!?と言われても、素直にそうですね、とは言えない。確かにレッド、グリーンと来て戦隊モノでは無いだろうかと思ったりもしなかったけれど、まさか本当にピンクがいるだなんて。
ましてやこの状況下で戦隊モノ?有り得ない。彼女がレッドなら、その仲間であるピンクはどんな人なのかと想像が膨らむ。
「よーし!到着だ!」
僕がピンクと呼ばれる人物を想像しようとしたその時、レッドの大きな声と共にヴェノムGTが停車した。流石、世界最速、ギネス記録の車だ。あっという間に街を離れ、住宅街を越え、山を越えた。
僕は車から下り、到着だと言われた場所をまじまじと見る。
「ここ…駄菓子屋じゃ…」
看板こそ無いものの、店頭に並べられた数々のお菓子を見て、僕は目を疑った。古き良き、昭和の駄菓子屋さん。と言った所だろうか、店の前には小さな木の椅子が二つほど並んでいた。これが山奥でなければ、僕はこの駄菓子屋の存在さえ普通に見過ごしていたかもしれない。
しかし、ヴェノムGTがとまるのに、レッドが入っていくのに、かなり不釣り合いな佇まいだ。これなら街中で見たヴェノムGTの方がまだ釣り合いは取れていたように思う。
「おーーーい!ピンク!」
店の中に入るや否や、レッドは大声でピンクを呼んだ。お菓子が並ぶその奥には、畳の敷かれた部屋があり、丸い木のちゃぶ台とうぐいす色の座布団が二枚。右の壁際には小さな台があり、その上には昔懐かしい黒電話が乗っていた。
これ、もしかしてお婆ちゃんとか出てきたらどうしよう。そんな僕の不安をよそに、奥の襖が開き姿を見せたのは、紺色の甚平を着た一人の男の人だった。
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