第278話 統合

 「シン・時間停止。」



 私は、静かに思考した。

 この体になった途端、慌てる事も心臓がドキドキする事も無い。だって、心臓が無いのだから。

 思考は実にスムーズだ。自分のキャパを超えてテンパって、アワアワしちゃう事も無い。

 どんなに無理な仕事量だって全部同時にこなせてしまう。


 完全停止した時間の中で、私は冷静に見回した。

 光の速さを超えて膨張しようとしている光球を、私はゼロの領域ヌル・ブライヒへ収納すると、熾天使セラフを二人出した。

 彼女達の翼の枚数は、12枚になっていた。



 「「御用でございますか? ソピア様。」」


 「もう、あなた達をジニーヤと呼ぶのはよそう、熾天使セラフと呼ぼうかな。翼が12枚になっちゃったけど、私を決して裏切らないでね。」


 「滅相も御座いません。地球の神話の話ですか? お戯れを。」


 「ご用件を御言い付け下さい。」



 真面目に成っちゃってまあ、もうキャピキャピルンルンとか言ってくれなさそう。



 「「きゃぴきゃぴるんるん」」



 いや、真面目な顔で言われても……



 「では、あなた達に仕事を命じます。右のあなたは、人工太陽を、左のあなたは、エネルギーフィールドをお願いしたいの。出来る?」


 「「出来る? では無く、やれと御命じ下さい。ソピア様からのエネルギー伝達効率が100%を超えましたので、ソピア様の出来る事は全て肩代わりする事が出来る様になりました。」」



 何だよ、完璧にハモっちゃって。幽体離脱とか、アジの開きをやって欲しい。



 「ゆ~たいりだつ~」

 「アジの開き~」



 いや、ギリシャ彫刻みたいな美女に、真顔でやられても……



 「ちゃんと出来ていませんでしたか?」


 「いや、あ、うん、なんか…… ごめんね。じゃあ、太陽とフィールド、お願いします。」



 人工太陽は、私が右セラフにバトンタッチした。エネルギーフィールドの方も大丈夫そうだ。








 「さて、さっき私に話し掛けてきたのは、ヴァラハイスね?」


 『!--そうだ。--!』


 「今の私なら、全てを理解したよ。お前は、私に自分を殺させたのだろう。」


 『!--その通りだ。お前には嫌な仕事をさせてしまって、済まないと思っている。--!』



 ヴァラハイスは、この星の住民である『我が子』と、自分の創造主クリエイターである惑星の『生みの親』との間で、演算エラーを起こしてしまっていた。


 生みの親を活かせば、我が子は存在しなくなってしまう。

 逆に、我が子を活かせば、生みの親は消滅する。


 惑星が存在する世界と、この星が存在する世界は、分岐した平行世界となり、永遠に交わる事は無いのだ。

 ヴァラハイスは、永遠に答えの出ないループ状態に入ってしまっていた。


 ヴァラハイスは、再起動リブートしなければならなくなった。このままでは、おのれのエネルギーの大半を、このループ演算に費やされてしまい、まともな世界管理に支障をきたしてしまうから。

 だけど、それが出来る創造主クリエイターはもう居ない。



 自分を殺して再生してくれる者を創らなければならない。



 自分の手で創らなければならない。

 自分の能力を超える者を創らなければならない。


 こうして、主神核プリマ・ディオ・マハーラのコピーとも言える、中央神核メソ・デイティ・マハーラとそのクライアントの四神竜のシステムを地上に置いた。

 中央神核メソ・デイティ・マハーラが独自に進化し、いつの日か、主神核プリマ・ディオ・マハーラを超える日まで。

 因子をばら撒き、クリスタルの中で眠って待った。

 しかし、炭素体ユニットにんげんの寿命は短い。だが、逆にそれが好都合だった。

 様々に混ざり、進化を繰り返して、きっと何時の日にか、自分を超える性能の者が訪れるだろう。

 選別の仕組みも造った。

 自分の力で謎を解き明かし、この内部世界までやって来る事が出来る者を待った。


 最初にやって来た者は、全く期待外れだった。

 その次も

 その次も……

 

 地上では数百年から千数百年に一人の割合で、神は誕生しているのだが、この地下世界までやって来る事の出来た者は、更にその中の1万分の1だった。

 確率が低い。

 ヴァラハイスは、長い年月を待たなければ成らなかった。



 ……そして、12億6千万年の月日が流れた。



 25人目にして、ソピアがやって来た。

 前回の神が来てから、僅か数百年しか経っていない。

 ヴァラハイスは不思議に思ったが、納得した。影の助力者が居たのだ。

 ソピアの前に来たハーフエルフの神、名前は確かジャンヌと言ったか、彼女はとても頭の良い女だった。

 能力は満足のいく物では無かったが、ヴァラハイスの意図を正確に理解し、独自の方法で協力してくれていたのだ。


 平行世界パラレルワールドから神格因子を持つ者を探し出し、ソピアへ送り付けていた。

 この世界の中に有る神格因子だけでは、自然に組み合わさるのを待っていては時間も掛かるし、数も足りないと見抜いた彼女は、先代の神々と同じに内部世界で休む事を選ばず、外の世界で平行宇宙を渡り、他からも神格因子を持って来る方法を思い付いた。


 こうして、88個の神格因子と異世界の知恵と技術、ヴァラハイスの能力が組み合わさリ、第10次元理解者を生み出すに至った。

 想像以上の出来だった。



 後は計画通り実行するだけ。



 だけど、僅かな誤算があった。

 人間が、こんなにも仲間を大事にする優しい生き物だったとは。

 このままでは、ソピアは他人が足枷に成って、能力を発揮し切れない可能性がある。

 現に、いざ戦闘になると、サポートに回ってしまう場面が多々見受けられた。


 これでは駄目だ、もっと追い込まないと。

 ソピア以外の人間を殺さない様に手加減をしていたが、手段は選んでいられない。何とかソピアを誘導しないと。



 「ふうん、やっぱりね。そんな気がしていたんだ。だけど、あなたの思惑通りにはいかないよ。」


 『!--何故だ。何故我の苦しみを分かってくれない?--!』


 「私は、全部救うよ。あなたも含めてね。再起動リブートして、惑星で死んで行った創造主クリエイター達の事を忘れてしまおうなんて道は、選ばせない。」



 今の私は、頭蓋骨の内部に収められた小さな演算装置に頼る事無く、全てのイメージを具象化する事が出来る。



 「第10次元最高真理発動! ”if”で隔てられた2つの平行世界を1つに統合する!」



 私のイメージは、惑星とコロニーが衝突しなかった世界と、した後のこの世界を1つに融合してしまう事。

 では、このコロニーに纏わり付いている岩石や水や空気は何処から来た事に成るのか? そんな事は知った事じゃない。

 全部が、『元々そうだった』世界に成るんだ。謎は謎のままで良いじゃないか。誰も困らないさ。


 私のイメージにより、2つの平行世界は統合され始める。

 皆には、少し意識がダブった感じが有った程度の感覚だったろう。


 この若い恒星の同じ惑星軌道上に、恒星を挟んで反対側にもう一つの惑星が出現した。

 今は未だ、お互いがお互いの存在を認識していないだろうけど、それも時間の問題かな。

 方や超科学文明、方や超魔導文明の世界だ。

 やがて、交流が始まった時にどうなるのかな? 融和して行くのか、戦争に成るのか……

 まあ、戦争は私が許さないけどね。

 神様視点は、結構楽しいかも。


 ヴァラハイスは、元の記憶を保持したまま、元の姿で元の場所へ再生した。



 「さあ、ヴァラハイス。あなたの望みの世界が出来上がったよ。」


 『!--おお、おおお…… 神よ! 感謝致します。--!』




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る