第273話 星の記憶
エネルギー供給が、多過ぎても少な過ぎても、ここのオンボロ制御装置は壊れる。
何しろ、何十億年前の装置で、未だに動いているのが不思議な位なんだから。
壊れると、ビッグバンで宇宙消滅だ。
何でそんな物騒な物を、古代の超科学星人は造っちゃったんだ?
よく考えたらさ、原発も一緒だよね。そうならないために、常にメンテナンス要員を付けて、見張っていなければならないんだ。
だけど、此処のシステムを造った人は、とっくの昔に居ないんだ。管理は、原初の神竜と呼ばれるヴァラハイスが行っていた。
ずっと
ずっと
何億年もの間……
でも、彼は狂った。彼女かも知れないけどさ。
彼(彼女?)は、コロニーの搭乗員の幸せのみを考えて、苦しみも悲しみも与えない様に環境を整えてきた、優しい神様だった。
だけど、文明は徐々に衰退して行く。何故だろう?
人口は徐々に減って行く。理由が分からない。こんなにも至れり尽くせりの環境を整えているのに。
彼(彼女)は、思い違いをしていた。
苦労を一切させない様に育てれば、健やかに育つに違いないと思っていたんだ。
でも、発展しきった文明は、その目指す目標を失い、やがて衰退に転じるという事を知らなかった。
過保護に、全てを与えられ、ストレスの一切無い箱庭で飼われているだけのペットは、ちょっとした怪我や病気に極端に脆弱となり、寿命を縮めてしまう事を知らなかった。文明も同じだという事を理解していなかった。
水族館のイワシは、同じ水槽に捕食者であるサメを飼うと、寿命が伸びたそうだ。
人間も同じで、乗り越えるべき壁、改善出来そうなちょっとした不満、将来の夢等の努力目標、そのちょっとしたストレスの様な刺激をすべて取り去り、全て満たされてしまうと生存意義を見失ってしまうのかも知れない。
ヴァラハイスは、どんなに頑張っても人はどんどん減って行き、あんなに発展していた都市も1つ、また1つと無くなって行くこの状況が不思議でならなかった。
何故だ? こんなに頑張って居るのに、何故減って行く?
何十億年も人間とコロニーの面倒を見続けて来た管理者は、その魂の中に何十億年分の悲しみを蓄え続けた。
神竜は、記憶を忘れる事は決して無い。第7次元を利用したその膨大な容量の記憶領域に、どんな些細な出来事も全て記憶し、蓄えて来た。
しかし、人の幸福のみを願っていた神竜の記憶には、次第に悲しみが蓄積されて行く。
人は、幸福に慣れる。幸福は、それが日常となり当たり前になると、幸福では無く成るのだ。
しかし、悲しみは、積み重ねる程に、増幅して行く……
ある時、ヴァラハイスは、コロニーの外がどうなっているのかが気になった。
外の世界に打開策が見つかるかも知れないと考えたから。
殻の一部を何とかこじ開けてみると、様子は一変していた。
白く滑らかな表面だったはずのコロニー外殻に、分厚く岩石が付着し、海が在り、大気まで在った。
これはどうした事だろう? 出発した元の星と似たような姿と成っていた。
外側の世界に何か可能性の様な物を感じたヴァラハイスは、
何億年も掛けて、コロニーの外側の世界を
科学は中世のレベルまで衰退してしまったが、彼等は再び時間を掛けて発展して行くだろう。
人々は、世界各地へ散って行き、
ヴァラハイスは、今度は失敗しない様に、必要最小限の管理だけにして、人々が自分で考え、生きていく様に見守る事にした。
人々は再び活力を取り戻し、人口も順調に増え始めた。
……様に見えた。
人々には笑顔が戻り、もちろん、悲しみも有るのだが、それを上回る夢と希望に満ちて居る様に見える。
しかし、この地に満ちている、数百億に登る絶望と恐怖の思念は一体何なのだろう?
ヴァラハイスは、時間を遡ってみた。
今在る若い恒星は、前の星系で寿命を迎えた恒星の残骸から新たに生まれた物だった。
コロニーの外側には、既に今と同じ岩石が付着している。
もっと前の時間だ。
時間は巻き戻され、恒星が生まれる前の時間へ。
歳を取り終焉を迎え、見にくく膨れ上がった赤い星が見えて来た。
恒星が終焉を迎える時には、膨張して惑星軌道をも飲み込んでしまうと言う説と、膨張に合わせて惑星軌道も広がるので、飲み込まれないという説がある。
実際、この星系では後者だった様だ。
ここの恒星クラスの質量では、超新星爆発は起こさない。静かに膨らみ、静かに萎んで消えて行く。そして、その中心に新たな恒星が生まれるのだ。
更に時間は巻き戻される。
その惑星の住民は、その科学力をもって、恒星の終焉を乗り切ろうとしていた。
計算により、恒星は爆発しない事が分かっていたから。惑星は保全されるという計算結果が出ていたから。
惑星全体をエネルギーフィールドで包み込み、人工太陽で、次の恒星が生まれるまでの暗黒期を乗り切ろうと試みていた。
そこへ、このコロニーが衝突した。
勿論、惑星側には、白い球体が衝突コースに乗っている事は、かなり前から観測されていただろう。
しかし、どの様な通信手段を試みても、球体からは返事が戻ってこない。
考え得る全ての方法を使って、軌道を変えようとしてみても、破壊を試みても、球体はびくともしない。
その球体は、惑星の太古のデータベースに記録があった。
惑星の人々は、それを棄民の方舟と呼び、蔑んでいた物だった。
伝説上の代物だと思われたソレが、今自分達へ向かって来る。
時を経て、復習に戻って来たと考えた者も居た。
やがて、人々の絶望と恐怖の内に、為す術も無く2つの天体は衝突した。
………………
…………
……
ヴァラハイスがその事実を知ったのは、衝突から十数億年後の事だった。
ヴァラハイスは、新天地を見つけ落ち着いたら、空間を渡って自分の
何億年もの間、恋い焦がれた相手から向けられる、恐怖、憎悪、悲しみの感情。
そして、それをしてしまったのは、自分自身だという絶望。
ヴァラハイスは壊れた。
もう何もしたくない。
もう何も考えたくない。
もう何も感じない……
自分の知らない内に、
故郷を破壊してしまった。
自分も死ななければならない。
自分のこれまでやって来た事は、全て間違いだった。
全部破壊しなければならない。
全てを終わらせよう。
自分の分身である、
そして、自分は誰も居なく成った内部世界へ引き篭もり、動力炉の管理機能のみを残して眠りに就いた。
自分の中には、コロニーの乗員を守るという、絶対命令が組み込まれている。
自分で自分を壊す事も、人間を滅ぼす事も出来ない。
この役割は、他の者にやらせる必要がある……
そして、ヴァラハイスは待った。
この地獄から自分を救い出してくれる者が現れるその日まで。
最初にやって来た
次にやって来た、竜族の若い雌は、そこそこ良いところまで行っていたが、自分を助けられる程では無かった。
精霊族や竜族等が次々とやって来たのだが、どれも満足の行く性能では無かった。
何億年か経った頃、魔族という見覚えの無い種族がやって来た。長い時間の内に何処かの種族から分化して進化したのだろう、かなり良い線を行っていたのだが、それでも足りなかった。
そして、25人目にソピアがやって来た。
12億6千万年の歳月が流れていた。
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