第274話 最終対決
『!--我の絶望の程がどれ程のものだったか、おまえに想像出来るか?--!』
「そんなの、過去に戻ってコロニーの軌道を変えさせれば良いじゃん。」
『!--我がそうしなかったと思うか? 出来なかったのだ…… いや、出来たとしても、結果は変わらなかったかもしれない。--!』
仮に、未来から自分がやって来て理由を知ったとしても、
もう一つ理由が有る。
事件が起こってから、ヴァラハイスは知るまでの時間が経ち過ぎていたのだ。
数十億年の時間は、あまりにも長く、歴史の根幹は変更不可能になっていた。
時間は無数に枝分かれして行き、平行世界を生み出す。
昔に変更した、些細な出来事でも、現代には大きな違いとなって現れてしまう。
これは、ある意味正しい。
だけど、それは、高々数百年、数千年レベルでの話なんだ。
時間の流れと平行宇宙を木の枝に例えて話そう。
数百年、数千年レベルのスパンだと、まだ枝の先の方で枝分かれしたばかりの新芽だ。この新芽の先端に我々は居る。
この新芽の分岐地点まで戻って、枝を折り取ってしまったとすると、我々の元居た歴史は失われ、その隣の良く似ているけれど、違う歴史の方へ進む事に成る。一見、大きく変更されてしまった様に見えるだろう。
元の枝は完全に失われ、全く別の枝になってしまったと言う位の変化に感じるだろう。
これが、ミクロ視点で見た場合の時間。
次に、数億年、十数億年戻ったとする。
木の枝は、太く強く成っていて、人の力で折る事は、不可能に思える位に太くなっている。
いくら頑張って歴史を変更しようと試みても、最早変更は不可能なのだ。少し位傷を付けられても、修復されてしまう。
そこに居る、暴君を殺して新しい未来を作ろうとしても、別の誰かが暴君となり、修正されてしまう。
その太い枝の所からは、新しい分岐は生まれないのだ。これが、マクロ視点の時間。
ミクロ視点で見れば、ものすごく大きな変更に思えても、マクロ視点で見れば、大木のほんの枝先の形が変わったに過ぎないのだ。
十数億年の時間を遡って、強引にコロニーの航路を変更する事に成功したとしても、何らかの要因が働き、修正される。
惑星との衝突は回避不可能な歴史の上に、我々は既に乗ってしまっているのだ。
逆に言うと、我々の歴史は、コロニーと惑星の衝突した後の歴史の延長線上にしか存在し得ない。
「だからって、皆殺しなんて非道過ぎるよ!」
『!--間違った時間の上にしか存在しない世界なら、初めから全部無くなればいい。--!』
なんて事。
確かに、惑星に衝突しなかった世界では、この今在る私達の世界は存在出来ない。
私達の世界を活かすなら、惑星の住人は犠牲になって貰わないとならないのだ。
ヴァラハイスにとって見れば、生みの親を取るか我が子を取るかの二択を迫られたようなものだ。そりゃおかしくもなるだろう。
だからって、ちゃぶ台をひっくり返して、『どっちも無くなってしまえー!』は乱暴すぎないか?
『!--その命題は、我の頭の中で何億回何兆回もループしている。永遠に答えは出ないだろう。--!』
「だけど! 私はこの世界を消させる訳にはいかないよ! 絶対に阻止してみせる!」
『!--成功を祈るよ。--!』
そうとだけ言うと、ヴァラハイスは再び沈黙した。
このエネルギー装置を丸ごと私の
「それだと、星の外周を覆っている、エネルギーフィールドが消えてしまうって、ヴァラハイスが言っていたわ。」
「そうだった。じゃあ、ジニーヤに、この魔導炉の代わりをしてもらうっていうのは?」
「この魔導炉の出力を肩代わりするのは、流石に無理そうです。」
ビッグバンのエネルギーを取り出しているエネルギー炉も、そのエネルギーを使って動いている魔導炉も、莫大なエネルギーを発している。流石にその代替をしろというのは無茶か。
「じゃあ、エネルギーフィールドを代わりを張ってもらうのは?」
「残念ながら、私には星全体をカバー出来る程の巨大なフィールドを張る力は有りません。」
「うーん、じゃあ、そはれ私がやるよ。多分、出来ると思う。」
きっと、ヴァン・アレン帯とか、地磁気とか、電離層とか、オゾン層とか、地上を有害放射線や色んな危ない物から守る仕組みをひっくるめたみたいな代物なんだろう。複雑そうだけど、なんとか……
「人工太陽は?」
「それも私がやる。」
「無茶よ! きっと、ヴァラハイスの激しい抵抗に合うわよ!?」
「それも私が何とかする! 絶対!」
「あたしは、ソピア様と一緒に戦います! そして、どこまでも付いて行きます!」
「仕様が無いわね、あなた達は。大親友の私が一緒に戦わない訳にはいかないじゃないの。」
「僕の事もお忘れ無く。」
私達は、お互いに頷き合い、揺るぎ無い決意を新たにした。
よし! 私の仕事は多いぞ。
「エネルギーフィールド展開! エネルギー炉は、謎空間へポイ! 人工太陽代替! そして時は動き出す。」
ブラックホールとホワイトホールの二連星は、
魔導炉の発する、魔導エネルギーによって光り輝いていた人工太陽と、星全体を覆っていたエネルギーフィールドは消えたが、瞬時に私の生成した物に置き換えられ、切り替わった事に気が付いた者は居ないだろう。
「ぐぎぎ、これは意外とキツイ。」
私、能力的に出来無くは無いんだけど、同時に複数の仕事をするのが苦手って言ってなかったっけ? それは今でも変わらないんだ。
『!--ソピアよ、お前達の予想通り、我が相手をしよう。--!』
はいはい、仕事がくっそ忙しい時に
「ソピア、あいつは私達に任せて。」
ケイティー、クーマイルマ、イブリスの三人が、ヴァラハイスの方へ向かって行った。
あの時のシミュレーションでは、結構いい戦いをしていた筈。
ケイティーの光る剣が、ヴァラハイスの障壁を切り裂き、クーマイルマの光る矢が、黄金の鱗を突き破る。
問題なのは、ヴァラハイスの輝くブレスなのだけど、二人はひらりひらりとそれを躱して行く。
しかし、今回は真正面から殴り合っていたブランガスが居ない。
ヴァラハイスは二人の攻撃に集中出来るのだ。
何度目かの攻防の末、ついにクーマイルマが捕まってしまった。
クーマイルマは、ケイティーの切り裂いた障壁の部分を必ず狙うので、動きを予測されたのだ。
知能の低い魔物や野生動物ならば、同じ動きでも全く問題は無かっただろう。狩人だったクーマイルマの癖が裏目に出た。
だけど、神の知能を持ったヴァラハイスにパターン化した攻撃はまずい。
右手に掴まれたクーマイルマに、ヴァラハイスは、輝くブレスを吐く。
だけど、私は直ぐ様右腕の途中に空間扉を出し、そのブレスを謎空間へ収納した。
それと同時に、イブリスの
その箇所へのケイティーの剣の一撃で、凍った手首は砕け、落下する途中でクーマイルマは、なんとか脱出する事が出来た。
私は、今の空間扉で少し魔力を乱し、代替人工太陽が少し瞬いてしまった。
「ソピア様、申し訳ありません。」
「ソピア、集中を乱しちゃってご免なさい!」
ヴァラハイスは、失った右手を直ぐに再生させた。
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