第267話 修復

 私が最初に訪れたのは、ダルキリア王宮の地下ピラミッド。

 ここのピラミッドは不調なんじゃないかと思っていたから来てみた。

 ああ、調査員の魔導師さん達がマナ喰いと戦っている最中だ。

 ここ、定期的にマナ喰いが湧くんだよね。だから、石の箱で密閉しちゃってるのか。

 あっ、調査員さんが閃光手投げ弾フラッシュグレネードを投げようとしている。これは副作用がちょっとアレなので、私が回収します。


 私は、光速度で移動して、空中で今正に爆発しようとしている閃光手投げ弾フラッシュグレネードをキャッチして、ゼロの領域ヌル・ブライヒへポイ。

 マナ喰い消えろと思えば、たちどころにマナ喰いはこの空間から消滅した。


 さて、このピラミッドの不調の原因はと…… 考えただけで必要な情報が頭の中へ流れ込んで来る。

 ふむふむ、成る程。ああ、石棺の蓋がズレて欠けてるんじゃん。

 昔の調査に入った人が、無理やり蓋をこじ開けて割っちゃったんだな。そして、重量が有るためにきちんと閉められなかったっぽい。

 それで地下からマナ喰いが溢れて来たものだから、ピラミッドの出入り口を塞いでしまったんだ。良く見ると、塞いだ部分の石が、色合いは似ているのだけど、他と材質が違う。

 それでもマナ喰いの流出は止まらなくて、ピラミッド全体を大きな石の箱で覆い、分厚い蓋をして、先端から僅かに流れるマナを収集する装置を上に建設したってところか。



 「よしっ! これを元の状態へ戻そう。」



 私は、パンっと胸の前で掌を合わせた。

 此処のピラミッドをオリジナルの状態へ。

 私がそう願うと、石棺の蓋の欠損は修復され、きちんとした位置へ戻る。

 入り口を塞いでいた石は取り除かれ、元の出入り口が再現される。

 ピラミッドを囲っていた石の箱は消え、地下からせり上がって地上のレベルへ移動。上を塞いでいた城は横へ移動して、地下道の位置も付け変わる。

 元からこの状態だったという様に、因果律改変。人々の記憶も、元々そうだったと書き換わる。


 私が世界を改変した事は、誰も知らない。誰の記憶にも残らない。

 多分、私の存在自体もこの世界から上位の存在へと移行し、全ての人々の記憶からも消え去るのだろう。



 「ま、いいけどね。しょうがないね。」



 海底のピラミッドを見て確信したのだけど、地上のピラミッドが穴の底に在ったり、埋まっていたりするのって、数億年の月日の間に土が被ってしまっていたからなんだろうね。幾つかのピラミッドが、穴の底に在ったのって、後世の人間が、基底部まで掘り出したからなんだろうと思う。


 よし、ピラミッドの先端からマナエネルギーが勢い良く吹き出し、斜面を流れ落ちて水の様に地上を流れて行く。

 普通には見えない量なのだけど、私の目にはバッチリとその流れが見て取れるよ。

 地上を流れたマナのエネルギーは、川の流れの様に5つの方向へ分岐し、各街へ流れて行く。街からは更に分岐して、各村へと向かう。

 成る程ね、こういう構造なのか。



 あ、そうだ。近くの地下遺跡のポータルも地上へ出しておくか。

 あー、でもこれは悩みどころだな。ビオスの賢者さんが、後世に作られた地上部分の遺跡も大事って言ってたもんなー……

 うーん、ここはそのままにしておくか。その代り、全部の通路を開通させておこう。


 全てを修復し終わったらどうしようかな。

 ジャンヌが拾って来た神格の欠片の持ち主の世界でも旅して回ってみようかな。








 次にやって来たのは、魔族の王都。

 ここも神殿で隠されていたのだけど、ケイティー達を転送する時に神殿は解体したそうだ。

 此処のピラミッドも地上へ移動して、元からそうであったという様に因果律を改変。

 ここも良しっと。

 あ、世界牛クジャタに踏み潰されて今は池の底に成っちゃってる、ポータルの出入り口は修復しておいてあげようかな。








 次はビオスのピラミッド。

 ここは、どうしようかな……

 上に盛り土して、王族の古墳に成っちゃってるんだよね。

 ピラミッドを地上へ出すと、古墳は空中に成っちゃうし、どうしよう?

 良い案が浮かばないので、古墳はピラミッドの横へ移動して、ここも元からこうだったという事にしておこう。

 ピラミッドが星の中心世界へ移動する為のプラットフォームだとすると、あながちジャンヌの墓だという伝説も間違ってはいなかったのかもね。









 その次に来たのは、氷の大陸。

 ここのピラミッドはどうしようかなー……

 2000ヤルト(メートル)もの氷に閉ざされているんだよね。この氷を全部溶かしたら、海面が上昇して、沿岸部に在る都市は水没しちゃう。

 ピラミッドの周囲の氷だけ除去するか? アンナークの村の人達をどうしよう。ここは大改造が必要だなー。


 よし、ピラミッドを中心に、周囲の5つの町があった範囲までと、海岸までの氷を除去しよう。

 ピラミッドを地上へ持ち上げてっと、アンナークの村のジニーヤに挨拶して行くかな。

 村の上空まで行くと、ジニーヤが私の接近を察知して待っていてくれた。



 「お久しぶりです。ソピア様。」


 「あなたも翼の数がまた増えたのね。」


 「はい、私達は、ソピア様と繋がっていますから。今ならご命令下されば、何でも出来ますよ。」



 そっか、村の火の管理と空調をさせているだけでは、役不足なんだね。



 「では、新たな任務を追加します。あのピラミッドも守りなさい。」


 「アラホラサッサー!」



 ジニーヤは、体を2つに分けると、ピラミッドと村へとそれぞれ飛んで行った。








 「さて、残りの既知のピラミッドは、あそこなんだよなー……」



 そう、スパルティア王国だ。

 あそこの王族は、馬鹿だから面倒臭そうなんだよなー。

 とりあえず、もう一度上空からスパルティアピラミッドを観察してみる。

 あれ? 何か、作業員みたいなのがピラミッドの在る穴の底へ降りて、内部に出たり入ったりしてないか? 何やってるんだろう?

 中から黒く光る何かを持ち出してる? いや、何か黒いものを持ち込んで、中で何か加工してから持ち出しているんだ。

 それを入り口近くの作業小屋に持ち込んで何らかの加工をしてから、穴の外周に沿って敷設されたトロッコに積んで、上に運び上げている。

 入口近くに居た作業員に、何をやっているのか聞いてみた。



 「ねえねえおじさん、此処の人達は、ピラミッドへ入って何をしているの?」


 「ああ、このピラミッドの地下にある部屋でマナ喰いが生成されているので、それを武器に利用できないかを研究しているんだよ。何でも、黒曜石だったか黒水晶だったかに封入する事に成功したらしくて、手投げ弾として…… って、うわー! お前は誰だー!」



 何なん? スパルティア人って、馬鹿ばっかりなん?

 馬鹿なのか頭が良いのか、良く分からないな。強いて言うなら、馬鹿だけど悪知恵は回る連中って感じ?

 私は、まだ出発していないトロッコに積んである、黒い手投げ弾を1個手に取って観察してみた。

 ふうん…… これは加工した黒曜石かな? 中にマナ喰いが入っているみたいだ。そこに、バネ式の先の尖ったハンマーが取り付けられていて、ピンを抜くと黒曜石の劈開方向に沿って打撃を加えて割る仕組みみたい。

 頭いいな。でも、悪い事に使う以外に無い発明だよね。


 私は、ダルキリア王城地下のピラミッドで、調査員さんが投げようとしていたのを回収した、閃光手投げ弾フラッシュグレネードを取り出すと、それをトロッコの中へ投げ込んだ。

 1、2、3、4、5、と数えたら、トロッコの中で物凄い閃光が発生し、黒曜石の中に封じ込められていたマナ喰いと激しく反応して消し去った。

 中のマナ喰いが消え去った黒曜石は、綺麗な透明のガラスへと変わっていた。



 「おお、透明ガラスの作り方が、こんな所で判明するとは!」



 長年謎だった、遠眼鏡のレンズの透明ガラスの製法を、今偶然に見つけてしまった。

 この大発見に感動している私の背後から、さっきの男が忍び寄って来ていた。

 いきなり後ろから抱き着かれて拘束されてしまった。



 「お前は誰だと聞いているんだ! 外国のスパイか!?」




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