第265話 帰還

 『!--それは……--!』



 ヴァラハイスが説明しようとしたのを、私は右手で制した。

 言葉で説明されなくても、知識が頭の中に有るのだから。


 シミュレーターで出来た様に、今の私ならこの世界で空間扉を開く事が出来る。

 この球体内部の世界は、人工太陽にエネルギーの大半を奪われ、反力場アンチ・フォース・フィールドへ傾いてしまっている。それが今、私の発生する力場が上回り、正常空間と変わっているのだ。



 「あらぁ~? でも~、私は開く事が出来ないわよ~?」


 「うん、この世界は7次元的に閉じているからね。だけど私は10次元側からアクセス出来る。」



 そう、例え7次元的に閉じていようと、10次元空間から覗けば穴だらけなのだ。

 超弦理論では、この宇宙は10次元で出来ているそうだよ。

 7次元の段階でも、この宇宙の物理法則を越えた世界へアクセスする事が出来るそうだ。

 遥か遠くの空間へトランスポートしたり、この4次元世界では破壊不可能なこのコロニーの外殻を造ったりなんかが可能になる。

 魔導倉庫、私の言う所のイマジネーション空間を認識するには5次元空間、そこへアクセスして利用しようとすると、6次元空間までを理解出来なくてはいけない。

 私が魔導倉庫の前身である、魔導書架の中へ手を入れる事が出来なかったのは、5次元空間までしか認識出来ていなかったからなのだ。お師匠やヴィヴィさん、ウルスラさん、そしてケイティーは、6次元まで認識出来ていたのだろうね。


 そして、この内側世界では魔導倉庫が使えなかった理由でも有る。

 魔力が使えなかったというのも有るのだけど、7次元レベルで閉じていたため、コロニーの外側へ設置してある倉庫へはアクセス出来なかったのだ。


 しかし今、私はヴァラハイスの知識と能力を得て、10次元までを理解した。

 10次元と言えば、それはもう、人間の理解力、想像力の更に外、あらゆる可能性を可能とする世界なのだ。

 ぶっちゃけて言うと、そんな事が出来るわけが無いが無い世界。ヤバイ。

 なんでもアリって、どうなん、それ?



 『!--我も驚いておるよ、我らの超古代文明の科学力を持ってしても、なし得なかったのだからな。--!』



 これって、ジャンヌのおかげでもあるのかもね。

 あらゆる異世界から知識を持って来てくれたから、それらがお互いに足りない部分を補完しあい、更にヴァラハイスの知識が小さな穴も全部埋めて、完成した。偶然の産物だ。



 『!--うむ、想像以上だ。この世界をよろしく頼むぞ。--!』


 「はいよ。じゃあ、皆の所へ帰ろう!」



 私は、空間扉を出し、皆に挨拶をして帰ろうとしたら、ジャンヌの先代さんが話し掛けてきた。



 「あの子にも、そのうちこっちへ顔を出す様に言っておいて。私の名は、ユニメタル。あの子によろしくね。」


 「ユニメタルさんね、伝えておくわ。じゃあ皆、またね。」



 私達は、空間扉を潜って元の世界へと戻った。








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 「カーツェ山の上空に重力震! 巨大なエネルギーが時空間転移して来ます!」



 アクセルが叫ぶと、側でパネルを操作していたロルフが、思念通話テレパシーを最大出力で一斉送信した。

 それを受けて、屋敷で待機していた四神竜のユーシュコルパス、ヴァンストロム、フィンフォルムの三柱が空間扉を開き、皆を引き連れてカーツェ山の上空で待機する。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



 「来るぞ!」



 皆が見守る中、カーツェの頂きの百ヤルト(メートル)程上空に、ピンクの扉がポツンと出現した。

 と、思ったら次の瞬間、その扉を中心に、数リグル(マイル)の範囲に渡って、空の空間に亀裂が走った。



 ガシャーン!!



 皆がびっくりして見ていると、空が割れて、破片が四方八方に飛び散る。……が、何も起こらない。

 シーンと成って少しの間の後、その真中にあるピンクの扉がそっと開いて4人が出て来た。



 「みんなー、ただいまー!」


 「「「「「「「「「「なんじゃそりゃ!」」」」」」」」」」



 何故か全員から総ツッコミが入った。

 私、何かした?



 「ソピアー、お帰りなさい! 神格の欠片かけら入りまーす!」



 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドン!!!



 「34連発。あの、ジャンヌ? もう要らないから、これ以上増やされると、星のエネルギー越えちゃうから。」


 「あら? 気付いてないの? もうとっくに越えてるわよ? てゆーか、無限大領域へ入っちゃってるのに、今更34個位増えただけでガタガタ言わないの!」


 「だったらもう増やさないでよ!」


 「それ、私が異世界旅行して来たお土産みたいな物だから、有り難く受け取って置きなさいよ。」



 お土産だったのかよ! 北海道旅行の鮭を咥えた木彫りの熊の置物とか貰っちゃったみたいな気分だよ! 取り敢えず、玄関の靴箱の上に置くか?



 「あ、そうだ。ユニメタルさんがよろしくって言ってたよ。」


 「えっ! ユニさんに会ったの? 元気してた!?」


 「あー、うん、あれは、元気って言っても良いのかな? 故人な訳だし。だけど、魂魄アルマは元気だった。まあ、それはジャンヌも一緒か。今度、好きな時に連れて行くよ。」


 「キャー! ありがとー! なつかしー!!」


 「それから、ジャンヌの体も在ったよ。オバチャンだった。」


 「うるさいわね! 誰でも歳は取るの! また言ったらぶっとばす!」


 「ジャンヌ、沸点低すぎ。あはは!」


 「じゃ、また。今度はどの世界へ行こうかな?」



 まだ送って来る気だよ。ヤレヤレ。

 ジャンヌは去っていった。自由人だよね。あ、神か。そのくせ仕事はきっちりこなすという、キャリアウーマンの鑑だ。



 「ところで、皆のその姿はどうしたのじゃ? 変身術なのか?」


 「それがねぇ~、ソピアちゃんが原初の神竜ヴァラハイスと融合しちゃったのでぇ~、私達も~、位階ステージが上がっちゃったのよぅ~」


 「なんじゃと!? それでその姿なのか。」


 「なんだよ! ブランガスばっかりズルいぞ!」


 「そうだそうだ!」


 「まあまあ、真っ先に命を掛けた者に与えられたギフトなんだから、認めてあげようじゃないか~。」



 意外とフィンフォルムだけ大人だ。見た目とは逆に大人っぽい喋り方をするユーシュコルパスが、見た目通りの子供なんだよなー。

 聞くと、フィンフォルムは神格反転を起こした回数が少ないらしい。多いのはヴァンストロム。

 つまり、所謂、堕天現象フォールダウンを起こした回数が多い程、つまり、再起動リセットの回数が多い程、性格が子供っぽいらしいよ。

 ヴァンストロム~…… 黒ピラミッドの近くに棲んでいたからだぞー。何が『僕はマナ喰いに耐性があるからね』だよ!



 「ねえねえ、二人共、人間辞めちゃったの? これからずっとその姿でいくの?」



 ヴィヴィさんが心配した様に二人に話し掛けた。

 というのも、その姿のままだと、人間の中で暮らし難いだろうと思ったからだ。

 だけど、二人は顔を見合わせて軽く笑った後、ヴィヴィさんへ向き直った。



 「私達は、この姿に誇りを持っているんです。でも、人間を辞めた訳では無いんですよ。」



 そう言うと、しゅるっと元の二人の姿へ戻った。姿形は変身術で自由自在だからね。

 だけど、内包したエネルギーは、人間のそれを遥かに超えている。多分、神竜達に出会う前の私位は有るのでは無いだろうか。



 「とりあえず、皆お家に帰って休みましょう。なんだか今回の冒険は疲れちゃったわ。」




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