第264話 神の位階

 下半身だけに成ってしまったヴァラハイスは、ズズゥンという地響きを立てて崩折れた。

 やべえ、魔導で防ぎ切れない物理攻撃。



 「ああっ、ヴァラハイスを殺しちゃったら、元の世界へ帰る方法が分からない!」



 わたわたと慌てる私の頭にヴァラハイスの思念テレパシーが届いた。



 『!--慌てるでない。ここは我の作り出した仮想世界シミュレーター。誰も怪我も死んでも居ない。--!』



 景色が切り替わって、再びクリスタルの間になった。

 ヴァラハイスは、クリスタルの中から出て来ていない。

 私達は、リアルな幻覚を見せられていただけみたいだ。

 いやしかし、痛みとかリアルだったな。



 『!--ソピアよ、お前の力は見せてもらった。我の願いを聞き入れては貰えぬだろうか? そなたには、それをかなえるに足るの力がある。--!』



 何だよ、急に喋り方変えるなよ。お願いの内容を言う前にイエスかノーを求めるなよ。そういう人居るよねー。



 『!--それは済まなかった。願いというのは、この星の中心に在る人工太陽の事だ。--!』


 「人工太陽をどうしたいの?」


 『!--人工太陽は、寿命を迎えようとしている。数十億年に渡る時間は、この星の動力を止めたばかりではなく、あらゆる部分に不調を来たしているのだ。--!』


 「そんな事言われたって、私は人工太陽の技師じゃないんだし、メンテナンスなんて無理だよ。」


 『!--それは理解している。人工太陽へエネルギーを送る、大型の魔導炉は遥か昔に停止し、今では地上からエネルギーを分けて貰い、足りない分は我と歴代の神が賄っている。--!』


 「ええっ!?」



 クリスタルの間に所々明かりが灯り、数本のクリスタルが輝き出した。

 その側へ行ってみると、中に竜族、精霊族、エルフ族等の遺体が封入されているのが見えた。

 えー…… 歴代の神は、クリスタルの中に閉じ込められて、電池代わりとか、無いわー。マト○ックスかよ。



 『!--誤解するでない。皆、普通に寿命を迎えてこの世を去った者達の体だ。--!』



 この世を去った後の体を、利用させて貰っているだけだという。

 魂魄アルマが抜けてても、生命維持装置か何かで体だけ生きていれば、マナが生産されるのかね。

 まあ、臓器提供者ドナーみたいなものなのか? うーん、生前に合意が有れば、良いのかもね。

 魂魄アルマは、自由にそこら辺で遊んでいるとの事。

 あれー? でも私、ジャンヌ意外の神様に会った事無いよ? ジャンヌも彼女の先代が居ないって言っていたし。



 「ああ、あの子だけは地上の方が性に合ってるとかで、こっちには来なかったのよね。」



 こっちの世界は、地上とは7次元的に閉じていて、外からは探知出来ないから分からないだけだったのかな?

 と、今話しかけてきたの誰!? 急に話しかけられてびっくりした!

 振り返ると、一つのクリスタルに妖精ピクシーがくっついて喋っている。



 「おっ?」



 見回すと、それぞれのクリスタルに入った神の遺体に一匹のクリオネがくっついている。



 「お前達ー、神の魂魄アルマだったんかーい!」



 「そうだよ。」

  「そうだぞ。」

   「そのとおり。」

    「そうなのよ。」

     「そう。」

      「そうだね。」

       「そうそう。」

        「そうよ。」

         …………



 私に流暢に話しかけてきたのは、ジニーヤが改造しちゃった1匹だ。

 なんでも、ジャンヌの先代らしい。

 なんだよ、最初片言だったじゃん? え? 千何百年も喋っていなかったので、喋り方忘れてた? あ、そうすか。



 「神の魂魄アルマを、匹で数えないで。」


 「あ、ごめんなさい。でも、はしらって言い難いじゃん?」


 「まあそうね、匹でいいわ。」


 「いいんかい! あっさりしてるな!」



 他のクリオネ達も喋りたそうにしているので、ジニーヤにお願いして全部改造してもらった。

 妖精姿に成ったクリオネ達は、嬉しそうに飛び回りながらペチャクチャと話し出した。うーん、うるさウザい。



 「私は、神の魂魄アルマを改造しちゃう、あなたの能力にびっくりだわ。」


 「流石はソピア様です!」



 この中にジャンヌの体も有るのかな?

 見回すと、クリスタルの中に妖精が付いていない1つが在った。傍に寄って、中身を良く見てみると、銀髪のちょっと目尻に小じわのある年配のエルフが入っていた。ジャンヌはハーフエルフだけど、外見的にはエルフの特徴が良く出ていると思う。



 「ほんと、ケイティーに良く似ているよねー。ケイティーがオバサンになったらこんな感じなんだろうな。」


 「私というよりも、私の母に良く似ているわ。なんか、変な感じ。」


 「で……」



 私は、ヴァラハイスへ向き直って聞いた。



 「私もここの電池の一部に成って貰いたいわけ?」



 皆がぎょっとした様な顔をして、私、そしてヴァラハイスを見た。



 『!--いや、我らだけであと数億年は大丈夫だろう。--!』



 ひっくり返った。よしもと新喜劇みたいにコケた。

 じゃあ、私に何の用事が有るんだよ!



 『!--いや…… この星の装置があちこち故障して来ていると言っただろう。それをお前に直して貰いたい。--!』


 「だから、私は技師エンジニアじゃないから解らないって……」


 『!--おまえに、我の知識と能力を譲渡しよう。--!』


 「えっ? ちょっとまっ……」



 こちらの承諾も得ず、ヴァラハイスから幽体離脱の様に出て来たホログラムが、私の胸の中へ吸い込まれて行った。


 すると、なんという事でしょう。


 ブランガス、ケイティー、クーマイルマの体にも異変が起こった。

 ブランガスは、額からもう一本の角が生え、背中にもゴジラの様な光る突起が生えた。体も一回り大きく成っている。

 ケイティーとクーマイルマは、シミュレーターの世界の時の様な姿へ変わった。ただ、ケイティーの翼は4枚へ、クーマイルマは竜族みたいな尻尾も生えてしまった。ジニーヤも6枚の翼へ変化している。



 「ちょっと! シミュの時より変化が激しいんだけど!?」


 『!--ああ、あの時はお前の能力値から計算された予測だったのだが、今は我の能力も追加されたからな。--!』



 なんてこったい! 私だけじゃなくて私の回りの者も人外化するのかよ!



 「位階ステージが上がったと言って頂戴~。」


 「力が漲って来るわ。これで少しはソピアを助けられるかも。」


 「ソピア様、有難うございます! あたし、嬉しいです!」



 あ、うん、嫌じゃ無ければ良いんだけどね…… ごめんね。


 さて、これから何をすれば良いのかが、頭の中に流れ込んでくるぞ。

 ヴァラハイスと知識が共有された様だ。異星の超古代文明の超科学だ、ひゃほう!



 「はしゃがない、はしゃがない。」


 「いいじゃん、少し位。ケイティーはお母さんかっ!」


 「神の位階ステージを超越しても、人間味溢れるソピア様、素敵です!」



 さて、これからどうしようかな。まずは、……そうだな、王都のピラミッドでも修理に行こうか。

 各地のピラミッドも全部見つけ出して、壊れたり埋まっていたりするのは、修理したり掘り出したりしなければならない。

 ここの魔導炉も修理できるなら修理してみたい。



 「それはそうと、どうやれば元の世界へ帰れるの?」




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