第244話 転移
そのピラミッドとは、言うまでもなくもう一つの黒いピラミッドだ。
それは、魔都にある。
「うーむ、そういう事であれば、我等の神殿を開放しましょう。いや、させて下さい。」
事情を説明したら、魔王様は直ぐに事情を酌んでくれて、協力を申し出てくれた。
最も、大恩有るソピア捜索の為と言われて、断るという選択肢は考えられなかった訳だけど、話の真偽を確かめる事すらせずに即決してくれた英断には頭が下がる。
ピラミッドを覆っていた巨大な神殿は、魔族の魔導師軍団に依って瞬く間に解体され、黒い尖塔の先端が見えて来た。
充満していたであろうマナ喰いは、先の
ここのピラミッドは、海底の物よりもエネルギーの蓄積が多い様なのだ。
つまり、あの時のソピアのエネルギーに相当するには、神竜二柱分のエネルギーを合わせれば、作動するのではないかと思われる。
「神竜四柱で、2人送るのがぎりぎりじゃろう。」
「それで、誰が行くのぉ~? 私が行っていい~? 誰も居ない空間でソピアちゃんと二人きりで、ぐふふ……」
「却下だ。」
「そうだね~。確かにブランガスなら直ぐに見つけ出すだろうけど、今の、冗談じゃないんだろう?」
ブランガスは、ペロッと舌を出した。ヤベー奴。こいつだけは駄目だと皆思った。
「私思うんですけど、ピラミッドを使わなくても、フィンフォルム様の空間扉で救出に向かえないのですか?」
「う~ん、それがね、転移した先が分からなければ、空間扉は開けないのさ~。」
そう、フィンフォルムの空間扉なら、一番効率が良いのは確かなのだが、行き先が分からないのであれば、この装置を利用する他に方法が無いのだ。
「これ程の装置を作った人間の知恵には驚くけど、僕達二人分のエネルギーを使ってやっと稼働出来る程度の効率の悪い物しか作れなかったというのかな~?」
そうなのだ。地下遺跡のポータルの様に、これらの遺跡を作った者達の技術ならば、転移装置位はもっとコンパクトに作れるはずなのだ。
だったら、この大げさな装置は一体?
「あ~もう! そんなの行ってみれば分かるわよ~ん。誰でも良いから、つべこべ言わずに私にエネルギーを寄越しなさぁ~い!」
「いえ、ここは私に行かせて下さい!」
「待ちなさい、ケイティー。転移先がどんな所なのか分からないのよ? もしかしたら、人間の生きていられる環境じゃないかもしれないというのに。」
「構いません。この命は、ソピアに助けて貰った物なのだから。崖の時だって、ジンに焼かれていた時だって、
「それなら、あたしも行きたいです! あたしだって、ソピア様のお役に立ちたい!」
ケイティーは、もしもあの場にソピアが居なかったら、あの場面ではどうだったのかと常に考えて居たのだろう。逆にケイティーがソピアを助けた場面も幾度も有ったはずなのだが、彼女の頭には、助けてもらった借りと思う部分の方が大きかったのかもしれない。
クーマイルマもまた、ソピアの恩に答えたい願望が有るのだろう。ちょっと狂信的な部分が強い様に思えるが、彼女なりに受け取った物の大きさに困惑し、常に役に立ちたいと願って暴走していただけなのかもしれない。
「ふうん? その気持は本物なのかしら~? まあいいわ、私達の全力で、3人飛ばせるかしら?」
ブランガスが行くのは、彼女の中では既に確定している様だ。
しかし、四神の力だけでは、2人が限界だったはず。この場にいる賢者達と魔族達全ての魔力を集結しても足りるのだろうか?
『!--私も力を貸しましょう。--!』
皆の頭の中に声が響いた。
100万ワットの眩い光と共にその場に現れたのは、ケイティーにちょっと似た自由の女神…… じゃない、ジャンヌだった。
ケイティーと違うのは、髪と目の色の他、ジャンヌの方が少し背が高い位か。
すっと何気ない仕草で髪をかき上げると、尖った耳がちょっと見えた。細身の体と控えめな胸で、ハーフエルフだというのは、本当の様だ。
「あ、あなたはもしかして……」
「私はジャンヌ。ソピアの先代よ。それと、余計な事を言うあなた、ぶっとばす。」
第四の壁を容易く突破するのはやめて欲しい。
--説明しよう! 第四の壁とは、演劇などに於いてフォクションである舞台上と、現実世界である観客席の間を隔てる概念上の透明な壁の事である。舞台上には、奥と左右の3つの壁に囲まれており、観客席との間にも、見えない4番めの壁があると仮定されているため、第4の壁と呼ばれる。通常、舞台上の人間は観客に干渉出来ないのだが、稀にその第四の壁を突破して観客(読者)へ話しかけてくるキャラクターが居る。これを第四の壁を破ると言う。--
「あらあら! まあ! まあ!」
エバちゃま大興奮。
そりゃあ、建国の祖である、初代女王様を目の前にして興奮しない訳にはいかないだろうけど。若い女子みたいにぴょんぴょんしながらクルクル回るのは、やはり王都の女子の伝統なのだろうか。
「空間回路を通じて、エピスティーニの魔導炉のエネルギーも引っ張ってきました。これでなんとか三人送れるでしょう。」
「ケイティー、クーマイルマ、ソピアを頼む。」
「「はい! きっと連れて戻ります。」」
「ブランガス様、ケイティーちゃんとクーマイルマちゃんの事をよろしく頼みます。」
「まかせておきなさ~い。」
「では、三人はピラミッドへ手を着いて準備して下さい。アクセルさん、魔導炉全力運転! みなさん、全魔力をピラミッドへ!」
エピスティーニでテレパシー通信を受け取ったアクセルは、操作盤から魔導炉を全力運転させる。核融合炉はフル稼働し、その上にある魔導炉は、通常の倍以上の輝きで光り始めた。
ピラミッドの周囲に集まって来た魔族の人達が、魔王様以下全員が、魔力を一つにし、ピラミッドへ送る。
大賢者ロルフ、ヴィヴィ、ウルスラ、エバ、そして、四神竜も体に宿す全てのエネルギーをピラミッドへ注ぐ。
ブランガス、ケイティー、クーマイルマの三人は、一瞬周囲が光ったような気がした。
次の瞬間、手を当てていた、硬い感触のピラミッドは、空気の様に手応えが無くなり、支えの無くなった体は前のめりにピラミッドの中へ倒れ込んで行った。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
そこは、見渡す限りの岩場だった。
地球でいうと、アメリカのモニュメントバレーみたいな感じの礫砂漠だ。所々に霜柱の様に垂直に切り立った岩山がそびえ立っている。
ケイティーは思った。自分は今、仰向けに寝そべっているのだろうか、頭上には、太陽が浮かんでいる。眩しくて良く分からないのだが、丸では無く、少し歪な形をしている様に見えた。
目をこらすと、遥か遠くに塔の様な物が天まで伸びているのが見える。その塔も、一本では無い様だ。なんとも不思議な景色に思えた。
最初に立ち上がったのは、ケイティーだった。
直ぐに皆の無事を確認した。三人共ちゃんと居る。
次にクーマイルマが立ち上がった。ブランガスは、ぐったりとして、立ち上がる事が出来ないみたいだ。
日差しが強いので、クーマイルマと協力して、ブランガスを背後に有る岩山の日陰へ移動させた。
「ここでは魔法が使えないみたいです。魔導鍵が作動しません。」
「本当だわ。本職の魔導師が来なかったのは、不幸中の幸いね。」
「ちょっとぉ~。私は、マナを使い切っちゃってすっからかんなんだから~、もっと気を使いなさいよぉ~。」
「そうね、ブランガス様が回復するまで、ちょっと休憩しましょう。私は、周囲を見回って来るわ。」
この広大な世界から、ソピアを探し出す事が出来るのだろうか。
今の所、手がかりは何も無い。
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