第243話 ソピア救出作戦

 原住民は、ざわつき、顔を見合わせて少しの間が有ってから、リーダーらしき一人が前へ進み出て答えた。



 「『まぞく』とは、我々の呼び名でしょうか? 我々は、自分達の事を『ひと』と呼んでおります。」


 「この世界の『ひと』は、あなた達の種族だけなの?」



 そう、私の前に居た世界では、人種に分類されているのは、人間、ドワーフ、ノーム、エルフ、魔族…… など、数種類の種族を指す。

 何故その中で獣人族が人種に分類されていなかったのかは不明だが、多分、前大戦に参加したか否かってとこなんだろうね。

 うちのお師匠は、つい最近までそんな事になっているのを知らなかったみたいだけど、ほんと世俗に疎い人だよね。

 うちの国王様も知っていなければならない事だったと思うんだけど、当時は王様じゃなかったのだろうから、世間の全て隅々までを知っていなければならないと言うのは酷かもしれない。お師匠の指摘で、直ぐに法律を改正する様に動いたのは流石と言えるだろう。


 で、話は戻るけど、こっちの世界には私達の世界で言う所の魔族しかいない? だから、『ひと』という単語も、魔族のみを指す言葉なのかも? じゃあ、私の事は、どう見られているんだろうという疑問は有るけれど、天女様と呼ばれるあたり、そんなに蔑ろにされる危険性は無さそう。



 「我々はこの広い森を出た事がありませんので、我々の他に『ひと』が居るのかどうかは分かりません。なにしろ、この世界は広大ですから。」



 そっか、地球や前の世界の星(そう言えば、名前を知らなかった。)と同じ位の規模の世界なのかな?

 それにしても、あの太陽は気に成るな。何か、人工物臭い感じがする。それと、あの天まで届く塔。



 「食人木マカントを倒して頂いたお礼をさせて下さい。」



 この人達の村へ招待してくれるらしい。

 クーマイルマの村みたいに、一晩中の宴会に巻き込まれるのは困るけど、お腹が空いたので、遠慮無く寄らせて貰うよ。

 とにかく、会話の出来る人達が居て良かったよ。








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 「神竜の能力でも、ソピアが何処へ行ってしまったのか分からないの?」


 『!--ううむ、この黒いピラミッドから何処かへ転送されたらしい、というのは分かるのだが……--!』


 『!--僕達の力では、転送装置が動かないみたいだね~。--!』


 「ソピアは大丈夫なの? 私達に出来る事は無いの?」



 ケイティーとアーリャが、神竜達に詰め寄っているのだが、神竜達も返答に困っている様だ。

 白いピラミッドは、星の内部の正エネルギーを地表へ汲み出す仕組み、黒いピラミッドは、同じく負エネルギーを汲み出す仕組みだと、ソピアが分析していた。

 マイナスエネルギー側から見れば、その逆だ。白ピラミッドは、負エネルギーを星の内部へ送り、黒ピラミッドは、正エネルギーを星の内部へ送る。



 「と、いう事は、正エネルギーの塊みたいなソピアは、星の内部へ送られてしまったという事なの?」


 『!--それは分からないのだ。星の内部に何かが在り、他の時空へ転送されたのかもしれないし、他の宇宙という可能性もある。--!』


 「何故、神竜は転送されないの?」


 『!--おそらく…… 我々では、転送装置が作動する為に必要なエネルギーに足りないのかもしれない……--!』


 「神竜でも足りないというの!?」


 『!--うむ、それ程ソピアのエネルギーは巨大だったのだ。--!』



 クーマイルマは、がっくりと膝を落として項垂れた。



 「ソピア様…… 私がお側に付いていながら、こんな事になってしまって……」


 「クーマイルマ、あなたのせいじゃないわ。皆ちょっと遊び半分に、浮ついていたのは間違いないの。ソピアが以前に、そんな気持ちでは、いつか大怪我をするかもしれないと言っていたのに……」



 おばさま三人組が顔を伏せた。

 ここの所、全ての事が順調に運びすぎて、危機感は薄れていたのかも知れない。

 多くの功績は、ソピアが齎した物だし、戦争の気配も、マナ喰いや牛頭鬼アステリオス等の危険も、殆どの問題は大事に発展する前にソピアがいとも簡単に排除していたので、皆身近に迫った危険に気づきもせずに、安穏と暮らして来れていただけだったのだ。


 ソピアを失って今、その重大な事実が皆の胸の重くのしかかり始めていた。



 『--神竜フィンフォルムよ。わしをその場に呼んでくれぬか。--』



 フィンフォルムの空間扉が開き、大賢者ロルフが海底ピラミッドの前に現れた。

 ロルフは、黒いピラミッドを見上げ、フムと軽く頷くと、皆の方へ向き直って話し始めた。



 「わしは、遺跡の調査と並行して、エピスティーニの観測装置を使って、星のエネルギー分布を観測しておったのだ。」



 ロルフの話を要約すると、こういう事らしい。

 ソピアの仮説に則り、観測を続ける内、その正しさが徐々に証明されていった。

 まさに白と黒のピラミッドは、エネルギーの入出条件が逆で、全てがバランスを保って稼働していなければならない。

 しかし、ダルキリア王都のピラミッドは、白い方が少々不具合が有るように見受けられる。

 とすると、何処かでバランスを取らなければならないのだが、ピラミッドを建設した古代の技術はとうの昔に失われ、最早どうする事も出来ない。

 マイナスエネルギーを喰って、魔物を生み出していた、世界牛クジャタもソピアが改変してしまい、今、世の中のエネルギーバランスは大きく崩れて来てしまっているのかも知れない。


 そんな時、ソピアが黒ピラミッドにより、何処かへ転送されてしまった。



 「詳しい話は、エピスティーニで説明しよう。」


 「ここで転送方法を探るべきでは?」


 「いや、ここの装置は、もう作動せんよ。エピスティーニでの観測によれば、ここのエネルギーレベルは、既にゼロになってしまっておる。」



 つまり、ここに蓄えられていた転送に使われる莫大なエネルギーは、ソピアのエネルギーを足す事によって作動条件を満たし、転送完了後には全てゼロになってしまっている。使い切ってしまった状態なのだ。

 ソピアの元へ行くのなら、他の、しかもエネルギーが十分に蓄えられている状態の黒ピラミッドを探さなければならない。



 ………………


 …………


 ……








 フィンフォルムの空間扉によって、エピスティーニの大展望台へ移動した皆に、ロルフに代わってアクセルが説明を続ける。

 皆の頭上には、星の立体映像のホログラムが浮いている。



 「これは、ソピア様の計算を元に、ピラミッドの位置と観測により得られた内包するエネルギーレベルを視覚化したものです。」



 人竜形態に戻った四神竜も、その映像を興味深そうに眺めている。



 「人間って~、常に小難しい事を考えているのねぇ。」


 「生物として生きて行く為には、全く必要無いのにねー。つくづく難儀な生き物だと思うよ~。」


 「最底辺に居た、ひ弱な生物に過ぎなかった人種が、上位にのし上がるには、必要な武器だったのだろうね。」



 神竜達は、やはりソピア以外の人間に対しては、あまり興味は無いみたいだ。

 ただ、今はソピアを救出したいという思いで協力関係にあるだけの様だ。


 空中に浮かぶホログラムの星の各地には、白い点と黒い点がそれぞれ6個ずつ表示されており、それぞれのエネルギーの大きさを示す様に、輝きの強弱が付けられている。

 ヴァンストロムの棲家に在った黒ピラミッドの輝きは消えていた。



 「この一番輝いている場所は?」


 「ここ、エピスティーニです。何しろ、四神竜が一箇所に集結していますから。」


 「ちなみに、ソピアちゃんのエネルギーは、どの位だったの?」


 「観測記録によると、神竜二柱を合わせたのより、ちょっと多い位です。」


 「あ~ら、流石じゃな~い。」


 「それも、海に半分位のマナを捨てた後ですから、本来なら四柱を凌駕しているんですよ。」


 「言葉も無いわね……」




 「それで、具体的な救出作戦ですが……」


 「一番エネルギーの溜まっていそうな黒いピラミッドを探して、そこから転移するのね?」


 「はい、そして、そのピラミッドはこれ。」



 アクセルが、星のホログラムの一点を指し示した。



 「我々が既に知っている、このピラミッドです。」




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