第242話 食人植物
飛行速度は無いけれど、こういうゆっくりした飛行も快適。
ジェットの時みたいに
何で皆、魔力の使い方を色々工夫してみないのかな? 不思議だよね。ちょっとの思い付きなのに、みんな私が発明した事になっちゃってるよ。
これは、未だパソコンを業務に取り入れる黎明期での話。
既存の手書きでやっていたファイルの管理を、パソコンでのデータ管理にどう移行するかを試行錯誤していた時代。
その当時の人は、ソフトは何が良いだの、ファイルフォーマットは何だの、管理構造やバックアップの方法とかセキュリティなんかを、あーでもないこーでもないと色々やってみていたんだ。
そうやって徐々に最適解である、今の方法が出来上がって来た訳だけど、新しく入ってきた人は、最初からその最適解にブラッシュアップされた方法のみを学んで来るわけ。
その新人さん達に、親切心でこれはこうやっても良いんだよと教えてあげると、『それは間違いです。こうやらなければ駄目です。』と聞く耳を持たないそうなんだ。
その新人さんにとってみれば、学校で習った方法が、唯一の正解であって、それ以外の方法は邪道に思えるんだろうね。
先輩はそれを臨機応変、柔軟性だと考えているのだけど、新人さんにとっては、正しくない方法、邪道にしか見えないんだ。
学校で教えて貰った事が絶対で、それ以外の選択肢を考える余裕が無いと言うか、頭が凝り固まっちゃうのかもね。
マヴァーラのサントラム学園で、ファイアボールとかの魔導を定型で教えているのだけど、そこを卒業した人は、人並み以上の色々な魔導を使える反面、柔軟な発想で工夫するという芽を摘んじゃっている気がする。
お師匠のロルフも、その量産型育成法にはちょっと疑問があったみたいで、教育現場には関わって居なかったのだけど、新しく出来た高等学院の方には、ちょっと期待しているみたいだよ。
閑話休題。
とか、余計な事を考えながら、快適に空中散歩を楽しんでいたら、下から槍が飛んで来た。
槍は、
危ねー!!
私は、槍が飛んで来た辺りを旋回して下を見てみたのだけど、木々の葉が生い茂っていて下が良く見えない。
槍を投げて来たという事は、知的生命体が居る可能性が高い。
なんとか
当然、槍程度では絶対障壁は抜けないので、落ち着いてやりの飛んで来た地点を特定して、そこへ降りてみた。
飛行術を解除し、木々の梢を足場にして落下速度を弱め、最後は浮遊術を使ってそっと着地する。
ん? 何も居ないな。一体何が槍を投げて来たんだろう?
「ソピア様、危ない!」
声の方を振り向くと、ジニーヤが私の前で絶対障壁を張って攻撃を防いでいた。
木々の間から槍が飛んで来たのを、防いでくれたのだ。
でも、その向こう側を見ても、何も居ない。
地面に突き刺さっている、槍を引き抜いて手に取って観察してみると、それは槍ではなく、木の枝というか、トゲの大きな物みたいだ。
ジニーヤがすっと右手を上げ、指さした方向を見ると、あれか。
「このトゲと同じ物が付いている木があるぞー。」
前の世界にも、エントという動き回る木があったっけ。こっちのは敵対植物みたいだね。
攻撃して来るなら、やっつけちゃっても良いよね。
「ジニーヤ、燃やしておしまい!」
「アイアイサー!」
『--ちょっと待ってください、お母様! 山火事になってしまいます!--』
「でも、どうせこの森、動物なんて棲んでいないでしょ?」
『--エウリケートさんが聞いたら卒倒しそうです。--』
あれ? そう言われればそうだよね。私、独りぼっちで過ごしている内に、考え方が荒んで来ちゃってる?
じゃあ、どうやって倒そう?
5ヤルト以内に近付かないと、私の魔力は届かない。ジニーヤに障壁を張ったままでいてもらって、近付くか?
なんて考えていたら、向こうから動き出した。
「こいつ、動くぞ!」
地面の下に差し込んでいた根っ子を引き抜き、それを足の様に動かして、こちらへ向かって歩き出して来た。
枝? 蔓と言うのかな? が、触手の様にウネウネと動いている。なんか、昔の映画でこんな植物が出てくるのあったなぁ……
「ジニーヤ、障壁の維持お願いね。ちょっと近付いてみる。」
私は、こちらへ向かって来る気持ち悪い木へ近付いてみた。
こちらの魔力の到達範囲の外から、蔓の触手をムチの様に使った攻撃が飛んで来る。パシンパシンと金属質の音がする。この蔓、結構硬いのかも。全部障壁で防がれているけどね。
3ヤルト(3メートル)位まで近付いた所で、絡み付き攻撃に成った。
カカカカカン! カカカカカン! と何かを連打するみたいな音がする。
絡み付いた触手を良く見ると、内側に小さな穴が無数に開いて、そこから針の様な物が飛び出しては引っ込んでいる。それが障壁に当たる音だった。
「うっわ、きっも! クラーケンの吸盤よりもキモい~!」
沢山の穴から何かが飛び出して来る様って、どうしてこんなに気持ち悪いんだろう?
この針で獲物を突き刺して、体液なんかを吸う仕組みなのかな?
木にもう少し近づいたら、グイッと引き寄せられ、ハグされるみたいな形になってしまった。
幹も接触部分に無数の穴が開いて、釘みたいに太い針が沢山飛び出して来ては障壁に当たり、引っ込むを繰り返している。
さっき、これを飛ばしてきたのか。
「幹もかよー。ああ、蓮コラ…… こんなんばっかりだー!」
泣きそう。
まさか、絶対障壁が破られたりはしないよな。クラーケンよりは力が弱そうだし、大丈夫かな?
「ソピア様。この位は大丈夫ですよ。」
実際に攻撃を防いでいるジニーヤがそう言うのなら、大丈夫なのだろう。信じるよ。
さて、こいつをどうやってやっつけよう?
「あらゆる生物は、熱には弱いはずだよね。」
せっかく、向こうから魔力の射程距離内に入って来てくれているんだからと、私は、障壁に絡み付いている触手の分子運動をちょっと上げてみた。
触手からは、白い水蒸気が立ち上り始め、見る見る萎び始める。
やがて、水蒸気は白い煙に変わり始め、黒く変色し始めた。
「これ以上やると発火してしまうから、ここまで。」
後ろへ下がると、炭化した触手は、パキッ軽い音を立てて割れて落ちた。
だけど、この化物は痛みを感じていないのだろう。怯む様子も無く、新たな触手を振り回し、再度絡み付いて来た。
でも、その触手も、同様に炭化し、砕けて落ちる。
幹の接触部分も同様に炭化し、体がくの字に曲がり、遂に動かなくなってしまった。
「こんなのが他にもいっぱい居るのかな? 森の中を進まなくて良かったよ。」
『--でもお母様、また開けた場所を見つけないと、再び飛ぶのは難しいですよ?--』
「あ。」
『--何も考えていませんでしたね。--』
こんな方向も分からない樹海の中に降りちゃって、私馬鹿じゃん。興味が先に立っちゃったっていうか、意思の疎通が出来る何かが居るんじゃないかと思ったんだよねー。
困ったな、どっちへ進めば良いのか分からなくなっちゃったな。
取り敢えず移動しようと歩き始めた、私の背後から何者かが声を掛けて来た。
「お待ち下さい。天女様。」
お? 女神様の次は天女か?
声のした方向を振り向くと、大勢の原住民がこちらを見ていた。
あれ?
「魔族のみなさんじゃん?」
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