第241話 グライダーカイト飛行術

 「……別に良いけどね。マナを吸われた位、痛くも痒くも無いし。減るもんじゃ無し。」


 『--いえ、お母様、減ってますよ。お母様のマナ回復量が尋常じゃないから、気に成らないだけです。--』


 「尋常じゃないのか……」


 『--自覚無いのですか? やれやれです。--』



 2晩寝たから、すっからかんだったマナもかなり回復していると思うんだ。こんな小さな子達に幾ら吸われても、大丈夫っちゃ大丈夫なんだけど、この子等、自分でマナを回復出来ないのかな?

 何とか意思疎通出来ないものか。さっきから、思念を乗せた言葉を投げかけてみてはいるのだけど、反応が無いんだよね。初期のジンみたいな感じで、予め与えられたプログラム通りに動いているだけなのかしら?



 「そうだ! ジニーヤを出して、通訳させれば上手くいかないかな?」


 『--でも、直ぐに消えてしまいますよ?--』


 「私から離れない様にして、私が直接マナを供給してやればどうかな?」


 『--それなら、大丈夫かも知れませんね!--』


 「よーし! そうと決まれば、ジニーヤどん出ろ!」


 『--キャピキャピルンルンジニーヤ……しゅわ……--』


 「おっと危ない!」



 私は、ジニーヤを直ぐに身近に引き寄せ、魔力を注いでみた。



 『--どーん、お呼びでしょうか? ソピア様。--』


 「おお! やった!」



 大成功だ。これで、水問題も解決だね。



 『--お母様がまた、基礎魔導を勉強しなくなる。--』



 イブリスが辛辣です。私だって、勉強が嫌いな訳じゃないんだよ? ただ、出来ない事への諦めが良いだけなんだ。

 では早速、このクリオネモドキと意思疎通出来ないか、頼んで見る。



 「了解しました、ソピア様。」



 ジニーヤは、クリオネモドキを一匹手に取ると、あーんと口を開け、パクっと食べてしまった。



 「ええーー!?」



 残ったクリオネモドキの動きが激しくなった。

 ビックリして見ていると、ジニーヤは、胸の前に手を翳し、何かを念じている。

 すると、手の間に光の玉が出来始め、それが、屋敷で見たケイティーのピクシーと似た形に成り、ジニーヤから離れて他のクリオネ達の輪の中へ戻って行った。



 「解析して、私の体の一部を組み込みました。ソピア様の制御下に入りました。私も、この世界での形状維持の手段を得ました。


 「おお? なにこの子、こんな超性能だった?」


 『--僕も驚いています。--』



 ジニーヤは、精霊のイブリスの体の細胞の一部とも言える、妖精みたいな位置付けだと思っていたのだけど、今では意思も持ち、進化もしてきている。もしかして、イブリスよりも……



 『--お母様、その先は言わないで!--』


 「ごめんごめん、冗談よ。でも、精霊と言っても過言ではない程に進化してしまったよね。」



 火竜ブランガスは、イフリートという精霊を生み出す事が出来た。

 遂に私もそれに近い事が出来る様になったのかも!? ……なんて言うと、ブランガスに『まだまだよ~』とかつっこまれるんだろうけどね。


 ジニーヤが改造した妖精ピクシーは、クリオネ達のボスになったらしく、クリオネは妖精ピクシーを中心にして輪になって回転している。



 「ジニーヤ、この子達の正体は分かる?」


 「はい、観察者プローブだと言っています。」


 「うん、それは分かってる。主は誰?」


 「神、だそうです。」



 また神かー。一体この世界に神は何人居るんだろう?



 「妖精ピクシーが何か言いたそうです。」


 「ん? 喋れるの?」


 「たす……け…て。」



 んんっ? いきなりクエスト発生させますか? 異世界に独りぼっちで、寂しがってる暇もくれませんか、そうですか。

 まあ、基本私って、全てに於いてなんとかなると思ってるんで、特に悲観はしていないんだけどね。



 「何に困っているの? 私に何か出来るの?」


 「でき…る。大き……なエナジー。待って…た。」


 「何をすればいいの?」


 「……メ…ソ……」



 おい! メソ言うなー!



 「…………」



 何か言えよ! そこは秘密ですってか? 頼み事は有るけど、内容は自分で探してねって? なんじゃそりゃ!

 まあいいよ。自分で探さなければならないのならば、取り敢えずはあの見えてる人工物の塔へ行ってみようじゃないか。


 ところが、問題発生。ラリを使ってサクサクっと進む予定だったのだけど、森に入ったら使えない。

 しかも、人の手の入っていない森ってヤバイ。背丈よりも高い下草が生い茂っていて、視界が全く無いと言っても過言ではない。

 マチェットとかククリとかナタの様なヤブを切り開く道具が無いと、全く進めない。下手に深入りすると、遭難不可避です。



 「今、手元には、解体用のナイフが一本しか無いしなー…… 魔力で5ヤルト範囲を掻き分けながら進むしか無いのかな。」


 『--お母様、僕思うんですけど、5ヤルト届くなら飛べるんじゃありませんか?--』


 「浮上術で、地上5ヤルトの高さをノロノロ飛ぶのか。せめて、森を飛び越せる位の高さを飛びたいんだけどな。」


 『--魔導ジェットを、10ヤルトの範囲内で構築出来ないでしょうか?--』



 あ、そうか。別に音速でかっ飛ばなくても良いんだ。出力はそこそこでも、防御殻シェルの形状を工夫して、リフティングボディの形状にして浮力を稼げば、速度は遅くても飛べるかも。昔のレシプロ飛行機、いや、グライダーカイト程度の出力が出せれば、飛べるのかも知れない。


 そうだよ! カイトにエンジンを付けた形で良いんだ!

 それなら、飛行機みたいな面倒な翼断面とか浮力を得る為の翼の面積なんかを計算しなくても済む。

 と、なると、別にジェットじゃなくても、空気を後ろに押しやれればいいのか……

 うむ、いきなり地上からジャンプして飛び立つというのは出来ないけれど、なんとか凧みたいに空気の力を使って浮かぶ事が出来れば、ちょっとの推進力で飛行可能かも。

 ラリを使って、初速を上げて、うまく滑空して離陸する必要があるな。


 私は、森を出て再び草原へ戻った。



 「よーし、ここを滑走路にしよう。」



 ラリを使って走る。ある程度速度に乗った所で、空中へダイブ。

 浮上術で低空を滑空し、防御殻シェルの形をリフティングボディというよりも、左右にも伸ばして、三角形のハンググライダーみたいな形状にしてみると、すうっと上昇していった。

 前方の空気を後方へ魔力で押しやると、浮力を維持したまま滑空し続ける事が出来る様だ。



 「やったよ、イブリス! 飛んでる!」


 『--やりましたね、お母様!--』



 初めてやって、こんなに上手く行くとは思わなかった。

 これも、魔力の防御殻(シェル)の形を有機的に変形させたり動かしたり、手足の様に操れるからなんだよね。バランスを取り安いの。もしかしたら、墜落してもパラシュートみたいにして、ゆっくり降りられるかも。


 暫く草原の上を旋回して、コツを掴んだ後、高度を上げていよいよ塔へ向けて森を飛び越す体制に入った。

 上空から見ると、見渡す限りの樹海が広がっている。

 塔はその遥かに向こうで、森の中なのか、森を越えた先なのかも良く分からない。

 ジニーヤやクリオネ達は、ちゃんと付いてきているな、よし。

 速度は、毎刻125リグル(時速100キロ)程度は出ているのかな? 森の木が流れて行く様子を見ると、バイクで高速を走った位の速度は出ている気がする。


 よし、いい調子だ。

 これ、比較的魔力の消費も抑えられるし、中等部で教えるのに丁度良いんじゃないかしら?




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