第240話 クリオネ?
まあ、水の生成は、学院で習うだろうし、クーマイルマが上手だったから教えて貰えばいいや。
私は、今は水問題は諦め、再び塔を目指して歩き出した。
しかし、もう一つの問題、食糧問題の方が解決していないぞ?
適当に首刈り兎程度の得物は居ないものか。
だけど、今の私だと首刈り兎にも梃子摺りそうだなー…… 武器が無いじゃないか。あ、ポーチに解体用のナイフが入っていたっけ。刃渡りは1パルム(16~17センチ位)にも満たない程の、武器としては心許無い物なんだけど、無いよりはましだ。
それにしても、この徒歩の遅さよ。
今の私の魔力の到達範囲ってどの位なんだろう? 確認してみる事にした。今の弱った自分のスペックを把握しておく事は大事だもんね。
方法は、全力で届く範囲の草を薙ぎ払ってみる。
魔力の腕を伸ばして、一周回してみる。草原に、ミステリーサークルみたいなのが出来た。
大体、5ヤルト(5メートル)ってとこか…… 今の私は、一般的魔導師の1.7%位の性能しか無いわけか。慎重になるなー。
それにしても、生き物に全然出会わない。この草原に、動物は棲んでいないのかな?
仕方無いので、食料探しよりも先へ進む事を優先する事にした。
それにしても、徒歩……とほほ。
一日歩いて、太陽がまた隠れて夜になったので、その場で草のベッドで眠る事にする。
「イブリス、見張りお願いね。」
『--分かりました、お母様。--』
動物の気配が全く無いので、多分大丈夫だとは思うけど、念の為にイブリスに警戒はしてもらう事にした。イブリスは、私の中で常に眠った様な状態で、精神だけが起きているみたいな感じらしいので、全く眠らなくても大丈夫らしい。
案の定、再び明るくなるまでの時間、何かに襲われる事は無かった。
『--思うんですが、お母様。身体強化系の魔導は出来るのでは無いでしょうか?--』
「うーん、出来るとは思うけど、変身術? 何かに使える? 体を硬くして、防御力を上げる? 敵も居ないのに。」
『--お母様、忘れていますよ。アーリャに教えてもらった、
「お? おお! おおお!! それが有ったー!! イブリス賢い!!」
では早速使わせてもらいましょう。
コツは、裏声を出す感じの、もう10個位上の声をだす感じ。
私の場合は、イーみたいな感じでやると上手く行くんだ。
会話じゃなくて、索敵目的なら、音は何でも良い。
「イーーーーーィーーィーィィィィーキキィィーー!!!」
お!? わかるぞ? 何だろう? 半径100ヤルト位離れた位置に、私を取り囲む様に何か居るじゃん?
【
私を取り囲んでいる何かを、仮に観察者と名付けよう。
その観察者の大きさは、結構小さくて、ハツカネズミ位の大きさだと思われる。数は、……24か。
100ヤルト程度の距離なら、肉眼でも見えるはずなんだけど、全く確認出来ない。光学魔導で姿を隠しているのか、いや、単純に草の下側に潜んでいるのかも。
危害を加えて来ないとはいえ、こんな状況で勝手に観察されているのは、あまり気分が良いものではない。
走るか。振り切れるかな?
高速長距離走法の【
腿の裏の筋肉は、アクセル筋と呼ばれるそうで、走る人はここの筋肉を鍛えると良いそうです。バランス良く、前側の筋肉も鍛えようとすると、前側はブレーキ筋と言うらしく、逆にスピードダウンしてしまうんだって。
それから、走行フォームは、フォアフット着地。前に足を突き出して、踵着地をすると、前につっかえ棒を出しながら走る形になってしまって、エネルギーの無駄になってしまう。なので、後ろに蹴った後の足は、何となく振り子の様に前に出すのでは無く、膝を曲げて上げ、着地は体の前方では無く真下にする様なイメージで走る。そして、つま先から着地し、後ろへ蹴る時にだけ筋肉を使う。
本当は、総合的に筋肉は使っているのだけど、あくまでイメージね。全エネルギーを前進する事のみに使うのだ。
これで、普通の旅人が一日に歩く距離の20~22リグル(30~35キロメートル)の距離を約四半刻(30分)程で走破する。マラソン選手みたいに1刻(2時間)も走れば、旅人が4日掛けて歩く距離を移動してしまう計算だ。物凄く速い。しかも、毎日2刻(4時間)以上は走る事が出来るという異常っぷり。アーリャ達が2つの大陸をたった2ヶ月で縦断して来たというのも頷けるね。
私は、その
走りながら、再度
暫く走ると、前方に森が見えて来た。やっと草原が終わった様だ。
森に入って直ぐに、背後から見えない様に大木の裏でジャンプして、高い枝伝いに少し移動して、下を見て待っていると、観察者が姿を表した。
「何だろう、あれ? ピクシーかな?」
そう、ケイティーのピクシーに似ているのだけど、もっと形が単純なんだ。
丸い頭に紡錘形の胴体、背中には小さな二枚の翼っぽい物が付いている。手足らしき物は見えない。ああそうだ、クリオネに似ていると言った方が的確かも。手のひらサイズの光るクリオネだ。
光っているので、森の日陰の部分に入ってよく見える様になった。
クリオネってさ、流氷の天使とか言われているけど、頭の様に見える部分は口で、6本の触手が飛び出して獲物捕獲してを丸呑みするんだよね。バッカルコーンとか言うんだっけ。しょこたんが良く言っているよね。
あのサイズのクリオネのバッカルコーンは見たくないな。私を食おうとしているのかな?
その光るクリオネは、私を見失った様子も無く、私が乗っている高枝の所までまっすぐに飛んで来て、2ヤルト(2メートル)程度の距離を置いて、ゆっくりと私の回りを周回しはじめた。
何だろう? 襲って来るでも無く、本当に観察しているだけの様に見える。
『--これって、ジンみたいな物なのでしょうか?--』
「たぶんね。情報収集に特化した、
手を伸ばすと、輪を縮めて近付いて来た。……と、思ったら、その中の一匹が、触手を伸ばして手に絡みついて来た!
「ギャー!! バッカルコーン! 食われるー!!」
その手をブンブン振っても離れない。だけど、特に痛くも痒くも無い。食われている様子は全く無い。
いや、光が増したと思ったら、離れて行った。手を見てみると、別に傷跡も何も無い。血を吸われた様子も無い。
『--マナを吸ったみたいですね。--』
「そうか、この子達、私のマナを感知して寄って来てるんだ。」
光を増した1匹は、嬉しそうにダンスをしている、……様に見える。
すると、他のも一斉に私に取り付き始めた。
手足といい、胴や頭にも取り付いて来て、マナを吸っている様だ。
満足するまで吸うと、離れて行き、踊っている。
なんだ、こいつら?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます