第223話 クジャタ
魔族の国から帰還して翌日。
クーマイルマの編入は無事に済み、その日から同じ学院へ通う事になった。
「午前中は一般教養過程、午後は専門過程だからね。」
「はい! ソピア様と時間割は一緒にしましたから、バッチリです!」
クーマイルマは、私のカリキュラムをまるっと書き写していた。これじゃ、一日中一緒じゃん? 今迄一緒に居られなかった反動か? 自分のやりたい事、学びたい事は無いの?
そう聞いたら、やりたい事は、私と一緒に行動する事、学びたい事は、私の全てだそうです。
午前中の授業は、ケイティーも一緒なので、三人でみっちりと! ……クーマイルマに教えて貰いながら理解した。
やべえ、私達の方が先行してたのに、クーマイルマの方が勉強出来るじゃん! この子がこんなに頭の良い子だったなんて、びっくりだよ! 魔族って、人族よりも知能が高いのだろうか。
「はぁ~い! お早う、ソピア、クーマイルマ。」
欧米か! アーリャが外人みたいな挨拶してきた。午後はケイティーと別れて、魔導科の専門過程なので彼女と一緒なのだ。
専門課程では、基本の炎熱魔導、冷却魔導、水生成、光学魔導、障壁魔導のおさらいと、高等技術である浮上術、飛行術、電撃魔導、テレパシー、変身術、絶対防御障壁、及びその応用等を学生と教授を交えて突き詰めて行く。
学院の方で、これらをどうブラッシュアップさせて教えてくれるのか、興味が有るんだよね。
今日は、浮上術の基礎から、最初の半刻(1時間)で座学、残りは実践訓練だ。今の時点で出来るのは、私とクーマイルマだけなので、ちょこっとだけ優越感を味わえる。まあ、皆優秀な人達が集まって来ている訳だから、直ぐに出来ちゃうのだろうけどね。
「魔力で逆立ちしている感じかー。中々バランスを取るのが難しいものね。」
「でも、これで飛行するのはかなりエネルギー効率が悪い気がします。もっと効率の良い方法が有るかも知れません……」
「浮上術は、飛行中の墜落防止やホバリングに使う物で、実際の飛行中は、魔導ジェットだけで浮力を得ているんですよ。」
「成る程……だったら」
学生間で侃々諤々の議論が巻き起こっている。
その内、もっと効率的な方法が開発されるかもしれない。
午後の授業が終わったら、アーリャは王宮へ走って行った。彼女は、賢者として国際会議に出席する仕事も有るのだ。会議は未だ先だけど、その準備に携わっていて、色々忙しいらしい。
「クーマイルマも、魔族との外交官として、忙しくなると思うよ。」
「はい、でもあたしは、ソピア様のお近くに居られるだけで幸せなのですが……」
「まだ先の話しだけど、お互い、自分にしか出来ない仕事は、天に与えられた仕事だと思って、全うしよう。」
「はいっ!」
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
数日後、正式な国際会議への招待をする為に、外交文書を持った特使と、お師匠やヴィヴィさんも一度魔族の国へ顔を出しておきたいというので、私が連れて行く事にした。
移動は、私の空間扉で一瞬だ。もちろん、いきなり魔王宮の中に出たりしないよ。魔都の外から、ちゃんと手続きをして門を潜って入ります。
門の衛兵さんは、私とクーマイルマの顔を覚えていてくれたので、手続きは揉める事も無く、割とスムーズに終わった。
護衛のお役人さんに案内されて、魔王宮まで歩いて行くのだけど、魔族の国の街並みが珍しいらしく、皆キョロキョロしている。
建物は綺麗だし、通りも整備されている。商店も活気に溢れ、道行く人々の顔も笑顔だ。
「驚いたわ。私達の文明レベルと殆ど一緒じゃない。」
ヴィヴィさん、失礼だから。でも、確かにクーマイルマの村での印象では、未開の部族という先入観を持ってしまったのは仕方無いかもしれない。
外交では、相手を格下と舐めて掛かるのは、とっても危険だよ。絶対に態度に出さない様に。
「わ、分かってるわよ。ちょっと驚いただけですー。」
「言い方が子供っぽいですー。」
笑った。外交官さん達も、緊張が取れたみたいで良かった。
ほのぼのとした雰囲気でメインストリートを歩いていたら、突如武器を持った大勢の兵隊に取り囲まれてしまった。
すわ、油断させておいて騙し討か! とも思ったのだけど、どうやらそうでは無いらしい。
魔物が出たというので、護衛に駆け付けてくれたらしい。私達を守るように取り囲んで、周囲を警戒している。
「びっくりしましたー。襲われるのかと思った。」
「クーマイルマは、もっと自分の国の人達を信用した方が良いよ。」
魔王宮へ着くと、魔王様が出迎えてくれた。
「これはこれは、女神ソピア様。ようこそお出で下さいました。外交使節の方達も、遠い所お疲れに成ったでしょう。え? ソピア様の能力で一瞬で来たから、全然疲れていない? はあ、そうなのですか……、やや! あなた様は大賢者ロルフ様ではないですか! あの時の姿のままだ。大賢者様ともなれば、老化なんて超越してしまわれるのですね!」
お師匠、困ってる。お師匠が若返ったのは、私がやらかした事故のせいなんだけど、黙っておこう。
「私を覚えていらっしゃいますか? あの時共に戦いました。あの時は未だ子供と言って良い歳でしたが…… こちらは、その時一緒に戦っていた治癒術氏で、今では私の妻です。」
「覚えておるよ、メフィストとルカルサじゃな。あの時は世話になった。」
お師匠と魔王様は、旧知の再会を肩を叩いて喜び合っていた。
「と、旧交を温めている場合ではありませんでした。よりによってこんなタイミングで申し訳無いのですが、今、災厄がこちらへ迫っていると連絡があったのです。皆様は、城の退避壕へ避難して下さい。町中の物よりも幾分、頑丈に出来ております故。」
「城の避難壕へ入らなければ成らない程の災厄なのか? それでは、街にも被害が出るのではないか?」
「ええ、少なからず出るでしょう。しかし、魔都ではこれが自然災害の様な物なのです。我々は、これを運命と受け入れて生きております。」
「一体何が来ているというの?」
「クジャタです。」
クジャタというのは、世界牛とか言われている、とんでもなくでかい牛らしい。多分、山よりでかい。背中の上に森があったりしてる。多分、何かが棲んでいるかも。
顔のパーツがそれぞれ4万個も有るらしく、それって牛と言い切って良いの? という様な怪物だ。
先程の護衛兵は、魔物と言ったが、正確には魔物に定義はされていない。何故ならば、クジャタは人間の事なんて気にしていないのだから。
ただ歩いているだけで、特にこちらへ攻撃してくる訳ではないのだけど、その歩くだけが天災級の災害を齎すので、魔王様は運命だと言ったのだ。
魔王様の話によると、数十年から数百年周期で、この魔都を通過するとの事。
生き物なので、気紛れで立ち止まったり進路を変えたりするので、不定期にやって来る。
特に、ここを狙って歩いて来る訳ではないのだろうけど、近くを通られただけで結構な被害が巻き起こされるとの事。
山は崩されるし、川は流れを変えてしまうし、足跡に水が貯まればちょっとした湖になってしまうし、町の近くを通られただけで、地盤が隆起したり陥没したりヒビが入ったりと、とにかく迷惑極まりない存在なんだって。
それが今回は、どういう訳かこの魔都目掛けて急に進路を変えたらしい。
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