第224話 世界牛の秘密

 「進路を変えたのが分かったのは、何時?」


 「数日前ですね。今は国から遠ざかる方向へ進んでいた筈なのですが、急にこちらを振り返ったと思ったら、魔都目掛けて一直線に進み始めました。」



 んんっ!? ちょっと待て! それって、私と四神竜がここへ来たからじゃないのか?

 魔王様とお師匠が、成る程、と言う様にポンと手を打った。

 なんだよもー、私のせいかよー。



 「はいはい、分かりました。私が追い払ってくれば良いんでしょ!」


 「いけません! 女神様にそんな事をさせるなんて! ここは、余が何時もの方法で追い払います。」


 「え、追い払う方法があったの? なら任せる。」



 魔王様、世界牛クジャタを追い払う方法を知っているらしい。見学させてもらおう。

 魔物じゃない生物を殺すのは、出来る事なら避けたいんだよね。多分、この星の生態系になんらかの役割の有る生物なのかもしれないのだから。よっぽどの事が無いのなら、追い払うだけにしておきたい。


 バシリスコス『解せぬ!』



 「では、一般の外交官様は避難壕へ退避してて下さい。女神様とロルフ様だけこちらへ。」


 「私も先の大戦では戦闘要員でしたわ。ご一緒させて頂きます。」



 ヴィヴィさんも付いて来るらしい。

 クーマイルマはお留守番しててね。



 「なるべく都市部から離れた地点で戦います。馬車の用意を!」


 「ああ、それなら私が運んであげるよ。」



 私が魔王様を運び、魔王宮の上へ飛び上がると、遠くに山の様に大きな4足歩行の動物が、こちらへ向けて歩いて来るのが見えた。遠すぎて足元には、霞が掛かって見えるほどの距離なのだが、それであの大きさに見えているという事は、相当でかい。



 「ロルフ様も、そちらの女性の方も飛べるのですか。この様な飛行魔導は、余等の時代には無かった物です。」


 「私が考えたの。今、ダルキリアのサントラム高等学院で、学生にも教えてるから、魔族からも留学生を出して下さい。」


 「なんと! 学校で一般にも教えているとは! ううむ、しかし、国交の無い現在、留学生を派遣するというのも……」


 「魔族のクーマイルマも入学したよ。今、私と一緒に通っているんだ。」


 「一緒に来ていた魔族の子供ですな!? ううむ、これは、真剣に考慮する必要がありそうです。」



 私、あちこちで学生の勧誘しているな。

 そんな雑談をしていたのだけど、中々世界牛クジャタに近付いてこない。巨大すぎて、距離感がおかしいんだ。

 だけど、足元の地面が見えて来て、やっと、その大きさが実感されてきた。

 地面から背中までの高さは、多分、高尾山とか東京スカイツリー位かも。高尾山は、599メートル、スカイツリーは634メートル。つまり、体高は600メートルクラスはあるんじゃないかといいう大きさなんだ。

 ちなみに、鋸山は、330メートルで、東京タワーは333メートルです。イメージ湧くかな? 見上げた感じが、スカイツリー位な感じがするんだ。上の方、雲がかかってるし。


 でも、牛か? これ。

 何か巨大な動物ではあるけれど、敢えて言うなら、牛……なのかなー……、象よりは牛……か。馬、よりは牛かな。うーん。

 てゆーか、何かの動物に例えなくてもよくない?


 で、魔王様はこれをどうするのか気になるんだよね。確か、倒すんじゃなくて追い払うって言ったけど、どうするんだろう?

 ちょっとやそっとの痛みでは怯みそうも無いんだよね。こいつが嫌がる何かが有るのかな? 意外とモスキート音だったりして。


 上から見ても、物凄い大きさだわ。

 頭だけでも200ヤルト(200メートル)クラスあるんだよね。頭だけでブランガスの竜形態よりも倍近く大きい。

 ひょっとして、四神竜よりも強かったりするんじゃね?



 『!--それは無い。--!』

 『!--それは無いわよ~--!』

 『!--無いね!--!』

 『!--う~ん、有り得ないのさ~。--!』



 一斉に全否定された。

 確かに、この星の生物よりも弱かったら、神様なんて名乗れないもんね。…………なのか?


 世界牛クジャタの顔を近くでマジマジと見てたら、有る事に気が付いて、ゾクッとした。

 確か、顔のパーツがそれぞれ4万個あるとか言われてるのは知ってたんだけど、良く見たら、巨大な目に見えた部分は、小さな目の集合体だった!

 もっと良く見たら、鼻もそうだし、耳もそうだ! ぎゃー!!

 蓮コラ見た時みたいな、本能的な嫌悪感が呼び起こされるー!

 歯も4万本あるらしいし、その他の顔以外のパーツもそうなんじゃないかって話しもあるんだよね。どうなってんのこの生物。


 まあ、4万本とか4万個というのは、所謂物凄く沢山という意味の表現で、実際に4万有るのか、それよりも多いのか少ないのかは数えてみないと分からないんだけどね。……数えたくないけど。


 色々な国や部族で、漠然と『沢山』を表現する数字というものがある。それは、6だったり8だったり9だったりするわけだ。

 地球の中国では9だったかな? ネイティブ・アメリカンが6だったかな? うろ覚えだけど、日本は主に8なんだよね。八百万やおよろず八咫烏やたがらす八百屋やおや、八雲、八つ浜、八つ沢、八目鰻ヤツメウナギ、八つ裂き、八つ当たり、等の表現があって、本当に8個とか八百万とかでは無く、沢山ですよ、という表現なんだ。

 で、世界牛クジャタの居るこの世界では、それが4なんだろうね。実際に4万有りそうな程密集している。


 近付き過ぎたのか、こっちに気が付いたみたいだ。首をこちらへ向け、口を開けて……、うわ、細かい歯がびっしり生えてるー! 集合体恐怖症トライポフォビア発症不可避!

 長い舌をべろーんと伸ばして来た。この舌も良く見ると……、いや、もう言うまい。言う程気持ち悪さが倍増する気がする。

 舐められる前に距離を取って回避した。こいつ、私を食うつもりなのか?



 「ううむ、わしも世界牛クジャタをこんなに間近に見たのは初めてなのじゃが、……なんとも悍ましい姿をしておるのう。」


 「なんとも、本能的な拒否感というか嫌悪感を催す姿をしていますわ。」


 「ソピア様、少しお離れ下さい。今から追い払います。」



 私が持ち上げているので、私が離れるというよりも、魔王様を離したんだけどね。



 「この位でいい?」


 「はい、町から遠ざかる方へ移動して頂けますか?」



 見ていると、魔王様は、大きめの西瓜位の大きさの真っ黒な玉を生成しはじめた。

 一瞬、黒玉!? と思ったのだけど、重力は感じられない。私の黒玉は、ほんの豆粒位の大きさであの威力だった事を考えると、こんな大きな黒玉を作ってしまったら、星毎飲み込まれてしまうところだろう。

 では、魔王様の作った黒い玉は一体何?



 「ではいきます!」



 魔王様は、その黒い玉を世界牛クジャタの顔へ向けて撃った。

 黒い玉は、世界牛クジャタの口の中へ吸い込まれて行き……



 ヴォオオオムウオオォオオオオ……ヴオォォオオ!!!



 物凄い重低音の咆哮を放った。

 ほぼ、低周波振動域の咆哮だ。身体がビリビリする。

 体の上の方を覆っていた雲が掻き消え、背の上に生えている森の木を震わせ、何か鳥の様な物が一斉に飛び立った。体からも埃なのか、黒い粉? みたいな物が、もわっと地面に落ちて行く。


 いや、あれは、粉なんかじゃない!

 私は、ポーチから遠眼鏡を取り出すと、その落ちて行く粉の様な物体を拡大して観察した。



 「魔物を生んでいる?」



 そう、遠目には、体に長年積もった土等の埃が、振動によって落ちて行く様に見えたのだけど、遠眼鏡で拡大してみると、体中から生えた、目鼻、手足等のパーツがそれぞれ一つの個体に成り、垢の様に剥がれ落ちて落下して行っているのだ。



 「なんという事じゃ、魔物は世界牛クジャタが生んでおったのか。」




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