第222話 黒いピラミッド

 神竜達が凄い勢いで食事を平らげてくれているので、私達は普通の分量を普通の時間で食べる事が出来た。

 村長さんは、隅っこの方で所在無げに気配を消して、無言で食事をしている。こっちに混ざればいいのに。

 私は、ここに来る途中で、村長さんが気になる事を言っていたのを思い出し、聞いてみる事にした。



 「そう言えば、ここに来る時に聞いたのですが、この国は、首都の他に5つの町が在ると聞きました。もしかして、首都を中心に五芒星ペンタグランマの形に配置されてますか?」


 「良くご存知ですね。綺麗な五角形に配置されていますよ。」


 「では、首都の中心に、ピラミッドがあったりします?」


 「ピラミッドですかー……、はて? 首都の中心は、王宮の敷地なのですが、その様な物はあったかな? 中心辺りというと、神殿が在りますが……」



 神殿ねえ…… ダルキリアも上に城を建てて隠されていたから、ここも神殿で隠してあるのかも。

 私は、許可を取り、その神殿へ案内して貰う事にした。ここの神殿も、かなり大きな建物だった。

 何何? 何をするの? という様に、食事を終えた四神竜も付いて来た。



 「この中へは入れますか?」


 「はい、女神様の御言い付けとあれば、なんなりとご希望に沿いたい所存なのですが、……しかし、ここは厳重に鍵が掛けられ、もう何代も昔から、中へ立ち入っては成らないと言い伝えられているのです。この扉に掛けられた鍵も遠い昔に紛失してしまい、破壊するしか扉を開くすべが御座いません。」


 「あ、許可さえ出して頂ければ結構です。壊さなくても大丈夫です。」



 私は、目の前の空間壁に壁ドンをすると、波紋の揺らぎが起こり、ぼやっとした穴が開いた。



 「う~ん、子猫ちゃんのやり方は、まだまだスマートじゃないね~。」


 「僕と同じ位かな。」


 「我よりは全然上手だぞ。」


 「ンマ~、ユーちゃん、こんな所で点数稼ぎ?」



 やっぱり、空間操作はフィンフォルムが一番上手いのか。

 それにしても、四神竜は、私の開けた穴の中に興味津津なんだよね。初めて友達の家に遊びに来たクラスメートみたいな反応するんだ。皆の開ける穴と、中身が違ってたりするのかな?



 「そりゃあ、まあ、女の子のお部屋だし。」


 「意外と散らかってないのが好感よね~。」


 「我とブランガスは、既にお邪魔した事があるのだ。」


 「あの宇宙がお洒落だよね~。宇宙持ってる神様って、子猫ちゃんだけだよ~。」



 聞く所によると、魔導倉庫空間の様に、皆が使っているのも同一空間であるには違いないのだけど、別々に入って中で出会うのは、多分不可能なのだそうだ。

 例え隣で開いても、中でのお互いの距離は無限遠だとかで、自分がどれだけの空間を独占しようと、それが例え、自分の考える無限大の空間であろうと、その無限大と無限大の間は、更に無限大離れている、みたいな感じらしい。だから、魔導書架みたいに他人の荷物を他の人が取り出すというのは、不可能。それ故に他人の空間には興味が有るんだって。


 ただ、不思議なのは、外の空間からなら、中の人が近付いて来た気配を感知出来る者は居るという所。

 例えば、金魚すくいで外からなら金魚が近付いて来たのは分かるけど、水中での金魚同士はお互いが無限遠離れているので出会えない、みたいな感じ? 上手く説明できないや。


 ゼロの領域ヌル・ブライヒの無限空間と、魔導倉庫の7次元空間の特性が完全互換じゃないので、使い分けが必要になる所がちょっと面倒臭いんだよね。


 私は、皆を私のゼロの領域ヌル・ブライヒ内へ招待した。



 「「「「お邪魔しまーす。」」」」


 「さあ、皆も入って入って!」



 神竜達は、我先に飛び込んだ。魔王様達は、恐る恐るという感じ。

 皆が入ったのを確認して、神殿内部へ移動してみる。


 扉を突き抜け、建物の内部へ侵入する。そこは、床板も張っていない、広い土間が広がっていた。

 私は、ああこれは、ダルキリアの王城と似ているぞ、と思った。



 「ダルキリアの王城と似ているわね。」



 ケイティーは、私のモノローグが聞こえているのだけど、魔王様達に分かり安い様に、敢えて声に出して言ってくれた。有能な秘書だ。



 「秘書じゃありません。」



 この広い空間内には、案の定アレが中央に在った。

 高さ2ヤルト程のピラミッドが。



 「でも、黒いわね。」


 「うん、ダルキリアのは白かった。なんか、嫌な予感がする。」



 これ、ここで空間から出たらヤバいやつかも。

 黒いピラミッドの先端からは、アンチマナが吹き出し、この空間を満たしている。つまり、この空間はマナ喰いの巣窟なのだ。



 「これは、ここのピラミッドが逆様なんだ。」


 「逆様?」


 「うん、私達が見た2つは、星のマナを吸出し、地上のアンチマナを星の内部へ捨てる様に働いていた。ここのはそれが逆なんだよ。」


 「つまり、地上へアンチマナを吐き出し、星の内部へマナを注入している? 何でそんな事を?」



 12基あるピラミッドが、全部が星のマナを吸い出す装置だったら、星のエネルギーは瞬く間に枯渇して、星自体が死んでしまう。流石に古代人もそこまで馬鹿じゃなかったという事。

 それにそんな装置だったら、神竜達が黙っては居ないだろう。

 私の想像なんだけど、12基の内半分の6基は、ここと同じに星の内部へエネルギーを注入するための装置なんだ。



 「何の為に、そんな事を?」


 「あくまで私の仮説なんだけど、古代人は、他の地域よりもエネルギーの高い地域、つまり人為的なパワースポットと言うか、パワーエリアを作って、それを利用して生活をしていた。農業をすれば、作物がよく育ったり、人は活力を得て活気に満ちた活動が出来る地域を作ったんだ。だけど、それだと星のエネルギーバランスが崩れるので、反対の地域も作ってバランスを取った。」



 マナのエネルギーをプラス、アンチマナのエネルギーをマイナスとすると、何も無い状態はこう。

 【0】【0】【0】【0】…………

 全体のエネルギーは、フラットで、偏りは無い。


 だけど、人為的に偏りを作ってこうしたんじゃないかな。

 【10】【-10】【10】【-10】…………



 「10の地域に国を造り、人が住んだ。-10の地域には魔物と魔族が住んだ。」


 「ちょっと待って、魔物は分かるけど、魔族は何で?」


 「それなんだよねー、きっと、アンチフェーズに耐性があって、魔物の管理人としての役割を担っているのか……」



 誰にその役割を任命されたのかは不明だけどね。

 私は、神殿の地下を調べる為に、地下方向へ進んでみた。

 それによると、地下部分は、ダルキリアみたいな蓋をされた空洞では無く、完全に埋められている様だった。

 ピラミッドの基底部を確認し、更にその下へ潜って行ってみると、予想通り逆さの白いピラミッドがあった。

 私達は、地上へ戻り、ゼロの領域ヌル・ブライヒから出た。



 「ううむ、我々魔族のみならず、人類全体の歴史にも関わる話しみたいですな。」


 「私達は、今それを調べていて、今の所ピラミッドは、ここを含めて4つ見つかっています。」


 『!--ソピーよ、世界中の賢者を集めた国際会議に、魔族の賢者も出席する様に依頼してくれぬか。--!』


 「魔王様、今、大賢者ロルフより、この件に関して話し合う、国際会議に魔族の賢者も出席して欲しいと依頼がありました。」


 「成る程、それは是非出席させて下さいとお伝え下さい。」


 「はい、では詳細は、追って使節を派遣しますとの事です。宜しくお願いします。」



 私達は、魔王様にお礼をして、魔族の首都を後にし、村長さんを村へ送り届けてから、クーマイルマを連れてお屋敷へ帰還した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る