第221話 魔王
4日後、クーマイルマを迎えに行く為に扉を開くと、そこには大勢の村人が集まっていた。
私の顔を見つけたクーマイルマが、沢山のお土産を抱えて嬉しそうに私の方へ走って来た。
「ソピア様、見て下さい! 皆からこんなに沢山のお土産を貰っちゃいました!」
「良かったねー。飛行術を習えばここまでは直ぐに飛んで来られるから、次からは好きな時に帰れるよ。私が居る時なら、扉で送ってあげるし。」
「はいっ!」
明日編入を済ませれば、一緒の学校へ通うことに成る。生活リズムが同じになるので、色々と都合が付け安く成るね。
クーマイルマは、両手いっぱいのお土産を倉庫に仕舞い、さて帰ろうかという所で村長さんに呼び止められた。
「女神様、もし今度お時間が御座いましたら、我々の国の首都へお越し願えませんでしょうか?」
「え、首都?」
そんなもんあったの?
『--そりゃあ在るでしょう、国なんだから。--』
『!--ああ、そうなのか、国だもんね。とすると、ここは私達の国で言う所の外郭村に当たるのか。--!』
ケイティーにつっこまれた。
テレビとかで、東南アジアとかアフリカとかの奥地の原始生活をしている村とかを紹介される事が有るけど、その村が所属する国の首都は、高層ビルが立ち並んでいて、物凄く発展していたりする事があるんだよね。村を一個見ただけでその国の全体を知る事は出来ない。中国だって、奥地は発展途上国然としているけど、上海なんて、未来都市みたいだもん。
魔族の国が、王国なのかどうかは分からないけれど、国王は居るのかな? その首都はどんななのか興味が有るなー。
「じゃあ、今から行こうか。」
「えっ? 今からですか? しかし、森の中を進むのは、慣れた我々でも10日程は掛かりますので、日を改めてと思ったのですが……、女神様なら、距離など関係無いのですね。」
そうです! もはや距離など関係ないのです!
とはいえ、扉は場所が分からなければ開く事が出来ない。だから、私が案内の村長さんを持ち上げて飛んで行こう。
私は、クーマイルマと村長を持ち上げ、飛行態勢に入った。クーマイルマは、私に運んで貰うの嬉しいのかな? 満面の笑顔だ。
「あちらの方角です。」
「了解! ケイティー、付いて来て。」
「分かったわ。」
音速飛行に入ろうとスピードを上げて行ったのだけど、音速に到達する前に目の前に大きな街が出現してしまった。
「ここ?」
「いえ、ここは、首都の周囲に5つ有る大きな町の一つで、首都は更に向こう側にあります。あっ、この高さから見ると、既に見えていますよ。」
「ふうん? 首都の周囲に5つの町があるのかー……、あれ? それってもしかして……」
クーマイルマの顔を見たら、彼女も今初めて知ったのだそうだ。生まれてから一度もあの村から出た事が無かったらしい。
その魔族の国の首都という大きな都市の入り口だという門の前に降り立つと、衛兵らしき武器を持った男達に取り囲まれて威嚇されてしまった。
「貴様らは人間か! 何しに来た!」
「お、お待ち下さい! 私はアルナハル村の村長を勤めております、サヴリルと申します。以前に報告を上げておりました、女神様が再訪されましたので、魔王様に御目通り願いたく、お連れした次第であります!」
「女神、だと?」
衛兵が胡乱な目で私達をジロジロ見てくる。感じ悪いな。
人を呼んで置いてこの扱い、どうしてくれようと思っていたら、連絡が届いたのか、役人らしき人が大慌てで走って来て、丁重に案内してくれた。
それにしても、魔王かー……、まあ、魔族の王様なんだから魔王で合ってるのか。
門を通って入った時に目に入った街並みは、木造家屋の立ち並ぶ街路だった。日本みたいな感じでは無く、北欧とかに見られるみたいな感じで、茶色の軸組の木材と、白い壁が印象的だ。建物の高さは、最高で3階建て位までのものが多い。1階だけがレンガや石積みで、2階より上が木造という建物も在る。同一様式の建築デザインで、整然と立ち並ぶ街並みは、とても綺麗だ。森の資源を使って、森と共生している感じがよく分かる。
宮殿だという建物に案内されたが、ここも木造だった。かなり大きな建物だ。
「只今、我が魔王様へ御目通り頂きますので、どうぞこちらの謁見の間へ……」
「ちょっと待て!!」
クーマイルマが急に大声を出したので、私もケイティーもビックリしてしまった。
「どちらがどちらへ謁見すると言ったか!?」
「ま、まあまあ、クーマイルマ、落ち着いて。訪問したのはこっちなんだからさあ……」
「ソピア様、いけません! 立場の上下関係は、きちんとしないと!」
そんなやり取りが聞こえたのか、謁見の間の扉が内側から開いて、中から声が聞こえた。
扉を開けてくれたのは、魔族の高貴そうな年配の女性だった。
「どうぞ、お入りくださいませ。」
「こ、これは、王妃様自ら、痛み入ります。」
王妃様に導かれて中へ入ると、そこには壇上から降りて、中央に敷かれた絨毯の外へ出て傅いている、一人の老人の姿が見えた。
「女神様におかれましては、この様な辺境の小国へご降臨頂き、誠に恐悦至極に御座います。」
顔を上げたその老人の容姿は、なんというか、魔王だった。私達の想像する、魔王そのもの。どっちかというと、サタンとかデーモンとかの悪魔っぽい感じかも。本能的に恐怖感を感じる容姿だ。なのに、言葉は丁寧。そこがまた怖い。
でも、顔に出さない様にしなくちゃ。ここは得意のポーカーフェイスで……って、ケイティー、その露骨な表情やめい!
王妃様と呼ばれた女性も、その隣に傅き、祈りの姿勢を取った。
「あー、私、堅苦しいのは苦手なんで、どうぞ王様と王妃様は、壇上の玉座の方へお掛け下さい。私も楽にさせて貰いますから。」
「いえ、それでは女神様を見下ろす形に成ってしまいます。そうだ、では、会食の予定を早めて、そちらへ移動しましょう。」
うーん、なんという手回しの良さ。私が来る事が分かってたのかな? そう質問すると、王妃様がその疑問に答えてくれた。
「はい、半年前にアルナハル村へご降臨なされた際に連絡が届いていまして、城の魔導師達が再訪を祈り、定期的に気配を伺っておりました所、今日はなんと、こちらへ近付いて来ていると大騒ぎしているじゃありませんか。先程から、城中大慌てで御迎い入れの準備をしておりました。」
なんなん、魔族の人達、メッチャ素朴でいい人ばかりやん。何でこんな人達を魔族とか魔王とか呼んでるの。イメージ悪いわー。
それからは食事をしながらの歓談となった。眼の前のテーブルには、食べ切れない程の量の料理が、次々と運び込まれて来る。
「そうでしたか、大賢者ロルフ様のお孫さんでしたか。あの大戦では、私達も一緒に戦ったのですよ。私達は、邪竜と成る前の地竜を信仰しておりまして、辛い戦いでした。」
「あ、そうなんだ、ユーシュコルパスを信仰してたんだ。じゃあ、呼ぼうか?」
「え?」
「呼ぶ?」
魔王様と王妃様が素っ頓狂な声を上げた。
私は、ユーシュコルパスは転生して、今は幼竜の姿をしている事を話した。そして、うちに住んでいる事も。
じゃあ、呼ぶよ、いいね? ……返事が無い、ただのしかばねのようだ。
扉を開いて、ユーシュコルパスだけを呼んだつもりだったのだけど、料理の匂いに釣られて四柱とも来ちゃった。
魔族の人達は、神気を感知できるみたいで、四柱が出てきた途端、全員が跪いた。
「今は人竜に変身していて、皆同じ顔だから見分けが付かないかも知れないから紹介するね。白いのがユーシュコルパス、赤がブランガス、青がヴァンストロム、黄色がフィンフォルムです。」
魔王様達は固まったまま動かない。ユーシュコルパスは、魔王様達の前へ進み出ると、声を掛けた。
「魔族の王よ、あの時は世話を掛けたな。」
「ははっ! 勿体無いお言葉で御座います!」
魔族の王様と王妃様は涙を流して喜んでいる。
四神竜の手を取り、次々と口づけをして、挨拶をしている。
「我が国へ四神が揃って御降臨された事は、末代までも自慢になりましょう!」
「ねえ、そんな事よりさ、料理はもう食べちゃってもいい?」
ヴァンスロトムは本当に子供っぽいな。良いよ、食べなよ。神様を止められる者なんて、この世界に居やしないんだから。
それを切っ掛けに、皆自由気儘に食事にありついている。食事のマナーなんて知ったこっちゃないって食事風景なんだけど、魔王様も王妃様もにっこにこだ。
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