第218話 第三のピラミッド

 空間扉の出口は、スパルティアの上空。

 扉を出た瞬間に、落下し始めた。



 「「「「「「「「うわあああああああああ!」」」」」」」」



 男達大絶叫。私達は空飛ぶ事は慣れてるけどね。

 でも、飛竜に掴まれて飛ぶのは、怖いかも。今は翼で飛んでるし、そうすると、上下動で重力加速度の強弱が生まれて、結構酔うかもしれない。こいつらには良い薬だけどな。


 それよりもだ。

 ビックリしたんだけど、スパルティアも五芒星ペンタグランマの都市だった!

 ピラミッドは、塞がれてない。ちゃんと露出している。そこを中心に、ドーナッツ状に都市を形成しているみたいだね。

 思うんだけど、ここの権力者は、マナの力を悪い事に使っちゃってるだろ、これ絶対!

 王族は、結構調子に乗っちゃってる感じが、上空から街の作りを見てもなんか分かるよ。豪華絢爛な建物と、郊外の貧民街がきっちり区分けされているのが一目瞭然だよ。

 街の構造見ただけで分かるって、大概だと思うよ。


 さて、気持ち良さそうに気絶している、おしっこいっぱいもれたろう共を叩き起こして、一番立派な建物、つまりお城の尖塔の上へ降り立つ。

 降りる前に、飛竜達に大声で鳴きながら、ぐるぐると飛び回って民衆の注目を十分に集めておいてもらう。

 飛竜達は城のバルコニーに八人を降ろし、天使の姿に戻って、屋根の上に居る私とケイティーの元へ戻って来た。。


 直ぐ様、バルコニーに男が一人飛び出して来て、平伏した。

 私は、魔力により大きな見えないメガホン状の拡声構造を作り、民衆にも聞こえる様に、そして厳かな雰囲気を持たせつつ、静かに声を掛けた。



 「お前がこの城の主か?」


 「い、いえ、我が王は、自室にて病に臥せっており、代わりに公爵である私が、事情をお伺いしたく存じます!」


 「ほう、ここの王は、我が子に責任を押し付け、仮病で振るえながら自室の寝所へ隠れている、と?」


 「け、決してその様な事は……、いえ、女神様には隠し事等出来様筈も御座いません。父に代わりまして、この通り、謝罪を致します! どうか、どうかー! 国を滅ぼす事だけはー!」



 あの時居たのかな? この人。よく覚えてないんだけど、あの時、次は国ごと消滅させようかとか言ったっけ? 言ったような気もするな。よく覚えて無いや。



 「今回は、そこまでする気は、無い。そこに転がっている、戯け者を届けに来ただけだ。」


 「ははっ! この者が何かしでかしましたでしょうか? 確か、外国へ留学をさせようと送り出しましたのですが……」


 「私は、何時でもそなた達の行いを見ていると言ったはず。覚えておろう?」


 「ははっ!」


 「ダルキリアは、現在四神竜が滞在しており、天界にて警護の対象となっておるのだ。その戯けは、そこで狼藉を働き、女生徒を沢山傷付けた。我々はそれを見過ごす事は出来なかった。故に、ここへ連れ戻したという訳だ。詳しくはその者達を問い質すが良い。今回は大目に見るが、次は無いと知れ。」


 「ははあー!慈悲深きご采配、痛み入ります!!」


 「では、さらばだ。くれぐれも、国を失う事の無い様に、気を付けよ。」



 私達は、天空に開いた光の円(空間扉)の中へ消え、サントラム高等学院へ帰った。



 ………………


 …………


 ……








 「いえーい!」


 「いえーい!」



 学食棟の人気ひとけの無い陰の所へ出て、私達は、パチンパチンとハイタッチして、作戦の成功を喜びあった。

 飛竜達にもお礼を言って、お屋敷へ帰って貰った。

 私達は、変身を解き、何食わぬ顔でざわつきが未だ収まらない皆の中へ紛れた。


 午前中の授業は一個さぼっちゃったけど、なんとか取り戻せるだろう。それよりも、アーリャが無事で良かった。

 私のカリキュラムでは、午前に2個、午後に2~3個の講義を入れてある。1年生は、殆どがその枠が一般教養で埋まってしまうのだけど、一般教養の一部を2年以降に回して、先に高等技術講義を受講する事も出来る。私は、自分で考案した魔導は受講するつもりは無いので、1年時に思いっきり詰め込んでしまって、2年以降は余裕を持ってカリキュラムを組んでいるんだ。それは、ケイティーも同じ。

 だから、1個位落としても、後で取り返しが着くかなー……、なんて考えているけど、甘い? 甘いですか、そうですか。真剣にやりますよ。はい。


 お昼に、馬鹿王子が失禁したテーブルとは離れた席で食事をしていたら、アーリャ達も同じ事を思ったらしく、私達の隣へやって来た。無言で、だよねーと頷きあった。



 「アーリャ、怪我は大丈夫?」


 「お陰様で。口の中を少し切ったけど、ナージャが直ぐに回復を掛けてくれたので、もう何とも無いわ。それにしても、あいつのあのザマったら、無かったわ。あはは! 傑作。」


 「スパルティアでかなり脅かして来たから、もうああいう事は無いと思いたい。あ、そうだ! 思い出したんだけど、スパルティアもピラミッドを中心にした五芒星ペンタグランマの国だったんだよ!」


 「そうなの? 第三のピラミッドかー……」


 『!--ソピアちゃん、そういう事は、直ぐに報告して頂戴!--!』



 ヴィヴィさんに注意された。テレパシーで自在に映像も送れると便利なんだけどなー。成功したのは、地下遺跡でお師匠に映像を送れた、あの時一回きりなんだよね。今度じっくり練習してみようっと。



 「私はあの変身術の凄さに驚嘆しました。あれは是非習得したいものだわ。」


 「そう! それ! あの女神と天使がソピアとケイティー達だったなんて、後で聞いてビックリしちゃった。」


 「変身術も、そのうち講義が開始されるから、受講すると良いよ。」



 天使の輪も電撃も飛行術も変身術も学校で習うから、天の使いでハッタリが効くのは今の内だけに成っちゃうな。

 ネタバレした後に、怒り狂う人達が出ない事を願う。


 そう言えば、スパルティアってウルスラさんの国の隣だから、うちの国からは一つ飛ばして向こう側の国で、今の所国交は無いとはいえ、割と近い国ではあるはずなのに、何で今迄ピラミッドを中心にした五芒星ペンタグランマの国だという事実に、誰も気が付かなかったのかと言えば、うちの国でもピラミッドを中心とした国家だという事を知っているのは王族だけだったという理由と、そういう国が他にも在るというのを知ったのは、つい先日だからなんだよね。


 それと、ピラミッドは、深い穴の底に在って、地上からは精々数ヤルト程度の高さしか見えない。

 スパルティアの場合は、うちの国みたいにその上に城を築いて隠してあったりはしていないのだけど、穴の周囲をぐるりと高い建物で囲ってあって、一般の旅行客や外国の使節は、その向こう側にピラミッドが在るなんて全然見え無いし、知る由も無かったからなんだよね。

 私が上空から見て、初めて発見したって事なんだ。

 街の構造も、うちの国は放射状で、何処の通りからでも城が見える様な構造に成っているのだけど、スパルティアは、高空から見た感じ、同心円状の構造で、外側へ行く程、市民の階級が低くなる様に出来ているみたいで、中心部は王族や高級貴族しか立ち入れない様な街の構造に成っている。あの国はあの国で、王族によりそういう風に隠蔽されていたのだろう。



 『--早急に、スパルティアとは国交を開き、情報を共有しなければならないわ。出来るならば、調査団も派遣したいし。--』



 なんか、ああいう乱暴な国と国交を開いて、上手く行くのかな?

 まあ、地球でも、仲良くない国とも国交はあるわけで、騙したり騙されたり、狐と狸の化かし合いみたいな事は日常茶飯事なんだけどね。

 こっちの国では、殆どが王国なので、王様そのものが国だ的な感じなの。地球みたいに国の構造が複雑で、国対国みたいな、謎の巨大権力同士の闇の駆け引きというよりは、もっと単純に王族同士の付き合いがイコール国交的なとこがある。あの家は仲が良いから、家族ぐるみの付き合い、こっちの家は仲が悪いから付き合いは無し、みたいなノリなんだよね。

 で、ウルスラさんの国とは、殆ど親戚付き合いレベルの仲の良さで、そこにちょっかい掛けてくるスパルティアには、あまり良い感情は持っていなかったとはいえ、同じピラミッドを利用している国同士としては、是非お付き合い願いたいという気持ちが無きにしもあらず、って事なのかもね。


 さて、あっちの国の指導者が馬鹿じゃない事を願う。


 ……あれ? 今なんか一抹の不安が……




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