第219話 クーマイルマの帰省

 「ソピア様! 試験に合格しました!!」



 学校から帰宅した、クーマイルマが開口一番にそう告げた。



 「やった! 凄いね! 全部の試験をストレートでパスしちゃったわけか。」


 「はい! 明日卒業証書を貰って、5日後に高等学院へ入学手続きをして、来週には一緒の学校へ通えます!」


 「魔導剣術科で分からない事は、ケイティーに案内してもらうと良いよ。」


 「それが、私は、ソピア様と同じ、魔導科で編入しようと思っています。」


 「えっ、そうなの? 弓はどうするの?」


 「弓も使える魔導師で行こうと考えています。幸い、専門課程も講義形式に成っている物が多く、弓術の講義も有りましたので。」


 「成程、そう言えば、アーリャも刀術の使える魔導師って言ってたっけ。じゃあ、後で同じ授業に出られる様に、カリキュラムの組み立てを一緒に考えよう。」


 「はいっ!」



 めっちゃ嬉しそうに返事するなー。まあ、そうだよね、それを目標に勉強して来たんだから、嬉しいのは当たり前か。

 剣術の使える魔導師、魔導も使える剣士という様に、この学院には剣術しか使えないという人は居ないんだよね。魔導だけの人なら居るけどね。何故なら、当初は高等魔導を教える為の学校という位置付けで作られる予定だったのだから。


 だけど、ケイティーが少ないながらも魔力を持っていて、魔導鍵を起動出来たのを知ったヴィヴィさんが、魔導師と名乗る程の魔力は持ち合わせていなくて、剣士をやっている人も少なからず居るという事実に鑑みて、ある一定以上の魔力を持っているが剣士の道を歩まざるを得なかった人も救済しようと新設したのが、魔導剣術科なんだ。


 それには、ケイティーの、少ない魔力でも瞬間的にオンオフを繰り返して、効率的に魔力を剣術に組み込む、独自の剣術の功績も大きい。そういう魔力の運用の仕方を集中的に教える学科なのだ。


 本来なら、私もケイティーも、学生じゃなくて講師とか教授的な立場になるのだろうけど、将来は王城勤務が約束されている身としては、それに相応しい教養も身に着けて貰わなければならないという事で、学生の立場となっている。


 私に関しては、まあ、こんな事になっちゃったので、何処かの国へ所属して働くという事は無く成っちゃったんだけどね……



 「なので、明日、卒業証書を貰ったら、二泊三日位でちょっと魔族の村へ帰省して来ようと考えています。」


 「ああ、あれからもう半年も経つんだもんね。親御さんや友達にも会いたいでしょう。行っておいで。私からもお土産渡すよ。」


 「有難う御座います!」



 私からのお土産は何が良いかなと考えていたら、メソ汁とスーパーメソ汁が欲しいと言うので……ちょっと待て!



 「メソ汁言うなー。泣くよ?」


 「あわわ、申し訳ありません! では、何と呼べば良いのでしょう?」


 「エリクサー、スーパーエリクサーでお願いします。マナ水または、ゴールデンアクアでも良いよ。」


 「はあ、では、エリクサーと呼びます……」



 さり気無く、マナ水とゴールデンアクアは却下になった模様です。

 それから、怪我の治癒に(激痛だけど)絶大な効力が有る、ブラ汁も一緒に持たせた。

 そう言えば、クーマイルマは勉強が忙しくて、音速飛行習って無かったんじゃなかったっけ? 行き帰りは私が送って言ってあげようかな。








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 翌日、クーマイルマは、一人だけの卒業式をしてもらい、卒業証書を貰って、お昼前には帰って来た。



 「荷物は全部揃ってる? 忘れ物は無い?」


 「はい、全部倉庫へ仕舞ってあります。何時でも出発出来ます。」


 「じゃあ、出発するよ!」



 例によって、目の前の空間を叩くと、空間に波紋が広がり、例のピンクのドアが現れた。



 「何時も思うんだけど、ソピアの出すこのピンク色のドアって、何かモデルがあるの?」


 「えっ? あ、うん、私の居た異世界での、とっても有名なドアなんだよ。」


 「ふうん、ピンクって所が、何かきっとロマンチックな物語が有るんでしょうねー。恋人未満の二人が、毎日この扉を隔てて仄かな愛を育んでいた。しかし、何時もドアノブに手をかける所迄は行くのだが、扉を開く勇気は出無かった。だけどある日、女は何らかの理由で遠くの地へ引っ越さなければならなくなってしまい、男は最後のチャンスと遂に扉を開く決意をし……」



 そんなものは無い。だけど、ケイティーの頭の中に有る、浪漫溢れる物語は壊さないようにしておこう。


 扉を開くと、そこはクーマイルマの育った、魔族の村の中央広場。

 扉の回りには、村の中央に突然現れたピンクの扉に驚いた、魔族の村人が武器を手に集まっていた。

 扉をくぐって出て来た、クーマイルマと私とケイティーの姿を見た村人達に、ビックリされ、反動で大歓迎をされてしまった。



 「これはこれは、女神様とその従者様。そして……、お前は、クーマイルマか! 直ぐに分からなかったぞ、こりゃあビックリしたわい。見違えたぞ。」



 村長さんは、何よりクーマイルマの変わり様に驚いたみたいだった。

 そう言えばそうか。魔族は風呂に入らない代わりに、濃い色の獣脂を体に塗って肌を保護していたのだけど、人間の世界で風呂へ入る習慣を身に着けてしまったので、獣脂の替わりに良い匂いのする香油を塗るようになってしまったんだ。

 魔族の塗る獣脂は、魔物から抽出した物で、人の匂いを消し、森の中で目立たなくするという意味もあったのだけど、ここの人達に私達の使っている香油をあげても邪魔になっちゃうのかな?



 「キャー! あたいにもちょうだーい!!」


 「押さないで、いっぱいあるから。」


 「キャー! 良い匂ーい!」



 う、うん、香油は100% 天然成分……だもんね、自然の匂いって言っても過言……ではない、の、かな?

 魔族の女性達に大人気だったよ。クーマイルマが群がる女達に、サンタさんみたいにプレゼントを配ってる。

 男連中が、自分達にはプレゼントが無いのかと、その様子を羨ましそうに遠巻きに見ているよ。クーマイルマ、気付いてあげて!

 あ、やっと気が付いたみたいだ。

 男達には、クーマイルマ厳選の、1本小銀貨1枚(1050円)位の矢を一人50本ずつ。30人位居るから、それでも150万円超えてるのかー、うーん。



 「それから、女神様下賜品である、め……エリクサーを一人1本ずつ。」



 おい、今、メソって言いそうになっただろ! 聞き逃さねーぞ!



 「それから、怪我も一瞬で直してしまう、火竜ブランガス様のブラ汁エリクサーを、狩りのリーダーに1本ずつ。これは、大怪我をした時の緊急用に使って下さい。凄く痛いので。」


 「痛い?」


 「はい、治る前に一瞬激痛なんです。一瞬だけですけどね……一瞬だけ。」



 クーマイルマがあの痛さは経験した者にしか分からないぞと言う様に、皆と視線を合わせずに言った。



 「プレゼントは以上です。」


 「「「「「「「「「「どうもありがとうー!」」」」」」」」」」



 感謝されてる。だけど、そのまま立ち去ろうとするクーマイルマの肩を私は掴んだ。



 「スーパーエリクサーは?」



 ちっ、バレたって顔しやがった。自分の物にしようとしてたな?

 あれは、栄養状態の悪い子供用に作ったんだぞ。



 「あっ! もう一つ忘れてました! 村長様ー!」



 こいつ、悪い子やー。

 ちゃんと、子供の栄養補助、産後の肥立ちの悪いお母さん、病中病後の栄養補給等に、一人一滴を最高3日までという約束で与えるんだぞー。




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