第215話 学食は封鎖させません

 多分ね、光の三原色なら、赤(レッド)、緑(グリーン)、青(ブルー)、の三色を混ぜると、白に成るんだよね。

 色の三原色なら、赤(マゼンタ)、黄(イエロー)、青(シアン)、の三色を混ぜると、黒になるんだ。理屈の上ではね。


 まあいいや、何色に成るかとか、別にどうでもいいから、全部混ぜてみよう。

 厨房からお皿を一つ貰って来て、それぞれの液体を一滴ずつ、お皿に落として行ってみた。

 赤、緑、青を一滴ずつ落とすと、案の定白色に輝き出した。やっぱり、光の三原色と同じ? 光ってるんだから、そうだよね。

 そこへ、黄と私の金を落とすと、虹色に輝きながら光量を増し、目も眩む輝きを放ったかと思うと、爆発した。



 ドドーーーーーーーーーン!!!!!



 興味深げにテーブルの上の皿を覗き込んでいた全員は、激しい衝撃を受けて、壁際まで吹き飛ばされてしまった。

 だけど、こんな大爆発をしたと思ったのに、吹き飛ばされたのは私達だけで、テーブルの上の花瓶も天井のシャンデリアも、一切壊れたり倒れたりしていない。

 生き物だけが飛ばされたのだ。今のは、物理的な衝撃波では無かったのかも。



 「ふわー、びっくりしたー! 何よ一体!」


 「まったくじゃ、これ、ソピア! 迂闊な真似をするでない!」


 「いやー、だってさ、水が爆発するなんて思わないじゃない。」


 「混ぜるな危険! ですわ。」



 皆起き上がって顔を見合わせた。



 「あれっ?」


 「まあ!」



 エイダム様とエバちゃまが、顔を見合わせて驚いている。

 髪の色が二人共シルバーだったのに、プラチナブロンドとブルネットになっている。お師匠もダークブロンドだ。

 老人特有の、コシの無くなったわしゃわしゃっとした髪だったのが、コシの強そうな髪となり、毛量も増しているように見える。多分、毛量は変わらないのだけど、髪の毛一本一本の太さが増したために、毛の量が増えた様に見えるのかも。

 額のシワ、目尻の小じわ、ほうれい線ともに消えてしまっている。すごいな。皆若返ったみたい。

 ヴィヴィさんとウルスラさんは、変身術で作った姿だったから変化は無いみたいだけど。



 「いえ、既に変身術が解けてるわ。通常状態がこれになったの。」



 え、何それ凄い。

 私とケイティー、クーマイルマはというと、特に変化は無いみたいだ。

 多分、生命エネルギーが登り坂の私達子供は、大した変化は無かったのかも。老人達の若返りが顕著に見える。



 「何これヤバいでしょ、四神竜のマナ。」


 「やれやれじゃ、わしはまだ長生きせんといかんのか?」



 お師匠の隣で、エイダム様とエバちゃまが抱き合っている。



 「エバよ、美しいな。」


 「あら、あなたも凛々しいお姿ですわ。」


 「あー、おほん、そういう事は、王宮へ帰ってからやってください!」


 「あらいやだ。」


 「これはすまん。」



 神竜のマナを混ぜると、こんな事になるのか。一滴ずつで良かった。

 この2クァルト(2.5リットル)を全部混ぜてたら、とんでもない事になっていたかも。


 ところで、この神竜汁は、全部色違いなんだけど、色毎に効能が違っていたりするのだろうか?

 『ブランガスの赤汁』は、私の『ソピアの美味しいゴールデンアクア』には無い、辛味と酸味の他、完治後の傷跡まで治してしまう効果が有るんだよね。


 ユーシュコルパスの緑汁

 ブランガスの赤汁

 ヴァンストロムの青汁

 フィンフォルムの黄汁

 ソピアの美味しいゴールデンアクア


 この5つの効能は、しっかり調べてから使うことにしようと思う。



 「ちょっとぉ~、何であなたのだけ金汁じゃなくて、美味しいゴールデンアクアなのよぅ~。」


 「もう、メソ汁で広まっちゃってるから、今更ゴールデンアクアとか言っても無駄だと思うわ。」



 ちくしょう、ちくしょうー! 広めてる奴は一体誰なんだ!? きっと見つけ出して叩きのめす!

 まあ、そっちの件は置いといて、小瓶をいっぱい買って来て、小分けしないと使い難いな。

 工夫して、マナ喰いに出くわした時に、手投げ弾みたいに使えると便利かも。皆に持たせておきたい。



 「その度に、わし等は若返るのか? 嫌じゃなー。」


 「いいわ! それ、絶対いい!」


 「えっ?」


 「えっ?」



 お師匠と女性陣がびっくりした様に顔を見合わせた。

 お師匠は若返るの嫌なのかな?



 「中を薄い仕切りで分けた容器で、投げて割れた時に5つの液体が混ざる様な構造の瓶を作れば良いのじゃないかしら? 任せて、王宮の研究室で試作させますから。」



 ヴィヴィさんとエバちゃまがすっごい乗り気だ。若くなり過ぎると舐められるんじゃなかったのかよ。

 若返ったら若返ったで、活力とか思考の柔軟さなんかを取り戻して、意欲が出て来たのかも。

 まあ、そっちの件は、やる気漲るオバチャン連中に任せておこう。








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 翌朝、学院へ登校すると、学食棟の前で学生達がざわついているのが見えた。

 どうしたのか聞いてみると、学生じゃない大人達が、学食棟を占拠しているのだという。

 朝っぱらから食事かよと思われるかも知れないが、寮生とか、近所に住んでいる学生は、朝食を食べにやって来るんだよね。

 学院でも、朝食をちゃんと摂らないと、頭の働きが鈍くなるとかで、朝食を食べる事を推奨している。


 実は、朝昼晩と、一日三食の食習慣は、歴史が浅いんだ。それまでは、西洋では一日二食だったらしい。忙しい労働者等は、朝食をゆっくり食べている時間が無くて、昼と夜にまとめて食べていたそうだ。

 西洋では、エジソンがトースターを発明して、それを売る為に朝食の習慣を作らせたとか言われているね。


 日本では、武家や商家や農民でも事情は違うのだろうけど、農民の間では、一日に五食を食べてたとか、色々説がある。というか、お腹が空いたらちょっと食べる、というのが普通だったのだろうね。


 日本でも、おやつの習慣があるでしょう? おやつというのは、お八つと書いて、昔の時間の事なんだ。冬至とか夏至で時間がずれるのだけど、大体、現代の地球時間に直して、2時とか3時頃の事を言う。

 大体、間食の事を総じておやつと言うけれど、あれも食事の名残りだ。実は、おやつの時間は3時というのが有名だけど、田舎などに行くと、朝の10時頃にも間食の習慣が有ったりする。つまり、三回の食事プラス、二回のもぐもぐタイムで、五食だ。


 一回の食事でガッツリ食べるのではなく、少しずつ五回に分けて食べるのは、エネルギー効率が良いらしい。腹八分目というのは、そういった、複数回に分けてこまめに補給するという食事法での言葉なんだね。


 こっちの世界でも、大体、一日三食という感じには成っているけれど、実は色々な国から来た留学生向けに、その国の食習慣通りに食べられる様に、一日中いつでも食べられる様に、学食は開かれている。


 皆、そんなに昨日のスイーツが美味しかった? とか思ったのだが、どうやらちょっと事情が違うらしい。

 いや、この混雑の具合は、それ程違っては居ないのか? 学生が昨日のおやつを食べたくて、学食に詰めかけた所、中に入れないのだという。



 「今日は開いていないの?」


 「いや、開いてはいるんだけど……」



 近くに居た、学生を捕まえて聞いてみたら、何だか歯切れが悪い。

 前に出て、覗いてみたら、屈強な武人が入り口を固めて、中に入れない様にしていた。



 「なにこれ? おっさん達、この学院の警備兵じゃないよね?」



 何も答えない。ただ、直立不動で入り口の両側に立っているだけだ。

 私が無視をして中へ入ろうとすると、すっと手で制してくる。結構訓練された人間の動きだ。

 じゃあ、厨房の勝手口の方から入らせてもらおうかなと、そちらへ回ってみたのだけど、そちらにも男が立っていた。

 何だよもう、どうしても中へ入れないつもりか? そっちがその気なら、こっちも好き勝手するぞ?




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