第216話 天使再臨

 「入り口を封鎖しているのは、所詮二人だけだ。皆で副男みたいに走り込んだら止められないんじゃないかな?」


 「うん、学生に暴力は振るえないでしょうし、阻止は出来ないと思う。……福男が何か分からないけれど。」



 学生達と、入り口から少し離れた場所で打ち合わせをして、数十人で一塊に成って、せーので、突貫してみた。



 「せーのっ!」


 「「「「「「「「「「わあああああああああああ!!!」」」」」」」」」」



 ドカーン!



 「「「「「「「「「「ぐえええええええええええ!!!」」」」」」」」」」



 痛い痛い! 見えない壁に激突した。くっそー! この二人、魔導師か!? 帯剣してるから、剣士だと思ったのに! 障壁張ってやがった!

 今ので怪我しちゃった人も居たので、ゴールデンアクアを1滴ずつ与えておいた。

 あの障壁の頑丈さは、結構高位の魔導師だぞ。大貴族のお抱えとか、国の王宮警護人レベルだ。中に誰が居るんだ? どっかの国の要人なのか? そんなのが何でうちの学食を占拠してるんだよ。


 そうこうしている内に、学院の警備兵がやって来た。遅いよ!

 と、思ったら帰って行く。何だよ! どうなってんだよ! 仕事しろよ!

 そう警備兵に詰め寄ったら、我々には手出し出来ませんと、冷や汗ダラダラ。



 「中に誰が居るのさ!」


 「それが、そのう……」


 「歯切れが悪いな!」


 「……スパルティアの第三王子だそうで……」


 「スパルティア? どこだっけ?」


 『--飛竜を捕まえていた、あの国で御座いますよ。--』



 その声は、ウルスラさんか。ああ、あの国ね。何なん? 学食占拠して、テロルのつもり? 今度はうちの国にちょっかいを出して来たの? まーだ懲りてないのか、あのバカ国。滅ぼすか?



 「そ、ソピア、考えが物騒よ。力ある者が簡単に口にしていい言葉じゃないわよ。」



 ケイティーに嗜められた。そっか、私は力有る者だったのか。だけど、口にしてはいないよ。考えただけだよ。人の思考を勝手に読まないでよ。もしかしてこれ、卒業生全員が鍵を持つ様になったら、世界中の人間に私の思考は筒抜けになるのか?



 『--その通りよー。--』



 頭痛い。何その羞恥プレイ。今は未だ親しい人だけだから良いけど、その内会った事も無い人間にも読まれるって事じゃん。これも受け入れなければならないのかー。若干12歳の女の子にはキツイっす。


 それにしても、その第三王子とやらの目的を確かめない事には、兵隊を出す訳にもいかなそう。

 そもそも、テロルなら、王族自らが行ったりはしないだろう。するはずがないよね。どんなに馬鹿でも。

 それに、学食だけを占拠するっていうのも腑に落ちない。



 『--ちょっとソピアちゃん、わたくし今、手が離せないのよ。ちょっと、ご用事を聞いておいてくれない? 事と次第によっては、外交ルートを通じて、うちに手を出して来た償いに、ちょーっと痛い目を見て貰っちゃおうかなーって、思ってるの。--』



 何この、ちょこっとお使いでも頼むみたいな感じ。



 「大変だ! 中に女の子が捕まっているみたいだ。」



 あああ、この現場との温度差!

 女の子が拉致されてるとなったら、話は別だ。ちょーーっと痛い目に、じゃなくて、かなり痛い目に合わせちゃうかもしれないけど、仕方無いよね。



 「あっ居た! ソピア、ケイティー!」



 ラージャとナージャが私達を見つけて走り寄って来た。

 なんでも、中で拉致されている女子の中にアーリャが居るらしい。マジか。

 ビオスでも、朝食をしっかり食べる習慣が有るので、学食で待ち合わせていたらしい。魔導科の寮は学食棟からちょっと離れているので、待ち合わせに遅れない様に早めに出て、先に着いて待っていた所、この事件に遭遇してしまったとの事。

 双子は、どうしようどうしようとオロオロしている。



 「ねえ、中のアーリャとは連絡出来ないの? その、あなた達がピヨピヨやる、なんて言ったっけ、サワラだっけ? それで会話出来ない?」


 「スワラね。あれは、会話するものじゃなくて、探査する為の……、考えた事も無かったな、スワラスワラも同じじゃない。意思を載せた音が聲なんだ。出来るかも!」



 ラージャとナージャは、入り口の正面に立ち、建物の中へ向けてスワラを発した。

 超音波なので、普通の人間には全く聞こえない音声だ。私には、『ピピピュイーギギギキキピヨピヨ』みたいに聞こえているんだけどね。

 入り口の男達は、二人が何かをやっているだろう事に気が付き、片方の男がラージャの肩を突き飛ばした。

 あっ、遂に暴力を振るわれました。これで多少何か有っても言い訳出来るぞ。



 「二人が戻ってきたわ。どうだった?」


 「中のアーリャと話が出来たわ。アーリャもこんな使い方が出来るのかって驚いてた。アーリャによると、中で閉じ込められている娘は、全部で8人。特に酷い事はされていないみたいだけど、大柄な兵隊みたいな男に見張られていて、無理矢理お酌させられたりしているみたい。中の男は全部で5人だそうよ。」



 成る程? 外の男達と同程度の実力の者が中に4人、バカ王子含めて5人という事か。

 女の子の他に、料理人やパティシエも監禁されて料理を作らされている訳だよね。



 「アーリャの実力でも、中の男には敵わなかったの?」


 「かなり強かったらしいよ。王族専用の特別警護兵らしいよ。」


 「ふうん、そーなんだー。」



 ケイティーに言わせると、その時の私は、怖い笑顔をしていたらしい。

 私達は、男達の死角になる、他の建物の陰に回り、作戦会議をする事にした。作戦会議と言っても、殆ど私が一人で暴れるつもりなんだけどね。



 『!--フリーダ、エリアス、エアリス、フレヤ、来て!--!』


 『『『『--御意!--』』』』



 四人(四頭?)は、10数える間も無く飛んで来て、私達の前に舞い降りた。



 「話は大体察しが付いていると思うけど、あなた達に酷い事をした、スパルティアという国の第三王子があの建物を占拠しているの。ちょこっと痛い目に会って貰おうと思う。」


 「神罰ですね!」


 「「「わーい! 神罰神罰ー!」」」



 小竜達が無邪気に燥いでいる。敵討ちさせてやろうと思ったのだけど、特にもう恨んでいたりはしないみたいだね。それよりも私と何かやる事が嬉しいみたいだ。遊んでいる感覚なのかも。



 「あ、あのうー……、こちらの人竜の方達は……?」


 「あ、そうか、ラージャとナージャは初めてだったね。この四人は、元飛竜の親子で、昨日、正竜へ進化しました。あそこを占拠している馬鹿の国のスパルティアで酷い目に会っていたのを私が助けました。それ以来の友達だよ。」


 「えっ、えっ? 飛竜が正竜に進化って……、友達?」


 「あ、ご免なさい、色々と情報量が多くて、理解が追い付いていません。」



 ラージャとナージャが困惑顔だけど、取り敢えずこういうモノだと納得して貰うしか無い。

 さて、馬鹿王子には、ちょっとキツめに脅かして、反省して貰うか。

 あの時みたいにやってみるかな。



 「それで、作戦なんだけど……、変身術でね、ゴニョゴニョゴニョ……」



 フリーダは、あの時の要領で。ウルスラさんがやっていた役は、ケイティーに。プロークがやった役は、小竜達にお願いするとしよう。

 ラージャとナージャは、学生を誘導するのをやって貰おう。



 「では、ヘン・シン! とうー!」



 1号ライダーの変身ポーズを取り、ジャンプして空中で一回転して元の場所へ降りると、変身完了。

 大人ソピアに変身して、衣服は真っ白なローブだ。地球の自由の女神みたいな格好ね。



 「ふええー、それが魔導科で習うという変身術ですかー。」


 「講義形式になってるから、剣術科でも魔力に自信のある人は習えるよ。二人も受講してみるといいよ。」


 「「は、はい、是非!」」


 「ケイティーと竜達も、天使の姿で待機しててね。では、出陣!」




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