第211話 弟子入り

 「さて、本題だ。ヴェラヴェラ、こちらの呪術師のナージャが、あなたに弟子入りしたいんだって。」


 「えっ! ええー!! あたいに弟子入りかー?」


 「ちょ、ちょっと、ソピア! 切り出し方が唐突過ぎるわよ!」


 「あ、ゴメン、私、そういう普通の手続が苦手なんだよー。」


 「あ、うん、神様は何時もそんな感じだから、大丈夫だよー。」


 「あっ! こらっ!」


 『!--他所の人の前で、神様呼びは駄目だって!--!』


 『--あう、あうう、動揺してうっかりしただよー。--』



 なんか、天使だの神様だの、ヤバいワードがポンポン飛び出すじゃんよー。皆頼むよー。

 でもまー、仕方無い。ここは私のスルースキルを全開にして、無かった事にしよう。



 「でね、ナージャが、ヴェラヴェラの細菌を使役する術に興味が有るんだって。」


 「ちょっと……」


 「もし、差し支え無かったら、ヴェラヴェラの弟子にしてもらえないかなーって、思うの。」


 「待ちなさい……」


 「もちろん、毎日という訳じゃなくて、ヴェラヴェラの都合の良い……」


 「待ちなさいって! スルーさせないわよ!」


 「ちっ」



 食い下がってくるなよー。説明が面倒臭いよー。どうせ説明しても信じて貰えないのに、説明しなくちゃならない、この葛藤を分かれよー。

 私は、渋々三人に説明をした。



 「ちょっと、言うに事欠いて、転生者で神格が降りて来ているですって? 嘘ならもっと上手に……」



 「ちょっとぉ~、五月蝿くて寝てられないじゃな~い~。」



 ブランガスが、私達の騒ぎに目を覚まして、寝室から出て来てしまった。



 「きゃっ! りゅ、竜人!?」


 「あ、ブランガスです。竜人じゃなくて、人竜と呼んでね。」


 「ブランガスって、我らの信仰する神竜様と同じ名前じゃないの! 冒涜よ!」


 「あー、そのブランガスです。四神竜が1柱、火竜ブランガスです。」


 「宜しくね~、ビオスの小娘達。」


 「巫山戯ないで!」


 「待って、アーリャ!!」



 祈祷師ラージャが、興奮するアーリャを止めた。何だか険しい顔をしている。

 自分の考えに確信が持てないのか、困惑している様にも見える。

 しかし、再度ブランガスを見つめ、頷いて、アーリャに向き直り、話し出した。



 「賢者アーリャよ、私はほんの一月前位に、我らの信仰の対象である、神竜ブランガス様の気配が移動した事を感知しました。その頃私達は、旅の途中でしたので、確認する事は出来なかったのですが、この神気は、間違い無く我らの神、火竜ブランガス様で間違いはありません。」


 「えっ、は? う、うそっ! 本当なの?」



 祈祷師ラージャは、敢えて『賢者アーリャ』と呼んだのは、これから自分の話す言葉は、冗談でも憶測でも無く、祈祷師としての真実の言葉であると言う事を示す為だった。アーリャはその事に直ぐに気が付き、自らの怒りを抑えたのだが、困惑は隠せない様だ。

 祈祷師というのは、プリミティブな宗教においての神主とか神官に相当するのだろう。アーリャは彼女の言葉に一定の信頼を置いているのがよく分かる。

 そう言えば、クーマイルマも魔族の村では、巫女的なそれなんだったっけ?



 「ほう~? そちらの娘は、私の神気を知覚出来る様ねぇ~。」


「はい、我が同胞がご無礼を申し上げました。どうぞお許しください。」


 「だったら~、あなたはソピアの神気にも気が付いていた筈よね~。」



 ラージャは、ブランガスの咎める様な言葉に萎縮してしまった。

 ラージャの場合は、クーマイルマの様に視覚で見える、という程の感度は持っていないのかもしれない。気配が分かる程度なのだろう。

 それに、自分よりも年下に見える、何だか小生意気な小娘がそれとは、感情的に認めたく無かったというのもあるかもしれない。



 「あー! はいはい! ブランガス、そこまで! 今日は、ヴェラヴェラとナージャの顔合わせで来てもらったんだからね。」


 「あ~ら、ソピアちゃんは優しいのね~。そして、私の扱いが雑で、それがまた……イイ!」


 「普通だよ! だから、直ぐ抱き付くなー!」



 ビオスの三人組は、その光景を見て、ポカーンとしている。



 「あ、それなら、ラージャにはこれあげるね。ブラ汁!」



 そう、それは、赤く光るブランガスのマナが充填された水だ。

 飲めば激辛、掛ければ激痛。ただし、その効果は、消耗したマナをたちどころに回復し、怪我もあっという間に傷跡も残さずに治してしまうという、赤いエリクサーなのだ。

 小瓶に小分けされたブラ汁を、三人に1本ずつ手渡した。あまり、他人に見せびらかさない様にね。



 「そ、そんな神様が、何故学校へ通っているのよ?」


 「あー……、それは、ヴィヴィさんの商業的思惑でー……」


 「なんだと?」


 「ソ、ソピアちゃん! ブランガス様にあまり誤解を与えるような事は言わないでー! ソピアちゃんは未だ、色々学ぶべき年齢なのよー。」



 ヴィヴィさんがノックも無しに部屋に飛び込んで来た。凄い慌てている。こんな面白いヴィヴィさんを見たのは、初めてかも。



 「冗談では済まない事って、一杯あるのよ! ブランガス様がちょっと怒りをお示しに成るだけで、人間の命なんて簡単に消し飛んでしまうのよー!」



 あー、うん、それはマズイね。気を付けるよ。

 ところで、何か私達に用事があった?



 「あ、そうだったわ。そちらのお友達もお昼を食べて行くでしょう? 呼びに来たのよ。」


 「そんなの、メイドさんに言い付ければ良かったのに。」


 「メイドに任せていたら、弁解の余地も与えられずに命が危険に晒される所だったわ、危ない危ない。あ、そうそう、用事はそれだけじゃないの。そちらのアーリャさん、ビオスの賢者様に用事が有ったのよ。」


 「私に、ですか?」


 「ええ、今度、各国の賢者をお招きして、国際会議が開かれるの。その出席依頼をね。」



 ああ、これは、アレか。エイダム様が言っていた、私の扱いについてとか、マナ喰い対策を話し合う為の、国際会議だ。

 まずは各国の賢者を招いて意見を出し合い、骨子を纏めてから、各国の元首を交えて詳細を詰めて行く、という事になるのだそうだ。

 世界各地に在るピラミッドの調査なんかも、一国だけで出来るものじゃないもんね。



 「はい、ビオスの賢者として、出席させて頂きます。」



 アーリャが私の顔をじーっと見つめてから、ヴィヴィさんの方へ向き直り、真面目な顔になって返答をした。








 食堂へ降りると、お師匠は既に居なかった。また浮遊島か地下遺跡に行ってるのかな? ヴィヴィさんの他、ウルスラさんも居た。いつの間に戻ったのだろう。



 「ロルフ様は、地下遺跡へ行くと仰ってました。只今戻りました、ソピア様。王宮へ先に挨拶に行きましたので、お屋敷へはたった今着いた所で御座いますよ。」


 「そうなんだ、お帰りなさい。あ、紹介しておくね、あちらは、隣国ロメニア王国の宮廷魔術師長官のウルスラさん。こちらの三人は、南国のビオスという国から来た、賢者と祈祷師と呪術師の仲良し三人組です。」



 お互いに挨拶を交わし、アーリャはヴィヴィさん、ウルスラさんと、賢者同士で話し込んでいた。

 ナージャは、ヴェラヴェラと話に花を咲かせ、ラージャは、ブランガスに祈りを捧げている。


 ヴィヴィさんは、料理にブラ汁を、タバスコみたいにドバドバ掛けて食べていた。タバスコは、ドバドバ掛ける物じゃないか……

 ウルスラさんが、それを真似して飛び上がっていた。

 あ、ウルスラさんは、ブランガスに会うの初めてだっけ? 紹介したら、目を回していた。


 なんか、私って結構とんでもない環境で暮らしているのかなー……



 「「「「えっ!? 自覚無かったの?」」」」


 「あ、いえ、うん、サーセン。」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る