第210話 ご学友

 翌日、登校すると、中央噴水広場でビオスの三人組と鉢合わせした。

 なんか、じーーーーーっと睨まれてる。



 「な、何よ?」


 「思うんだけど、あなた、ちょっとおかしく無い?」


 「何の事、か、なー?」



 私は視線を逸らせた。



 「最初、ここ王都には、あなたみたいな魔導師がいっぱい居るのかと思っていたの。流石は魔導先進国だわーってね。」


 「でも、ソピアみたいな真似が出来る人なんて、他に居やしないじゃない。」


 「ケイティーにしたって、何か異常よ? あなた達、ちょっとおかしいわ。」



 うーん、そんな事言われてもなー……

 大体、あんた達だって、大概よ?



 「まあ、私はビオスの賢者ですもの。」



 始業式の時は、ビオスでの賢者、祈祷師、呪術師の三人組で、私達最強! 都会の魔導師がナンボのもんじゃい! って気概でやって来たのだけど、私達に会って、その気持はペキペキとへし折られてしまっていた。

 もう、賢者を名乗るのなんて恥ずかしい、都会にはこんな凄いやつがいっぱい居るんだ、顔から火が出る! なんて落ち込んでいたのに、いざ学園生活を初めてみると、全然凄い奴に出会わない。あれれ? おかしいぞ? って成ってきて、三人で同級生に聞き込んでみた所、どうやら私達二人だけがおかしいのだと気が付いたらしい。



 「あなた達、一体どうなってるの!?」


 「どうなってるって言われてもー……、あ! いけない! 講義が始まっちゃう!」


 「あ! ちょっと、待ちなさーい!」



 私達は、飛んで逃げた。だって、説明が難しいんだもん。幸い、あの三人組とは基礎学の授業の日時が被っていないので、逃げ切る事が出来た。

 追って来ていないのを確認して、安堵して教室へ入り、席に着いたら、隣に居た男子に声を掛けられてしまった。



 「よお! お前ら、久しぶり!」


 「はあ、どちら様……」


 「あっ! あなた達、受かってたのね!」


 「おう! 同じ魔導剣術科だぞ。よろしくな!」



 何か、ケイティーが親しげに男子と話し込んでいる。なんだよもー、いつの間に男が出来たんだよー。



 「ケイティー、知ってる人?」


 「何言ってるの、ソピア。ハンターランク昇格試験でよく一緒になった、ロジャーよ。いくら何でも覚えてるでしょう?」


 「んっ? んー……、あー! モブAとBか! で? これはAとBのどっち?」


 「ひでーな、相変わらず人の顔と名前は覚えられないってか?」


 「今日は、ヘンリーは?」


 「ああ、もうすぐ来るはずだぞ。」


 「よかった! 二人共合格したのね。」



 少ししたら、そこへ、ヘンリーというモブBがやって来た。制服着てるし、無精髭も剃って、髪もちゃんとしてるから、誰だか分からなかったよ。ちゃんとした格好をしてれば、ちゃんとした人間には見えるもんなんだな。馬子にも衣装とは良く言ったもんだ。



 「お陰様でな、あれから学園時代の教科書を引っ張り出して、狩りの行き帰りに問題を出し合ったりしながら、勉強したんだぜ。」

 「ふーん、頑張ったんだ。でも、入学よりも卒業する方が何倍も難しいらしいよ。」


 「おう、負けねー。あの剣は絶対に欲しいからな!」



 この二人は剣目当てなんだな。やっぱり、剣士はあの剣が欲しいものなのか。でも、クーマイルマみたいに武器が弓の人とか、ビオス組みたいに得物が特殊な形状のナイフだったりする場合はどうするんだろう? やっぱり、飛行椅子選ぶのかな?


 午前中は、基礎学を2つ取ってあり、それはケイティーと一緒。午後からは、専門科目になるので、別々だ。

 魔導剣術科の方は、城の騎士団で使われているみたいな、実戦形式の剣術を習い、それに魔導を組み合わせた方法を、ゼミ形式で学生側が発表したりして、シェアし合っていく。多分、ケイティーのあの謎剣術とか、ラージャとナージャの体術なんかも皆で研究されて高めあって行くのだろう。

 私達の魔導科の方も、似た様な感じで、新しい魔導は学生間で研究発表されて、シェアされて行くのだと思う。



 「ソピアさん、ゼミでは逃げられませんわよ!」



 ゼミ室でアーリャに捕まった。

 うーん、同じ魔導科なんだから、当たり前なんだけどねー。



 「あなたの魔導を、研究させなさい。いえ、させて下さい。」


 「良いけど、どの魔導を研究したい?」


 「全部ですわ!」


 「じゃあ、あなたの『スワラ』『ラリ』『ハティ』も教えてくれるならいいよ。」


 「なんかその全部があなたの能力の下位互換な気がしますけど、それで宜しければ取引成立ですわ。」



 アーリャは喜んでいるけど、私の開発した魔導は、全部がヴィヴィさんから王宮魔導院へは報告が上がっているし、その下部機関であるサントラム高等学院では、既にそのブラッシュアップされた術がカリキュラムに組み込まれていて、皆が習う事に成っているんだよね。


 私、少々ずるい取引しちゃったかな? 学校で習う事を少し早く教えるだけで、外国の秘術をただで習ってしまおうなんて。

 まあ、ブラッシュアップされた術というのが、どういう具合なのかは分からないけれど、皆が覚えられる様に平均化された、そこそこの性能の物に落ち着いちゃっているのなら、私がギンギンに尖った性能にチューニングアップしちゃう事も出来るかな。


 ジンを使った魔法だけは、他人にジンを宿らせる訳にはいかないので、教えられないのだけどね。命がけになっちゃうし。








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 休日



 「ソピア様、ケイティー様、ご学友だという三人がお見えになっていますが、お通しして宜しいでしょうか?」


 「はーい、アーリャ、ラージャ、ナージャの三人だったら、通してあげて。」


 「畏まりました。」



 曖昧な約束だったけど、本当に遊びに来てくれたんだ。

 呪術師のナージャが、ヴェラヴェラに弟子入りしたいんだったよね。

 ヴェラヴェラ、弟子取る積もり有るのかな?


 私達は、玄関ホールで三人を出迎えた。

 ビオスの三人組は、玄関ドアをくぐるなり、キョロキョロ落ち着きが無い様子だ。



 「あなた達、本当に大賢者様のお屋敷に住んでいたのね。王城のこんな近くで、一番立派なお屋敷なんですもの。びっくりしたわ。」



 実際、私自身も何でこんな生活をしているのか、不思議なんだよね。ただの田舎の小娘だった訳だし。運命の糸が複雑にこんがらがってしまって、結果、こんな事に成ってしまっている訳なんだけども。

 玄関ホールで喋っていたら、お師匠が自分の部屋から出て来て、階段を下りて来た。



 「学園の友人が遊びに来ていたのか。おや、確か、ビオスの賢者の娘じゃな?」


 「はい、大賢者ロルフ様。お早うございます。」


 「ソピアと違って、礼儀正しいのう。ゆっくりしていきなさい。」


 「「「はいっ! 有難うございます!」」」


 「じゃあ、私の部屋に行こうか。ヴェラヴェラとクーマイルマも来て。」



 何だよ人と比べちゃいけないんだぞー。

 私は、近くに居たメイドさんに、おやつを用意してくれる様にお願いして、皆を部屋に招き入れた。

 部屋に入った三人組は、更にビックリしていた。



 「一部屋でこの広さ、寮の部屋の何倍の広さがあるというの?」


 「一人でこの広さは、結構持て余すよ。」


 「まあ、何ていう贅沢な悩み。大貴族あるあるですの?」


 「そんな事より、紹介がまだだったね、この子は、魔族のクーマイルマ。そして、この三人組は、ビオスという遙か遠方の国から来た、賢者のアーリャ、祈祷師のラージャ、呪術師のナージャです。」


 「ま、魔族ですって!? はぁー、驚きましたわ。ダルキリアでは、魔族とも交流があるのですか……」


 「いえ、クーマイルマだけ特別なんです。今の所はね。仲良くしてあげて下さい。クーマイルマは、飛び級試験に後一つ合格すれば、2ヶ月後位にはラージャとナージャと同じ、魔導剣術科へ編入する事に成っているので、よろしくお願いしますね。」


 「まあ、優秀なのですね。」


 「はい、ソピア様の天使として、一刻も早くお役に立てる様に、今は修行中の身ですが、どうぞ宜しくお願い致します。」



 三人は、何か微妙な顔をした。何か、触れちゃいけない話題な気がしたのだろうか、何も言わなかったけどね。

 メイドさんがアイスクリームと紅茶を持って来てくれて、皆でそれを食べた。

 ビオスの三人組は、冷たいお菓子に目を丸くしている。いちいち驚き過ぎだよ。

 クーマイルマは、勉強がありますからと、部屋を出て行った。勉強熱心な娘だよ、本当に。




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