第209話 飛竜達の脱皮

 「ソピアの周囲の者は皆ステージが上がって行っているな。」



 白いお姉さんの姿に成ったユーシュコルパスが唐突に口を開いた。

 うん、そうだね、皆努力家なんで、着実にステップアップしているよ。



 「いや、そればかりではないだろう。例えば、飛竜種の親子等は、正竜と同程度の知能を獲得している。これの説明が付くか?」


 「分からないけど、私と会った当初からあんな感じだった様な気がするけどなー……」


 「ふむ、まあ良い、飛竜達の次の脱皮で面白い物が見られると思うぞ。楽しみにしておけ。」


 「んー? 何だろう? ユーシュコルパスって、時々思わせぶりな言い方するよねー。」



 ビオスの三人組が、怪訝な表情で私を見ている。

 うーん、隠しきれなく成って来てる、よ、なー……


 ところで、私達学生は、もうそろそろ帰らないと学業に響きますので、これでおいとましようと思います。



 「おう、そうじゃったな、こんな時間まで、わしらの調査に突き合わせてしまってすまんかった。」



 村の人達に挨拶し、村の外へ出てからユーシュコルパスともお別れして、帰宅の方法をどうしようかな。



 『!--ねえ、転移ドアは、お師匠が出した事にしてくれない? 学校の友達が居るんだ。--!』


 『--むう? 今更、手遅れっぽくないか?--』


 『!--ギリセーフな気がしなくもないです。お願いします。--!』


 『--そう言えば、私達にあの異国の学生さん達を紹介してくれないのかしら?--』


 『!--あ、そうだった、いけね!--!』



 私は、ビオスの三人組を呼んで、お師匠とヴィヴィさんに紹介することにした。今更だけどね。



 「お師匠、ヴィヴィさん、こちらの三人は、ビオスという国から来た留学生で、成績トップ合格の三人組です。右から、ビオスの賢者のアーリャ、祈祷師のラージャ、呪術師のナージャ。」



 お師匠とヴィヴィさんに、ビオスの三人組を紹介した。

 そして、今度は三人組の方に向き直り



 「こちらが私のお師匠の、大賢者ロルフと、宮廷魔導師筆頭、賢者のヴィヴィさんです。」


 「その歳で賢者の称号持ちとは大したものじゃ、ソピアとケイティーと仲良くしてくれとる様で、礼を言う。」


 「ヴィヴィよ、一応、この子達の保護者的な立場です。よろしく頼みますわ。ビオスとは今度正式に国交を結ぶ事になると思います。その時には、あなた達にも立ち会って貰えると助かります。」


 「は、はい! もったいなきお言葉です! 私達の方こそ、お世話になってます。よろしくお願い致します!」



 あのアーリャが緊張してる。ぷふふっ!

 あ、涙目で睨まれちゃった。



 『!--じゃあ、お師匠、打ち合わせ通りにお願い。--!』


 「転移門よ! でーろー!」



 三人組に気付かれない様に、ドアを出現させる。



 『!--お師匠のへたくそ! 棒読みすぎ!--!』


 『--仕方ないじゃろ! わしは役者じゃないのじゃ!--』



 ドアを開いて通り抜けた先は、王都の西門外。

 ちゃんと門から出入りしないと、お役人さんが煩いからね。

 王都へ入って、寮住まいの三人組とはお別れ。



 「アーリャ、ラージャ、ナージャ、また明日ねー!」


 「「「また明日ー!」」」



 三人と別れてから、調査隊の面々は、少し神剣な顔に戻る。



 「あの遺跡は、とんでもない大発見です。通路が全てのピラミッドへ通じているとすると、ピラミッドの調査が飛躍的に進展するでしょう。」


 「全ての通路の先が、どうなっているのかを調べるために、ソピアの力を借りる機会が増えるかもしれぬ。」


 「うん、分かったよ、テレパシーで呼んでくれれば、直ぐに行くから。」


 「うむ、頼むぞ。」



 ヴィヴィさんは、ハンターズの職員と別れ、王宮の調査員達と一緒に、一旦王宮へ向かうそうだ。

 私とケイティー、お師匠の三人は、調査隊の人達と別れ、お屋敷に向かった。








 お屋敷に戻ったら、クーマイルマとヴェラヴェラが出迎えてくれた。

 飛竜達の脱皮が始まったそうだ。



 「どの子? え? 全員?」



 ユーシュコルパスの予言っていうのかな、こんなに早く脱皮が始まるとは思わなかった。

 それにしても、四人全員が同時って、示し合わせて出来たりするものなの?


 中庭に行ってみると、飛竜形態に戻った飛竜親子四人が抱き合う様に一塊になって、白くなっていた。

 プロークが傍に付き添って見守っている。



 「今度は我が見守る番だからな。」


 「私達も協力するからね。無理はしないでね。」


 「ははは、分かっておる。」



 私は、ジニーヤを一人出し、プロークと飛竜親子を守る様に言い付けた。



 「畏まりました、ソピア様。」



 天使の姿をしたジニーヤは、プロークの頭上でマナの光を放射したり、飛竜達の上をひらひらと旋回しながら飛んだりしている。

 ちゃんと命じた仕事をしてくれている姿は、何時見ても可愛い。

 ケイティーも私の真似をして、ジンを一つ出して、弱マジックライトを点灯。皆を守れと言う命令をしているのだが、ケイティーのジンは、天使の形を取らない。光の玉のまま、私のジニーヤの後をくっついて回っている。

 人の形を取らないし、喋りもしないけど、命令はちゃんと実行している様だ。



 深夜にふと目が覚め、気に成ったので中庭に出てみると、ケイティーとお師匠が既に来ていて、何か慌てている。

 私が来たのを見つけると、ケイティーが興奮した様子で走り寄って来た。



 「ソピア、ソピア! 喋った! 喋ったよー!」



 ぴょんぴょん跳ねて、喜びを表現している。流石王都の女子だ。

 見ると、小さな羽虫みたいな羽の、小さな人形っぽいものが飛び回っている。

 その姿は、トンボとか蚊みたいな、細長い透明の、まさしく羽虫っぽい羽を持つ、文字通りの小人なんだけど、全身が白っぽく光っていて、顔が有るのか無いのかよく分からない。そもそも体の輪郭も少し滲んだ様で、くっきりした輪郭をしていない。所謂、フェアリーとかピクシーとかいう感じだろうか。


 パタパタと羽ばたいて、ケイティーの肩にちょこんと止まり、ケイティーの顔に抱き着いて、耳に猫みたいにスリスリしている。



 「ほらっ! ほらっ! ママって言ってる!」


 「いや、こっちまで聞こえない。」



 興奮しているケイティーを放って、何が起こったのか、お師匠とプロークに尋ねてみた。

 それによると、ケイティーがジンを置いて部屋に帰って暫くすると、例によってジンが暴走し始めたのだそうだ。

 光量がどんどん上がって行き、ああ、これはマズイなーと思っていたら、私のジニーヤが近寄って来て、パクっと食べちゃったらしい。



 「えっ!? 食べちゃったの!?」



 ジニーヤに問い質した。



 「はい、この場の脅威を排除しました。」


 「脅威って、酷くない?」



 ケイティー、オカンムリ。



 「なので、私の体をほんの少し分け与えました。暴走を止める事に成功しました。」


 「何それ凄い。ジニーヤ優秀だな。」


 「有難うございます。」



 という事は、ジニーヤがほんのちょっと混じったので、一応人の形を取れる様に成った訳か。

 じゃあ、ケイティーがこれを体に戻しちゃったら、もう出せなくなったりするのかな? 出しっぱなしにするしか無い?



 「それは、私にも解りません。試してみてはどうでしょう?」


 「いやいやいや! こんな可愛いの、消えちゃうかも知れないんでしょう!? 絶対無理ー!!」



 うーん、試して消えちゃったら悲しいもんね。出しっぱなしにするしか無いか。

 だけど、学校に連れて行っちゃ駄目だからね。



 「えーーーー……」




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