第208話 アンナークの村再び

 頭の上にハテナマークを浮かべて困惑している、調査隊とビオスの三人組を放置プレーしながら、お師匠が設定を書き換え、安全となった施設の再調査へ、下層へ移動した。

 螺旋階段の下へ降りる方を調査していなかったからだ。

 3層分下へ降りると、床に幾つもの繭の様な物が、整然と並べられているフロアに出た。

 繭の一個一個は、大人の背丈よりも大きく、それが数十と床一面に並んでいる。

 繭の幾つかは、既に中身が出た後みたいに開いて、空っぽになっている。中身の入っている繭は……、なんか、胎動してない?



 「これは一体、何でしょう?」


 「牛頭鬼アステリオスの繭なんでしょう?」


 「ソピアの言う通りじゃ、ここでタウロス、つまり我々が牛頭鬼アステリオスと呼んでおる怪物を育てておる様じゃ。」


 「「「「「魔物を育てている!?」」」」」



 ヴィヴィさんを含め、調査隊の皆が驚いている。ケイティーやビオスの三人組は、直接戦ってみて何かを察したのか、さほど驚いた様には見えない。

 牛頭鬼アステリオスと直接戦ってみた感想としては、他の魔物を身代わりにしたりと、魔物にしては知恵が回る事、戦闘中にターゲットをくるくる変える不自然さ、それと、わかりにくかったけど、上手く行かなくて地団駄を踏んだり、絶望や恐怖の表情を表したりと、感情らしきものが垣間見えた事。ちょっと魔物にしては変だなという印象を皆持った様だった。


 そう、私とお師匠の結論としては、牛頭鬼アステリオスは、魔物では無い。

 この遺跡を造った、古代文明人の作り出した、人工生命体なのではないか? という事。

 ならば、命令を与えたりしてコントロールされているのも納得がいく。何かを守る、守護者ガーディアンなのだ。

 一体、何を守っているのか、この施設なのか、それとも、ここはただの発進基地であって、近くに在る何かを守っているのか。近くに在る何かというと、ピラミッドか? 今は未だ情報が少なすぎて分からない事ばかりだ。


 一層上の階へ戻り、12在る入り口の中から、矢印の付いている通路の右隣の通路へ進んで見る。

 来た時の隣の通路と同じく、100ヤルトあまり進んだ所で、十字路に出た。正面は、上り階段に成っている。

 階段を上ると、来た時とは違って、迷路は無くただのだだっ広い空間になっていた。……そして、天井が崩落していた。

 空洞の天井が、真ん中あたりで崩れ落ち、凍り付いている



 「氷? ここって……」



 多分、私の予想通りなら、あそこだ。

 私は、直ぐに謎空間の扉を開き、全員を収納し、上へ向けて上昇してみた。

 案の定、岩板を突き抜けた先は、氷で、地上へ出るまでに2000~3000ヤルトの厚みを通過し、見渡す限りの氷原へ出た。



 「ここって、あそこ、よね?……」



 ケイティーが呟いた。恐らくそれは当たってる。

 ダルキリアの王都からは数千リグル離れた氷の大地。第二のピラミッドが在った、あそこだ。

 そして、ユーシュコルパスのおうちの近く。



 「王都から此処まで徒歩で来てしまうなんて、どうなってるの?」


 「多分だけど、あの直線通路の何処かが空間的に歪んでいて、遠隔地と繋がっているんだ。あの牛頭鬼アステリオスの居た庭園とコントロールルームも、実際はもっと別の場所に在るのかも。」


 「そこから各地に在るピラミッドの近くへ繋がっているというわけね。」


 「そう、通路の数は12、ピラミッドの数も12個。その予測で合ってると思う。」



 ここからどうしようか、アンナークの村へ寄って行こうかと話し合っていたら、空から物凄いスピードで特攻してくる奴が居る。



 『!--ソピアー!!--!』



 ドカーーーーーーン!!!



 やべえ! 障壁張るのが遅れたら、全員お陀仏だったぞ! ユーシュコルパス!



 『!--むうう、人間とはなんとひ弱な生き物なのだ。気を使うぞ。--!』


 「気を使え!!」



 象が蟻ん子をどう扱えば良いのか、戸惑っているのは分かるけど、ちょっと動いただけでプチっといっちゃう位の力の差が有るんだからね。気を付けてよね!



 『!--すまぬ……--!』


 「それから、また人竜形態になってよ。」


 「うむ、わかった。」



 ユーシュコルパスは、しゅるりと人竜の姿へ変身した。今度は、真っ白い肌と髪の女性の姿だ。



 「あれ? 今度は女性なの?」


 「うむ、神竜に性別は無いからな。前にブランガスの奴がやっていた、ソピアの将来の姿を真似た。」



 魂の奥底から、ひゃっほうー!という複数人の歓声が聞こえる。オタク連中引っ込め!



 「ソピアって、成長するとこんな美人に成るのね、羨ましい。」



 ケイティーだって結構な美人さんじゃないですかー。いやだなーもう! 照れるぞ。


 上空へ飛んだヴィヴィさんが、周囲を探索し、村の方向を特定したので、皆で村へ向かう事にした。

 私が皆を持ち上げ、ヴィヴィさんの後に付いて飛んで行くと、直ぐに村が見えて来た。

 村の入口の手前で降りて、手を振ると、知らせを受けたアンナークさんがバタバタと走って来て、村の中へ迎え入れてくれた。

 村の中へ入ってみて驚いた。村の様相が一変していたから。


 なんて表現すれば良いのかな、前に来た時は、一軒一軒の家が村の中にポツポツと建っていたのだけど、今見たら、集合住宅みたいに成っている。円形の集合住宅。モンゴルのゲルだかパオだかいう円形の家。アレのでかいやつ。

 ゲルがモンゴル語で、パオは中国語らしいから、ゲルというのが正しいのか。

 それか、あ、こっちの方が近いかも。中国の客家土楼とか福建土楼とかいうやつ。アメリカが衛星写真で見て、大陸間弾道弾ICBMのサイロじゃないかと、勘違いしたやつ。

 中に案内されて入ると、外周に沿って各家庭分に分割されて区分けされているらしい。そして、真ん中が共用スペースになっていて、集会等はここで行うとの事。真ん中の広場の中央に石の祭壇みたいな物が設えられていて、その上に天使の像が祀られている。

 いや、天使の像じゃないぞ? 動いた。そして、こちらを見ると、すーっと飛んで来て喋った!



 「ソピア様! 来てくれたんですね!」


 「あ、えーと、あなた、火炎のジニーヤ!?」


 「はい、そうです!」



 アンナークによると、昨日から急にこの姿に変わったのだという。

 昨日というと、私達が牛頭鬼アステリオスと戦っていた時か。え? ジニーヤって連動しているの? てゆーか、遠く離れて連結が切れると、暴走するんじゃなかったっけ?



 「私とソピア様の繋がりは、どんなに離れても決して切れたりしませんよ?」


 『--流石お母様です!--』


 「いやぁ~、それ程でも……、って、私凄いな!」


 「当たり前だ。神竜を上回る神格を持っていて、これ位出来て当たり前だろう。」



 そうなんだ、ソピアとジニーヤの絆に、もはや距離など関係ないのです!

 そう言えば、ブランガスも星の裏側から送り込んで来たイフリートの目を通じて世界を見る事が出来るとか言っていたっけな。いやそもそも四神竜同士が、星の端から端まで離れていても繋がっているのか。ドリュアス同士もそうなのかな? て事は、イブリスのジンが繋がりが外れやすいって事なんだろうか?



 『--いや、お母様、お言葉ですが、お母様のジニーヤが意識を持っているから、特別なんだと思います……--』



 ああ、そういう事か。ごめんね、イブリス。馬鹿にした訳じゃなくって、可能性を考察しただけだから、気を悪くしないでね。



 『--分かってますよ、お母様。--』


 「天使の形になっちゃって、炎が出せなくなったりはしていない?」


 「ご心配は要りません。今ではこの建物全体の空調と火の管理も全部やっています。」


 「はい、とても助かっています。ソピア様、本当に有難うございました。」



 そうなのか、私の想像以上の凄さだ。

 でも、ジニーヤに意識が宿っているという事は、イブリスのジンの時みたいに、言い方は悪いけど気軽に使い捨て出来なくなったぞ。全部管理出来るのだろうか。それが心配だー。



 「いいなー、私のジンも喋って欲しいなー……」



 ケイティーが羨ましそうに呟いた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る