第207話 タウロス

 「アーリャ、あなたのスワラで、ルートを調べられない?」


 「やってみるけど、あまり期待はしないでね。壁が分厚くて、スワラが通り難いのよ。」



 ビオスの三人組は、背中合わせに3方を向いて、ピヨピヨやりだした。

 調査隊の人達も、興味深そうに見ている。



 「あっ、マズイ、居る!」



 私が、何が? と聞くまでも無く、三人は吹き矢を取り出して、構える。

 通路の影から、巨体がぬっと出てくると同時に、吹き矢は発射され、その両目に矢が突き刺さる。

 角を覗き込んだ途端に両目の視力を失ったオグルは、何が起こったのかも分からぬ内に喉を切り裂かれ、倒れ伏していた。

 アーリャは、手に持ったククリを下に振って、血を払うと、オグルの体で拭い、腰の後ろに横向きに下げている鞘に、パチンと音を立てて仕舞った。



 「驚いたな、こんな女の子が、オグルを瞬殺とは。」



 アーリャも、ラージャとナージャの双子と同じ位に動ける様だ。

 何でアーリャだけ、魔導科を専攻したんだろう?



 「そりゃぁー……、私は賢者だしー? 刀術も出来る魔導師ってだけだから。」


 「「私達は、魔導も使える刀士なんです。」」



 あ、うん、よく分かりました。

 私も剣は使えるし、ケイティーも魔導は使えるもんね。そういう事ね。

 オグルは、宮廷土木魔導師のおじさんに、倉庫へ入れて貰いました。



 「ところで、道は分かったの?」


 「それが、駄目だったわ。壁の厚みが有り過ぎて、その向こう側が分からないの。」


 「そっか、まあ、取り敢えず、中へ入りましょう。ここはオグル達の通り道でもあるみたいだから。」



 一番近くの目についた扉の中へ、皆で入った。

 こちら側が人用の通路だと、そういう目で改めて観察してみると、確かに家と言うにはおかしい造りだと気が付く。

 生活感は無いし、厨房とか寝室みたいな物も無い。ただ、仕切りで分割されているだけの空間なんだ。いや、仕切壁だと思っていたこれも、外壁を支える内側の耐力壁とか控壁ってやつみたいだ。壁と壁の間の空間を、通路兼バックヤードみたいに使っていたのかも。

 変な風に部屋が組み合わさっていると感じたのも、曲がりくねった外壁に合わせて区分けされていたからなんだ。だから、外壁に沿って平行に移動して行けば、自然と奥へ進める様になっていたのだ。


 その法則に沿って、通路へ出るルートは取らずに、ひたすら外壁と並行に進むルートだと思われる方向へ方向へと歩を進めてみる。

 すると、半刻程進んだ頃だろうか、突如行き止まりと成った。ドアも壁の隙間も隠し扉も無い、外壁と同じ材質と構造の壁が出現し、行く手を塞いでしまったのだ。



 「うーん……、仮説は間違っていたのかなー?」


 「ちょっと待って、調べてみる。」



 そう言うと、ビオスの三人組が、ピヨピヨやりだした。

 ちょっと首を捻り、三人の配置を替えて、再びピヨピヨやりだした。



 「分かったわ。地下に通路が有る。」



 足元の床を隈無く調べてみると、丁度中央辺りの大きな石板が動かせる様に成っていて、それを退けると地下へ進む階段が現れた。

 ジニーヤにライトを配置してもらい、階段を下へ進むと、降りて直ぐの場所が十字路になっている。どちらへ進むのが良いのか迷ったのだが、下手に脇道へ行くと、迷う可能性が高いという結論になり、シンプルに直進してみようという事になった。

 直進して100ヤルトあまり、特に脇道も扉も何も無い無機質な通路が続き、円形の開けた部屋に出た。

 円形に部屋は、等間隔に12の別の通路への入り口が開いている。私達は、その内の一つから出て来たという感じだ。下手に歩き回ると、どの通路から出てきたのかが分からなくなりそうなので、床に矢印の印を付けておいた。

 部屋の中央には、大きな螺旋階段が在る。

 上に登る階段と下に降りる階段が在るが、まずは登る階段を行ってみる事にした。

 1階層分を登ると、そこは広い庭園に成っている。

 壁は、エンタシスの様な柱とアーチの構造物で造られ、蔦が絡まっている。

 大きな樹木が植えられ、水が流れ、草花が咲き乱れている。

 そちらへ行ってみようとしたら、アーリャに腕を掴まれた。



 「居るぞ、牛頭鬼アステリオスだ。」



 彼女の目線の方向を見ると、柱の影から、のそりと牛頭鬼アステリオスが出て来て、こちらと目が合った。

 しかし、こちらに興味が無いのか、そのまま普通に歩き去ってしまった。



 「今、確かにこっち見たよね?」


 「うん、そう思ったんだけど、気が付かなかったみたいな反応だったよね。」



 不思議に思って、数歩踏み出したら、ゴツンと頭をぶつけてしまった。その部分の映像が少し乱れる。



 「あっ痛ったー! あっ、これ、エピスティーニや浮遊島の展望室みたいな、映像を写している壁なんだ。」



 つまり、向こう側からはこちらが見えていなかったのだ。壁の厚みがどの位あるのかは分からないけど、きっと、牛頭鬼アステリオスの馬鹿力で殴っても、壊れない位の頑丈さはあるのだろう。

 螺旋階段を更に上へ登ってみると、有ったよ、コントロールルームが。

 下の部屋のモニターが生きていた所を見ると、この施設の動力もまだ稼働しているのかもしれない。

 部屋の中央に在る、黒いパネルに触って見たのだけど、お師匠かアクセルじゃないと操作の仕方が分からない。



 『--ほう、その遺跡にも有ったか。--』


 『!--映像も送れると良いんだけどなー……--!』


 『!--あら~、出来るわよ~。--!』


 『!--ブランガス? えっ、出来るの? マジな話?--!』


 『!--私達神竜も、精霊も、五感を共有しているのは知っているでしょう? あなたに出来ない訳ないじゃな~い。--!』



 マジか、知らなかった。でも、言われてみればそうなのか……

 よし、試してみよう。むむむむ!!



 『--うおっ、いきなり頭の中に映像が!--』


 『--えーー? わたくしには見えないー。ずーるーいー!--』


 『!--わかったよ! じゃあ、こっちに呼ぶから、いま来て貰っても良い?--!』


 『--良いぞ。--』


 『--良いわ。--』



 私は、皆から少し離れて、空間に掌底。波紋が広がり、ピンクの扉が2つ出現した。

 よし、ジニーヤと連携して、上手く出来る様に成ったぞ。

 扉が開き、それぞれからお師匠とヴィヴィさんが出て来た。



 『--おまえ、本当に便利な奴じゃな。--』


 『--これは、何としても魔導で再現したいものだわ。--』



 現れた二人を見て、皆仰天した。驚いていないのはケイティーだけだ。



 「こ、これは、ヴィヴィ様! ロルフ様!」


 「「「えっ? えっ? 大賢者ロルフ様!?」」」



 お師匠は、直ぐ様操作盤の所へ行き、慣れた手付きで操作を始めると、空中にこの施設の立体見取り図が現れた。

 やはりというか、見たまんまなんだけど、ここもエピスティーニや浮遊島と同じ文明の遺跡なのだろう。



 「ほう、牛頭鬼アステリオスに命令が出来る様じゃぞ。ガーディアン・タウロス01、02とか、名前が付いておる。01、02、04、がロストしておる様じゃな。」


 「あー、やっぱりそうか。なんか、魔物っぽくなかったんだよね。驚異を排除する様に暴れ回っては居たけど、ちゃんと状況を判断して攻撃対象を選んでいる様な知能っぽいものを感じたんだ。」



 そして、自分を攻撃して来ないオグルには手を出していなかった。

 オグルは、人間でも無い自分達より強そうな相手に攻撃しなかっただけかもしれないけど。

 牛頭鬼アステリオスにしてみれば、驚異でも何でも無いオグルには敢えて手を出さなかったけど、味方とも認識して無かったから、驚異を感じた私の攻性障壁へ躊躇無く、たまたま手近に有った適当な物位のつもりで、投げ付けて来たんだろう。



 「よし、ここに居るタウロス共には、わしらを攻撃しない様に命令を書き換えた。今までは、施設を守れ、驚異を排除しろという命令に成っていた様じゃ。もう、牛頭鬼アステリオスに出会っても安全じゃ。こちらから攻撃しなければな。」


 「でも、オグルが中を徘徊しているから危ないよ?」


 「うむ、では、オグルとオークを排除する様に付け加えるか。」



 お師匠が命令をそう書き換えたら、牛頭鬼アステリオス達は急に何処かへ行ってしまった。

 ああ、結構オグルが入り込んでいたんだな。安全な巣として利用していたであろう、オグル達、ご愁傷様でした。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る