第206話 地下迷宮

 明るく快適になった通路を歩いて行き、最初の角を曲がったら、人が居た。



 「わっ! びっくりした!」



 向こうもビックリしていた。

 7人の大人達は、王宮とハンターズから派遣された、調査員だそうだ。

 その中に、私とケイティーの顔を知っている人が居た。

 ハンターズの職員は、私達の顔を知っている。王宮から派遣されて来た中の一人も私の顔を知っていた様だ。



 「ソピア様、お久しぶりで御座います。聖地の土木工事の時に、ご一緒しました。」


 「ああ、あの時一緒に工事した人? お久しぶりです!」



 実は私は、一度会ったきりの人の顔なんて覚えちゃいない。向こうが覚えていてくれるから、無問題もーまんたいだ。

 私達は、合流して、一緒に調査する事にした。



 「この明かりはソピア様が? いきなり明るくなったので、びっくりしました。」


 「あー、うん、人が居るとは思わなかったので……、驚かせちゃって、ご免なさい。」


 「いえいえ、助かりました。」



 通路の壁や天井は、何の変哲も無い石積みで、ここがエピスティーニや浮遊島と同じ文明の遺跡だとすると、かなり雑な作りの様に思えた。

 どちらかというと、ゲームなんかに出てくる、ダンジョンっぽい。

 ダンジョンなのか? 今度こそダンジョンだろう! ダンジョンであってくれ、お願い!

 通路の途中に、扉の無い小部屋が在ったけれど、中は空っぽで何の収穫も無かった。


 通路の突き当りまで行くと、丁字路ていじろに成っていて、正面には下り階段が有る。

 左の通路の先を見ると、更に左に折れていて、その先は、また部屋に成っていて、壁伝いに水の流れる泉が設置されている。

 この部屋の空気は、少しひんやりしていて気持ちが良い。

 大体、床から1ヤルトちょっと位の高さに、壁に横にスリットがあり、そこから水が流れ出ている。水は、床の溝を通って排水される仕組みの様だ。



 「いやあ助かった。喉がカラカラだったんだ!」



 アーリャが泉の水を手で救って飲んだ。調査員達も皆飲んでいる。

 私は、何か嫌な予感がして、その水には手を付けなかった。


 その部屋を出て、反対側の通路を行ってみると、こっちは右へ折れていて、その先にはやはり、部屋がある。左と右の通路は、対称となる作りになっている様だ。一つ違う所と言えば、こちらは、壁の一面に沿って数個に区切られており、床の真ん中に穴が空いていて、その下に水が流れている所だ。



 「水汲み場だろうか? 飲用と洗濯の様に、用途を分けているのかもしれません。」



 調査員達は、そう結論付けた様だ。

 しかし、私は、嫌な予感が的中した事を確信した。

 あの泉に手を出さなくて、ほんとーに良かったと胸を撫で下ろした。この事は、皆には黙っていようと心に誓った。



 階段を降ると、街があった。


 私は、地球でこんな様な作りの町並みを見た覚えがある。

 石だか、土だかで、頑丈に作られた壁と坂と階段で、視界が悪く、無作為に曲がりくねって張り巡らされた通路。壁は、家の壁で、所々に入口がある。1軒1軒が独立していなくて、全部くっついて作られている。エジプトだか、トルコだか、地中海沿岸にもあったかな、そんな、迷路の様な路地の入り組んだ街が、そこにあった。


 全く人が住んでいた痕跡が無い。何の為の地下都市なんだろう?

 家の一軒に入ってみたが、部屋が幾つも変な形に繋がっていて、時々外へ出る扉が在ったりして、その扉を出ると通路が有り、他の家の扉が在ったり、通路を進むとちょっとした広場が在ったり、外にある階段を登ると、反対側の通路へ行く渡り廊下だったり、更に別の家へ行く道だったりして、地元民じゃ無ければ絶対に方向感覚を失うし、迷う造りになっている。多分、わざとそう言うふうに造られているのかも。

 一部、派手に壊れている部分もあったりする。破壊部分は、つい最近壊れたばかりの様にも見える。


 もうここまで来ると、薄々お気づきかと思うが、私達は迷っていた。

 まあ、迷う様に造られた街の中を、これだけ歩き回ったら、そりゃ迷うよね。しかも、悪い事に、手分けして調査しようなんて誰かが言ったものだから、バラバラに迷子になった。どうしよう。



 「おーい! 誰か近くに居るー!?」


 「おーい!こっちだー!」



 声は聞こえる。

 この家の、一本向こう側の通路っぽい。何処かに向こう側へ行く抜け道は無いのかな?

 この眼の前の家の中を通り抜ければ、向こう側の通路へ出られるかな?

 そう思って、私達は、家の中を突っ切る事にした。何部屋かを通り、扉を見つけて外に出ると、通路が在った。



 「やった! 外へ出たよ! おーい! どこー!?」


 「おおーい! こっちだー!」



 あれ? 今度は逆側から声が聞こえる。通路を一本通り越したのかな? やばい、本当に迷路だ。

 さーて、どうしよう……、と、考えていたら、ケイティーにポンポンと肩を叩かれた。


 「何? 今ちょっと考え事を……」


 「だから。」



 ケイティーがクイクイと上を指差す。



 「あ……」



 ビオス三人組も、ヤレヤレというポーズをしている。

 私、一個の事を考え出すと、視野狭窄になりがちなのかも。俯瞰で見て、色んなやり方の可能性を探るんじゃなくて、一個の方法の解法を探るのに夢中になってしまう傾向が有るんだよね。


 全員を持ち上げて、建物の上へ飛び上がり、声のする方向を見下ろしてみると、こっちの通路とあっちの通路は、近くでは繋がっていないのがよく分かった。

 上から建物を飛び越して、おっさんグループの方へ降りた。



 「この迷路の街は、手分けして探索すると、バラバラに分断されてしまう様に設計されているみたいです。」


 「何の為にそんな?」


 「通路の幅といい、複雑な連絡通路の配置といい、外敵の侵入を想定しているのでしょうね。」



 とすると、ここは地下シェルターみたいな物なのだろうか? 外敵って何だろう? 人間同士の争い? それとも、魔物の大群とか?

 現時点では何も解らない。もうちょっと調査が必要だ。

 私は、全員を持ち上げて、街の上を飛んだ。

 だけど、奥側へ行く程、建物が天井まで到達している部分が多く、上の開いていない、密閉された迷路の様相を呈していく。



 「ああ、これは、奥側の方が古いんだ。手前側の低い建物は、建設途中なのかも。」


 「えっと、どういう事?」


 「つまり、外敵の侵入を阻止しているのではなくて、中の物が外へ出ない様にしているのかも、って事。」


 「中の物って、それはつまり……」



 私達五人は、コクリと頷いた。



 「牛頭鬼アステリオスね。」


 「でも、ちょっと待って、この迷路が牛頭鬼アステリオスを閉じ込める為に造られているのだとしたら、建物の扉や部屋の大きさが小さすぎないかしら?」


 「うん、確かに、家部分のサイズは、人間用サイズに見える。つまり、家みたいに見える部分は、人間用の通路なんじゃないかな?」


 「つまり、人間と牛頭鬼アステリオスで、別々の通路が用意されていると。」


 「うん、後ろを振り返って見てみると、良く分かる。太い通路が牛頭鬼アステリオス用、私達が家だと思っていた部分が、人間用。それぞれ、交わらないで移動出来る様に造られている。」



 という事は、太い通路を行くと、迷う様に出来ているんだ。だから、正解は、家の中を通って行かなければならない。

 私達は、一旦通路へ降りて、どの家の中を通って行くのかを調べる事にした。




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