第205話 森の中の遺跡

 私とケイティーは、キャンパス内の中央部分にある、噴水の前に降り立った。

 周囲に居た何人かの学生がぎょっとした顔をしたけど、何人かは慣れっこな感じで見ている人も居た。

 マヴァーラやこの王都在住の学生は、私達が飛んでいる事には、もう慣れっこなんだろうね。留学生が、びっくりするみたい。


 私とケイティーは、学科が違うのだけど、1年生は基礎学問が共通なので、私達は同じ教室へ向かった。

 同じ科目の学問でも、一日の内、そして週の内に何回か授業が有るので、皆都合の良い日の好きな時間に組み込んでいるのだ。だけど、私とケイティーは、同じ日の同じ時間に同じ授業を受けようと示し合わせているので、専門課程は別々でも、基礎学問の授業では、顔を合わせる事が出来る。


 昼食も、学食棟で待ち合わせて、一緒に食べる事にしていた。

 学食棟の待ち合わせの場所へ行くと、ケイティーの他に女の子が二人居た。ラージャとナージャだ。

 私も、アーリャを連れて来ていたので、5人で一緒に食べる事にした。


 詳しく話を聞いていると、ビオスというのは、南の大陸の端の方に有る国で、大陸の一部と大きな島が4つ、小さな島が数千もある、海洋国家なのだそうだ。


 どうしてそんな遠方の国で、サントラム学園の事を知ったのかと聞いてみると、ある時、最東端にある島にある、小さな漁村に、幼い天使のお供を連れた女神様が降臨され、この学校の事を知らせてくれたからなのだと言う。



 「んんっ?」



 あれ? 何でだろう、嫌な汗が流れて来るぞ?



 「最初は、単なる噂話だと思っていたのだけど、日に日に噂は大きくなって来て、クラーケンがどうの、氷の神剣がこうのと、話が具体的に成って来たので、見に行ってみたのよ。」


 「あはっ、あはは……」


 「ソピア、それって……」


 「言わないで!」


 「どうしたの? あ、それでね、その漁村に行ってみたら、在ったのよ! クラーケンが! 本当に、カチコチに凍ってたの!」



 私は頭を抱えた。あの村でも女神扱いなのかと。

 実は、あの村ではダルキリアの女神騒動に乗っかった、村おこしに過ぎなかったのだが、クラーケンやアイスⅧソードの現物を見て、本当に信じる人が後を絶たなかったのだ。

 眼の前で興奮して話すアーリャも、その内の一人だった。



 「それでね、それでね、漁村の友人、ラージャとナージャの事なんだけどね、久々に会ったら、サントラム学園に留学するって、興奮して話しているのよ!」


 「そうなの! お父さんがね、女神様と直に話したらしいんだけどね、その時、魔導倉庫の鍵を見せてくれて、子供をサントラム学園に留学させなさいと啓示を賜ったのよ!」


 「ふ、ふうん~、お肉屋さんの子供が呪術師と祈祷師だなんて、変わっているのね。」


 「あら? あたし、実家が肉屋だって言ったかしら?」


 「あ! え~と、成績優秀な三人組の事は、ちょっと評判に成ってたから、そこで聞いたのかも~……」



 ヤバい、口を開く度にボロが出るぞ。何とか誤魔化したけど、相槌打つ程度にしておこう。


 留学のお誘いは、高等学院創建初年に学生数を確保するため、ヴィヴィさんが近隣の同盟国を中心に、国費留学生を派遣する様に依頼していたものだったのだ。なのに、遥か遠くに在る南の大陸の、国交の無い国から3人だけ受験に来たというのは、不思議に思ってたんだ。

 最初は、旅の行商人からでも聞いたのかな~、と思っていたのだけど、まさか、あのお肉屋さんの子供とその友達だったとは。


 三人は、ビオス特有の高速長距離歩法【ラリ】によって、僅か2ヶ月程度の期間で、南の大陸の南端から、北の大陸の北方に在るこの国までやって来たという。2つの大陸を、たった2ヶ月で縦断して来たというのは、驚くべき速度だ。

 国を出る時には、三人共ハンターランクは1と2だったそうだが、2ヶ月の旅の途中でランクを上げ、アーリャは4に、ラージャとナージャは、3になったのだという。


 私達は、次の授業が在るという、ビオスの三人組と別れ、ラウンジの方へ移動した。



 「旅の実践で、ランクを2つも上げて、試験もトップ合格だなんて、凄い才能の持ち主だわ。」


 「うん、恵まれた都会暮らしの人間とは、ハングリー精神が全然違うのだと思う。私達も頑張らなくちゃ。」



 期せずして、ビオスの三人組との出会いは、私達に良い刺激を与えてくれたのかもしれない。



 「ケイティー、今日は午後半休になるんでしょう? あの遺跡がちょっと気になるんだけど。」


 「私もそう思っていたの。こっそり見に行っちゃおうか。」


 「そうしよう、そうしよう、うひひ。」



 ………………


 …………


 ……








 「で? 何でこの三人が居るのよ。」


 「あの遺跡は、私達も一緒に見つけたんですからね! 抜け駆けしようなんて、許すわけ無いじゃない!」


 「危険かもしれないから、こっそり見に行こうと思っていたのに。ソピア、口が軽いわ!」


 「いや、私は喋ってない……」


 「他心通の秘術、ハティの前には、隠し事など不可能ですわ!」



 やべえ! ビオスの賢者は他人の心も読むのか。

 後で聞いた所によると、実際は、他人の考えている事が読める程の高等な物では無く、嘘をついているか否かが分かる程度の精度らしいのだけど、まんまと誘導尋問に引っかかってしまったらしい。



 「まあ、仕方無いわ。でも、冒険はしませんからね。ちょっと様子を見に行く程度なんだから。」


 「「「「はーい!」」」」



 私達は、学院のすぐ近くに在る、西門を抜けると、ビオスの三人組を持ち上げて、飛行に入った。

 亜音速で飛んで行けば、あの遺跡の場所まではあっという間なのだ。



 「昨日のあの背の高いお姉さんは来ないの?」


 「ヴェラヴェラは、ああ見えて忙しいのよ。屋敷と王宮の衛生管理主任だから。人を病気にしたり物を腐らせたりする元の、目に見えない程の小さな物が見えて、操作も出来るから、病の治療なんかも出来るのよ。」


 「えっ、なにそれすごい!」



 食い付いたのは、呪術師のナージャだ。

 療術のエキスパートとして、ヴェラヴェラの能力には興味津々みたいだ。是非、弟子入りしたいと鼻息が荒い。

 あれって、他人に教えられるたぐいの能力なんだろうか? あー、でも、変身術はプロークに教えてたっけ。でも、ヴェラヴェラって人に何かを教えるのが下手なんだよなー……



 「興味有るなら、ヴェラヴェラに頼んであげようか? あ、休日に屋敷へ遊びにおいでよ。自分で頼んでみるといい。ただ、あれはあの人の固有能力ユニーク・アビリティっぽいから、他人が使える様になるかは保証出来ないけど。」


 「ありがとう! 恩に着ます!」



 そんな雑談をしていたら、もう着いた。

 遺跡の前に降り立ち、周囲を索敵してみるが、私のサーチにも、アーリャ達のスワラにも何も引っかからなかった。



 「周囲には何も居ない様ね。では、入ってみましょう。マジック……」


 「待って、ソピア。マジックライトは私が出します。ジンよ、マジックライト点灯!」



 ケイティーは、一所懸命にジンに喋らせようとしている。どうしても、自分のジンに喋って貰いたいらしい。

 だけど、マジックライトはふわふわと空中に漂うばかりで、声を発する事は無かった。



 「くそー! 何時か喋らす!」



 うん、頑張れ。

 ところで、思うんだけど、マジックライトをこういう風に連れて歩いても、精々20ヤルト程度の先までしか見えないじゃん?

 マジックライトはこういう懐中電灯的な使い方するんじゃなくてさ、通路の天井に等間隔に配置してやれば、建物の廊下みたいに全体が明るくなって良いんじゃないのかな?

 思い立ったら即行動!



 「おねがい! ジニーヤどん。」


 「キャピキャピルンルン、ジニーヤど~ん!」



 おおう、イブリスと同じでノリがいいぞ。

 ジニーヤどんは、光る天使の姿となり、私の回りを飛び回った。



 「いーなー、私もアレ出したいなー。ジニーどん!」


 「また、熾天使セラフが出ましたわ!?」


 「ジニーヤ、全部の通路の天井に、等間隔に明かりを設置して。」


 「畏まりました。」



 ジニーヤは、体から光の粒を無数に放出し、どんどん小さくなって行った。

 光の粒は、天井に取り付き、光を発する。通路が、端から端まで均等に照らされ、明るくなった。



 「凄いわ! ダルキリアの魔導術は、こんなに進んでいるのね。」




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