第204話 初登校

 ハンターズでクエスト完了の手続きをして貰おうとして、ハンター証を取り出したら、アーリャ達が目を剥いていた。



 「ちょっと、あなた達! 何よそのハンター証の色!!」



 あーりゃりゃ、アーリャにバレちゃった。うっかりした。



 「まあ、納得しましたわ。お強いはずですね。」



 ふう、と溜め息をつかれた。

 それから、牛頭鬼アステリオスが居た事、森の中に遺跡が在った事も報告をした。



 「牛頭鬼アステリオスですって!? まさか!」


 「本当ですって。ヴェラヴェラ。」


 「あいよー。」



 建物裏の解体場で、ヴェラヴェラが、倉庫からオグルと牛頭鬼アステリオスの上半身を取り出すと、今度は目を剥くのはハンターズ職員の方だった。



 「あ、背中にククリが刺さったままだった。」



 私は、ナイフを引き抜き、ナージャへ返した。



 「あなた、このナイフの名前がククリというのを良く知っていましたわね。」



 お、うっかりへたこいた?



 「きっと、くの字にクリっと曲がってるからじゃない、かなー?」


 「はあ? 何を仰っているの? まあ、いいわ。色々突っ込み疲れました。」



 職員は、オグルと牛頭鬼アステリオスを調べて、査定額を算出している。



 「オグルが7頭に、牛頭鬼アステリオスが1頭……の半分、と」



 オグルは本当は9頭だったのだけど、2頭は消滅しちゃったからなー。牛頭鬼アステリオスが半分って、何なのよ。

 私達は、何時もの様にラウンジでケーキと紅茶で時間を潰しながら、雑談をした。



 「ここのね、このケーキが美味しいんだ。」


 「流石に王都のハンターズは、設備が整っていて、綺麗ですのね。うーん、本当にケーキが美味しい。」


 「うちの国は、女性ハンターが多いからね。」



 そうこうしている内に、受付のお姉さんに呼ばれた。



 「えーと、まず、クエストの報酬として、オグル1頭大金貨2.5枚なので、17.5枚。素材買い取り価格は、1頭大銀貨2枚なので、14枚。」



 お姉さんは、カウンターの上へ大金貨18枚と、大銀貨2枚を置いた。



 「それから、問題の牛頭鬼アステリオスなんだけど、これはクエスト外なのですが、事前に驚異を排除してくれた報酬として、特別に大金貨6枚が出ます。そして、素材の買い取り価格は、大金貨4枚と、小金貨3枚となっています。角が高く売れるのよ。頭の方が残っててラッキーね。」


 「合計、大金貨28枚と、小金貨3枚、大銀貨2枚ね。……6人で割って、一人大金貨4枚と小金貨3枚、大銀貨1枚、小銀貨1枚、銅貨2枚ね。」


 「そんなにきっちり分けなくても……、牛頭鬼アステリオスは、あなたが一人で倒したみたいなものなのに。」


 「いいからいいから、半日仕事で大儲けだったね。」


 「ソピアって、いつもこうなのよ。皆で力を合わせたのだから、受け取っておくと良いわ。」


 「これだけの金が有ったら、私等の国では1年は暮らせる額だというのに、ダルキリアでは半日で稼いでしまえる。この国家間の経済格差はどうやったら埋められるのだろうか……」


 「子供の教育!」



 アーリャの呟きに、速攻でツッコんでしまった。

 独り言のつもりだったアーリャは、キョトンとしている。



 「えっ?」


 「全国民の教育の義務化。まずそれが第一段階。子供は国の宝と言うのは、決して比喩ではないのよ。」


 「お、おう……」


 「うちの国でもまだまだ地方の村までは教育は行き届いていなけれど、教育を受けた子供は、将来国を動かす原動力に成る。他国と対等に渡り合える知恵を蓄えるべし。経済を動かし、国を豊かにする商人を育てるべし。政治と経済は、国の両輪。他国に攻められない強固な国体を築ける。そこまでが基礎。それから……」


 「はい、ストップ! ストーップ! ソピアの話は長くなるから。そういうのは、学校で習えばいいの!」


 「私は、もうちょっと聞きたかったな……」


 「まあ、あなたが卒業したら、国元に学校を造るも良し、サントラムの分校を誘致するも良しよ。幸い、サントラムは完全無料なのだから、今の内に知恵と資金は沢山貯めておきましょう。」


 「え、ええ、そうね。……あなた、本当に12歳なの?」



 そんな雑談をしながら、私達は、ハンターズの前で別れた。

 私達は、お屋敷へ、ビオスの三人組は、学生寮へ。



 ………………


 …………


 ……



 「むう、森の中に遺跡がのう、そして、牛頭鬼アステリオスが出たと……」


 「そうなんだよ。あんな魔物が居るなんて、ビックリしたよ。」


 「しかも、オグルを率いていたんです。自分の身を守るために、オグルを投げ付けて来たのには驚きました。」


 「牛頭鬼アステリオスは、ここ三百年以内では、我が国の近くに現れたという記録は有りません。遺跡の事といい、少し気になりますわ。」


 「遺跡であるならば、エピスティーニのライブラリーで調べられるかもしれん。早速調べてこよう。」


 「では、遺跡の調査には、ハンターズと連携して王宮からも人を出しましょう。」


 「ねえねえ、私は何かすることある?」


 「お前達は明日から学校があるじゃろう。調査や魔物退治は大人に任せておきなさい。」



 ちぇー。つまんなーいー。遺跡調査とか、メッチャ冒険っぽいのに!

 ララ・ク○フトみたいに冒険したいー。



 「ソピア……」



 ケイティーにポンと肩を叩かれた。



 「あなた、冒険しすぎ。」



 マジか。このまま学園モノになってしまうのか?








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 翌朝


 「今日から学生生活かー。」


 「ソピア様、あたし、すぐに追いつきますからね。待ってて下さいね。」


 「ソピア、そろそろ出かけるわよ。」



 私達三人は、屋敷を出ると、クーマイルマに手を振って、お互いの目的地へ向けて飛んだ。

 クーマイルマは、マヴァーラのサントラム学園中等部へ、私達は、ここ王都のサントラム高等学院へ。



 サントラム高等学院は、日本人の感覚からみると、一見学校の様には見えないかも知れない。

 高等学院というと、日本の高校の様なものと思われるだろうが、実は大学に相当する。成人年齢が15歳という所からも、完全に義務教育外の、学問と技術を極めたいと願う人だけに開かれた、道だからだ。


 日本の学校の様に、敷地が塀で囲まれている訳ではなく、校門みたいなものも見当たらない。正門という物は、無い訳ではないのだが、立派な彫刻の門柱みたいなものが立っていて、ここが入り口っぽいという感じがするものの、その横には塀は無く、低い植栽が有って、中は芝生が植えられているだけなので、誰でも何処からでも入る事が出来てしまう。

 一応、人が歩く部分は、白い敷石の舗装があるので、芝生の部分からずかずか入る人は居ないのだけど、入ろうと思えば入れない事はないのだ。


 広大な敷地は、知らない人が見れば、綺麗に整備された公園の様に見えるかも知れない。事実、一般の近隣住民が入って来て、木陰に座ってサンドイッチを食べてたりしてる。本当に公園感覚だし、その実、公園の役割も果しているのだろう。

 現代の日本の様に、部外者がどうの、セキュリティーがどうのという概念があまり無い世界故かも知れない。

 公園の中に、科毎の建物や寮、訓練施設、実験施設、講堂、飲食施設等の建物が、ポツポツと建っているだけの様に見える。


 授業も、同じクラスの人が、同じ教室で、決まった一日の時間割通りの授業を受けるというスタイルでは無く、自分の学びたい科目を自分で選んで、教室を移動しながら、講義を受けるスタイルだ。だから、授業毎に教室内に居る面子が違う。システムは、大学と似た様なスタイルだと言えば分かるだろうか。

 選択した授業が始まる時間に成ったら、その授業の行われる建物の、目的の教室へ入る。カリキュラムは自分で組み立てるのだ。だから、授業と授業の間が1刻(2時間)も空いてしまったりもする。その空いた時間に、外へ出て遊びに行くのも自由なのだ。


 ただし、その分、試験に受からなければ、情け容赦無く落とされていく。

 何の為に学校へ行くのか、勉強は人に強制されてするものではない。学校は、学びたい人が学びに行く所なのだ。その自覚の無い者には、それなりの結果が待っているという事は、肝に銘じなければならない。



 私達は、これから三年間、ここで学ぶのだ。




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