第173話 メソ汁

 お師匠 > 私 > ブランガス > お師匠 > 私 …………

 ジャンケンみたいに、三竦み状態になってる。


 ちょっと疑問なんだけど、この三者で戦ったら誰が一番強いんだろう?

 多分、単純な破壊力では私なんだけど、総合的な攻撃力ではお師匠の方が上なんだよね。核ミサイルのスイッチを持った大統領vsアサルトライフルを持った兵士vsティラノサウルス。闘技場内でヨーイドンで戦闘開始したら、誰が一番強いでしょう? みたいな感じかな?

 お師匠は、邪竜を倒した程なんだけど、邪竜は知性を失って暴走した状態だったから、神竜の方が実は強い? 私はもたもたレールガンの用意をしている内にやられちゃいそう。


 これは、誰かが折れないとだめか。お師匠が私を上位と認める……、ナイナイ。じゃあ、ブランガスがお師匠を……、これも無いな。私がブランガスを上位者と認めれば良いだけか。



 「じゃあ、私とブランガスの眷属の契を解消すれば、丸く収まるのか、……な?」


 『!--いやーん! いやーん! それは、最早不可能なんですー!!--!』


 「わかった、わかったよー。じゃあ、ここだけ、私がブランガスに対して丁寧に対応すれば良いんだよね。ブランガスさま。」


 『!--それもなんか気持ち悪いわー。でも、妥協してあげますよー。プンプン!--!』



 ブランガスも可愛いんだよなー。



 「ほらね、ヴィヴィさん。ブランガスって、いいキャラしてるでしょう?」



 ヴィヴィさん、無言で硬直している。

 あれ? これもオネエキャラに聞こえているのは、私だけなのかな? 皆にはどういう風に聞こえてるんだろう?



 「ブランガス様、お久しぶりで御座います。プロークです。」


 『!--あーら、ブロちゃん、人間の姿に寄せちゃったのねー。--!』


 「はい、ソピア様に仕えるには、この姿が都合が良いと判断しました。」


 『!--そっちがケイティーちゃんで、こっちが飛竜のフリーダちゃんね。そして、こちらが、ヴィヴィさん。--!』


 「は、はい、お初にお目にかかります。ヴィヴィ・ヴァイオレットと申します。」


 『!--ヴァンちゃんの所で見たから、知ってるわー。--!』



 そうだった。四神竜は繋がってるって言ってたもんね。4体居るけど、全体で同一の存在で、でもそれぞれ別の存在。

 精霊達もそうだから、上位の存在ってそういうの多いのかも。



 『!--人間も元々そういう存在だったけど、個を主張するあまり、その能力を捨てたのよ。でも、ソピアちゃん、あなたがテレパシーという形で復活させたわ。--!』



 人は、個人主義という個の障壁を作り出し、何者にも縛られない魂の自由を手に入れたのだが、逆に他人が分からなくなってしまった。故に食い違い、他人を恐れ、争う様になった。

 精霊達から見たら、なんと馬鹿げた方向へ進化したものだと思うかも知れないが、他者からのしがらみを断ち切った故に、その空いたリソースを創造の方面へ振り分ける事が出来るようになった。

 人間は、他の動物には見られない、文化というものを構築し、文明を発展させて、生物界の覇者と成った。それが良い悪いという議論は別にして、本当にユニークな生物だと思う。人間は、他人が分からなくなったから、他人を愛する様になったのだから。

 私は、一度人間が捨てた能力を復活させてしまった訳だけど、それって、人という種にとってどんな意味があったのだろう?



 『!--あるわよー。人間が次の上位ステージに登る為に、あなたの存在は、必要なの。--!』



 私の肩に、そんなに色んな物載せないでよ。重すぎるよ。



 『!--プロークとフリーダ。あなた達、しっかり守るのよ。--!』


 「「御意。心得て御座います。」」



 私達は、ブランガスに別れを告げ、帰途に付いた。

 お師匠はしっかり、硫酸を瓶に汲んで持ち帰って来てた。色々使えるもんね、硫酸。


 え? 空竜には会いに行かないのかって? 予想外の長旅で疲れ切りました。洋上で11泊だよ? ヤバイでしょう。帰ってベッドで寝たいよ、もう。








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇









 謎空間で一瞬で屋敷へ帰ったのだけど、私達は、げっそりやつれてしまっていた。

 だって、ずっとお魚と水だけの生活だよ? もう、一生分食べたよ。今は思いっきり肉が食いたいだろうと思うでしょう? 実はメッチャ野菜が食べたい。多分、ビタミンが不足しているんだと思う。野菜食いてー!

 なので、晩御飯は野菜メインの料理にしてもらった。私達は、貪るように野菜を食べましたとも。美味かったー。野菜があんなに美味いとは、思わなかったよ。子飛竜達は不満そうだったけどね。


 食後、私達は大浴場に直行。10日以上もお風呂に入ってないので、体中臭い。服も臭い。頭も臭い。乙女として最悪!

 まあ、この世界でお風呂に入れるというのは、最上級の贅沢なんだけどね。水資源の豊富な我が国バンザイ。

 隣国のウルスラさんの国では、殆どお風呂に入る習慣が無かった事を考えると、なんて幸運なんだろうと思うよ。ほんとに。

 温まって寝るのは気持ち良いよねー。

 魔族のクーマイルマもすっかりお風呂好きになっちゃってるし。


 体を洗い終わって、さて、湯船に浸かろうと思ったら、皆が先に入って、息を呑んで私をじっと注目してくる。

 何だよー、見るなよー、恥ずかしいよー。

 私は湯船に片足を突っ込むと、私に触れた部分の湯から淡く光り始める。



 「「「「「「「きたきたきたー!」」」」」」」



 皆でお湯を撹拌して混ぜてる。

 コラ、ソピア汁とか呼ぶんじゃない! 名湯ソピアの湯とか言うんじゃない!



 「ねえ、見て見て! ソピアの出汁だしが効いてるから、こんなにお肌スベスベー。」


 「出汁だしとか言うな! ケイティー、後で話がある。」


 「あらぁ~、ソピアは私に一生を掛けて恩返ししてくれるんじゃなかったのかなー?」



 くっ、ちくしょう、殺せ!

 一旦受け入れると宣言しちゃったけど、まさかこんな辱めが待っていようとは……

 私は頭を抱えてしまった。



 「いいけど、ソピア汁とソピアの出汁だしだけは止めて!」


 「はいはい、わかりましたよーだ。」



 ケイティーの体を見ると、背中や手足にまだ火傷の痕が所々見える。

 私は、そっと瞼を閉じて感謝の念を送ってから、湯船を出た。



 「お先に休ませて頂きます。」



 私は、自室に戻って、ぐっすりと眠った。



 …………


 ………


 ……








 朝、疲れもスッキリ取れて、朝食を食べようと部屋を出たら、メイドさん達の動きが慌ただしい様な?

 首を捻りながら、食堂へ降りて行くと、なんだか顔をツヤツヤさせた女性陣が揃ってた。

 いや、もう聞かなくても分かるよ。あのお湯の効果なんでしょう。



 「そう言えば、今朝、メイドさん達の動きが慌ただしかった様な気がするんだけど、何か有った? 涙ぐんでいる娘も居たんだけど。」


 「ああ、それなぁ、料理人と使用人を王宮の者と若干名入れ替えたいとエイダムから頼まれてのう。」



 成る程ね、王宮務めに成れれば、大出世だもんね。田舎にも鼻が高いもんね。そりゃ嬉しくて涙も出るか。



 「それがねー、逆なのよー。」


 「は?」


 「皆、王宮へは行きたく無いんですって。」


 「何じゃそりゃ。もしかして、うちの方が給料良かったりするの?」


 「それは無いわ。いくら何でも王宮よりもお給料が高いと言う事は無いわね。体面があるもの。仕事はうちの方が、大分楽だとは思うけれど。」


 「給料と名誉を取るか、楽を取るかで揉めてるの? そんなの比較するまでも無いじゃない、何でだろう? 希望者募ったら、行きたい人も居るんじゃないの?」


 「それがねー、居ないのよ。」


 「一人も?」


 「一人も。」


 「じゃあ、抽選でパッパと決めちゃえば?」


 それをやったら、この騒ぎなの。泣き出す娘も居て、困っちゃったわー。」


 「泣く程? 何があったんだろう。」


 「まあ、王宮の方は、規律も厳しくて、忙しいというのはあるにはあるのだけど、こんな事があったらしいの……」



 ほわん…………


 ほわん………


 ほわわわ~ん……



 ある日、市場へ買い出しに出掛けた我が家のメイドさんと、王宮のメイドさんが鉢合わせしたそう。

 我が家のメイドさん達は、軽く会釈をして通り過ぎようとしたのだけど、自分達の方が格上だと思っている王宮のメイドさん達は、ちょっと面白く無かったらしい。

 というのも、王宮内では、規律が厳しくて、格上とすれ違う時には、決して目線を合わせず、道を開けて端に寄ってお辞儀をし、相手が通り過ぎるまでその姿勢を崩してはならない、と教えられているそうなのだ。

 それは、他の貴族付きのメイド達にも徹底され、うちも例外では無かったはずなのだけど……


 その暗黙の了解を崩す者が居た。


 うちは、我が王と王妃であるエイダム様とエバ様と同格の、大賢者ロルフ様のお屋敷であり、女神様も住まわれていて、王様も王妃様もあしげく通われて来る。何を王宮務めだからと下手に出る必要があるのかと、一触即発の事態になってしまった。

 だけど、流石に女子同士の喧嘩は、殴り合いには成らない。大体が口喧嘩だ。

 着ている物の善し悪しがどうとか、靴とかアクセサリーの値段がどうとか、お化粧品やお化粧方法とかで舌戦が繰り広げられる。

 でも、そのあたりで争っている内は、勝負は付かない。何故ならば、メイドの制服は王宮もうちも同じテーラーに発注してるし、素材の質もそれ程違いは無い。アクセサリーだって似たり寄ったり。デザインがちょっと違うだけなのだ。お化粧だって、流行りというものがあるので、化粧品にそれ程差異が無ければ、出来上がりも大した違いは無い。


 業を煮やした王宮メイドは、遂に禁断のお給料と格式に言及しだした。

 そこで、うちのメイド達が、ぐぬぬと成るかと思ったら、一人のメイドがポケットから小瓶を取り出して、頭上に掲げた。



 「メソ汁!!」


 「待てコラ!」



 私は、思わずヴィヴィさんの話に割り込んでしまった。


 そのネーミングはヤメロ!!




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