第174話 アカシックレコードその8~12

 キッと部屋の壁際で控えているメイド達を睨んだら、サッと視線を逸しやがった。

 メイド連中でそんな名前で呼んでやがったのか。

 女神のソピア、略してメソ。その汁だから、『メソ汁』って、喧嘩売ってんのか? ああん!?



 「そんな巫山戯た名前付けるなら、もう今後大浴場は使わないから!」



 メイド達が絶望の表情をした。

 ヴィヴィさんとウルスラさんの方を見たら、同じ顔してた。



 「そ、ソピア様、どうか、どうか! 呼び名を変えますから。……そうだ! 『女神の汁』なんてどうでしょう?」


 「汁はやめろ!」


 「で、では、『メソの雫』では……」


 「メソもヤメロ! 遊んでるだろ!」


 「申し訳御座いません! では、『女神の涙』では?」


 「えー、風呂の残り湯が女神の涙って……」


 「では、『女神の雫」で、どうかお許しください!」



 何でこの人達こんなに必死なんだよ!



 「まあまあ、ソピアちゃん、そんなに興奮しないで。」



 血圧上がるわ!

 まあ、そんなやり取りはおいといて、話の続きだ。

 うちと王宮のメイド達の争いで、王宮側がお給金と格式を持ち出したら、うちのメイドが小瓶を取り出した話だったね。


 その小瓶の中身は、ご推察の通り、例の風呂の残り湯だ。

 ガラス瓶から透けて、淡く光っているのが見える。

 そのガラス瓶は、香水なんかを入れる、アトマイザーってやつなんだけど、分かる? 小さなスプレーの瓶なのね。

 それを顔にシュッと一吹きすると、あら不思議。


 お顔のくすみや目の下の隈が消えて、つるつるぷるんとした赤ちゃん肌に。

 髪の毛にシュッと一吹きすれば、あっという間にツヤツヤキューティクルのさらさらヘアーに。

 衣服にシュッと一吹きすれば、昨日の食べこぼしのソースのシミやにおいもあっという間に……



「ちょっと待って、衣服のしみ抜きと消臭も?」



 生鮮野菜や果物にシュッと一吹きで、何時までも瑞々しさを保ち

 お部屋に一吹きで、自分では分からない生活臭を消し

 1しずく飲めば、疲れも吹っ飛び、何日も眠らなくても……



 「飲んでんじゃねーか!! 言ったよね! 飲むなって、言ったよね!!! しかも、何かヤベー薬みたいな効能だよね!? 疲労がポンと取れるのか!?」


 「ソピアちゃん、落ち着いて。」



 ゼーゼー……、これは、ツッコまずには居られない!

 私は確かに受け入れるとは言ったけど、こんな斜め上だとは思わなかったよ!

 クーマイルマが、そっと席を立とうとしたのを見逃さなかったぞ。



 「クーマイルマ、……飲んでるよね?」


 「い、いえ……、ご免なさい!!」



 走って逃げやがった!

 うはー! 頭に血が上るー!!



 「どうどう、ソピア、落ち着きなさい。」



 ケイティーが、興奮した私を後ろから優しく抱きしめてくれた。

 私は落ち着きを取り戻し、ケイティーの顔を見上げると、……視線を逸した!


 もうやだ、この人達!



 「もーう、ソピアちゃんが騒ぐから、お話が全然進まないのよ。」


 「私か!? 私が悪いのか!?」



 そう問う、私を無視して、ヴィヴィさんは話を続ける。

 つまり、その効能を見せつけた、うちのメイド達は、全員同じ瓶を持っている事を自慢してしまった。



 「ちょっと、何よそれ! そのメソ汁という物は、何処で手に入るの? 教えなさいよ!」



 王宮のメイド達は、お肌のくすみを消し、潤いを与え、まるで赤ちゃんの肌の様に若返る神秘の謎のスプレーに仰天して、それが絶対に欲しい、大賢者邸で働けば、全員にただで支給されると知って、大騒ぎに成ってしまったのだという。



 「それで、かねてよりうちの料理人と料理の技術交換をさせたいと考えていたエイダムにより、料理人とメイドを何人か交換しようという話になってしまった、という訳なのじゃ。」



 人の口に戸は立てられぬとは言うけれど、メイド達に外で見せびらかすなと注意する間も無かったな。

 当事者には厳重に注意しておかないと、こっそり売って小遣い稼ぎをしようという、不届き者も出かねない。まさか、王宮や大貴族付きのメイド達にそんな不心得者が居るとは思いたくないけどね。


 それよりも、もっと重大な問題が有るんだ。



 「王宮でもメソ汁で広まっちゃってるじゃん!」



 どーすんのよ、これ! 誰が責任取るの!?

 私、また家出するよ!?

 こんな辱めも受け入れるとは、言ってないよ!!



 「ソピア、もう家出は止めてね。私の命が幾つ有っても足りないから。」



 はい、さーせん、もうしません。


 結局、メイドさん達の意向も汲んで、向こうへ行かされてずっと、という事ではなくて、全員が1年位で順番に戻って来られる様にローテーションを組む事で落ち着いた。








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 「さて、空竜、行く?」


 「昨日の今日で、ちょっと疲れちゃったわね。もう少し開けない?」



 だよねー。気軽に出掛けた水竜のお宅訪問で、まさかの洋上11泊12日の強制宿泊で、毎食魚と水だけという強行軍をを敢行させられるとは、思っても見なかったもんね。

 今日一日位、ダラダラするかー。



 「ちょっと、ハンターズに顔だしてみない?」


 「そっか、ご無沙汰だったもんね。そうしよう。」



 そう言って、出口の方へ有るき出そうとしたら、例のやつが来た。



 ドーン……

  ドーン……

   ドーン……

    ドーン……

     ドーン……



 床に降り立って、ちょっとくらっと来た。

 おお、今回は気を失わなかったぞ。立ち眩み程度だ。大分慣れてきたな。

 合計5発来たかー。



 「ソピア、お前、今ので何とも無かったのか?」


 「うん、ちょっと目眩がした程度。今回は5人分だね。」



 まあ、周囲の皆も慣れたもので、既にあまり驚いていない。

 今回は、数学者、生物学者、医者、農家、下町のロケット部品屋さんだ。もう、国も名前も性別も年齢も、割愛です。



 「これはもう、完全に神竜を越えた様だな。」


 「そうですわね……」



 竜達が私の頭上を見上げて感嘆している。

 遅れて部屋に入ってきたヴェラヴェラとクーマイルマが、扉を開けた途端、『ひっ』と軽く悲鳴を上げた。



 「ソピア様、眩しすぎます。」


 「うんー、直視出来ないよー。」



 ごめん、光量の落とし方分からない。



 「今なら、お主たちの言う事も理解出来そうじゃ。ほれ見てみい、心なしか部屋の中が明るい様な気がするじゃろう。」


 「その通りですわね。比喩では無く、確かに部屋の中の光量が増している様に見えます。」


 「ソピア、燭台要らずね!」



 ケイティー、、サムズアップするんじゃありません。

 やれやれだ。原付免許しか持ってない女の子に超大型豪華客船の操舵をやらせてるみたいな状況なのに、皆呑気すぎるよ。大丈夫なのかな? この星の運命。




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