第162話 アカシックレコードその5,6,7

 私の思念は、色々と周囲に筒抜け状態になっているので、何かをしようとすると、途端にお師匠やヴィヴィさんの突っ込みが入る様になってしまった。まあ、でも大体の場合は、生暖かく見守ってくれているので、大した不都合は無いのだけど、時々今日みたいに先回りして段取りを整えられていたりすると、ちょっとビックリしてしまう。



 「王宮のパティシエも呼んで有りますからね、美味しかったら早速王宮の方でも再現したいなと思っているの。」



 うーん、全員分足りるかな?

 私の隣には、当然イブリスも席に付いているし、いつの間にかエウリケートさんも来ている。

 給仕のメイドさん達が、一人一人の前にえんじ色の布を敷き、その上に白い皿を置いて行った。皿の上には、ゴルフボールを半分に割った位の小さな半球状のアイスクリームに、旬の冷えたフルーツを添えて、ベリーのソースを大胆に掛けてミントの葉っぱを載せた、皿の面積から見てアイスちっちゃすぎやしませんかね、という様なデザートが置かれた。

 高級レストランのコースの最後に出て来るやつみたい。なんてお洒落なんでしょう。


 うーん、この人数に配ると、このサイズに成っちゃうのかー。

 なんか、私の思い描いていたのと違うー。もっと、ガバっと食べたかったなー。



 「まあ、美味しい!」


 「何という事だ、この様な冷たいデザートが作れるなんて。」


 「おかわりはありませぬか?」



 でも、王様や宮廷の関係者には大好評みたいだ。

 貴族パーティーで出そうとか、外国の使節をもてなす晩餐会で出したいとか、喧々囂々の話し合いになってしまった。



 「なんかさ、なんていうか、もっと、ガッと食べたいよね。」


 「だよねー、足りないだよー。」



 竜達も物足りなさそうで、不満顔。特に子供の飛竜の三人が不満顔。

 政治的な話は今ここでやらなくてもいいじゃん。迷惑だよ。アイスがちっちゃくなっちゃうし! ストレスマッハだよ! もっと食べたいよ!



 「追加で御座います。」



 お? いつの間に?

 今度は、普通にカップ1杯位の量のバニラアイスが出て来た。

 いつの間に作ったんだろう? と、厨房の方へ目をやると、パティシエさんがサムズアップして白い歯をキラリと輝かせてた。出来るやつ!

 うん、これは、普通にバニラアイスクリームだ。地球に有るのと殆ど一緒だ。凄いな。一瞬で応用出来るとは、流石に貴族付きの専属パティシエだけは有る。



 「まあ、これも美味ですわ!」


 「妾は、最初の方の味が好きです。」


 「私も黄色い方が好きかしら。」



 よし、エウリケートさんとエバちゃまは、私の味方だ!

 やっぱり、卵黄入りのは美味しいよね。


 後で聞いたら、やって来た人数に対して量が足りなさそうだったので、皆に取り分けた直後から追加で作っていたんだって。

 ヴェラヴェラが居ない所で生卵はちょっと抵抗感が有るし、王族にもお出しして、もしも何かあったら大事なので、考えた結果、生クリームを混ぜてコクを出してみたんだそうだ。

 こんな短時間で作れた理由は、平らなバットに薄く入れて、凍らせる速度を早めてみたそうだ。

 金属のバットに薄く広げて凍らせると瞬時に凍るので、ヘラみたいなスケッパーで削り、また少し入れて凍らせ、を繰り返して短時間で制作したとの事。

 やるな、おぬし。私もサムズアップで微笑み返した。



 「あつつ、頭がキーンとする!」



 ケイティーが眉間を抑えて俯いている。お師匠もか。



 「それは、アイスクリーム頭痛といって、慌てて食べるとなるよ。害は無いよ。上顎の神経が、冷たさと痛さを勘違いするからとか言われているね。直ぐ収まるよ。」



 と、言ってる傍から、王様とエバちゃまとヴィヴィさんもがキーンとやってた。可笑しい。



 「ゆっくり食べてね。私達はお先に席を立たせて貰いますので。」


 「あっ、イブリスちゃん、お願いが有るんだけど、あの氷の剣を後2本、作って貰えないかしら? 王宮とビール工場の分なんだけど。」


 「どう? イブリス。お願い出来る?」


 「お安い御用ですよ、お母様。」



 イブリスは、そう言うと、あっという間に同じ形のアイスⅧダガー(弱)を2本作り出した。

 2本の氷の短剣が、空中に浮かんでキラキラと輝いている。



 「でもこれ、触れないよ。慎重に取り扱ってね。」



 魔力で空中に浮かんでいる2本の短剣を、魔力で受け取ったヴィヴィさんは、ちょっと考えてから、そのままそれを倉庫へ収納した。

 冷凍倉庫になったね、クール便の仕事が出来そう。

 ヴィヴィさんが、あっ、という様な顔をしたけど、イブリスはジンを消費しているんだからね、こんな子供を金儲けの種にはさせないよ。



 「イブリス、さあ、もっとお願いされない内に、鍵へお帰り。」


 「はい、お母様。」



 イブリスは、煙の様に成って鍵の中へ戻っていった。



 「い、いやあねえ、金儲けなんて考えてないわよー、おほほほ。」



 あやしい。

 でも、実際問題、魔導倉庫はこっち側と同じ時間経過が有るわけで、生鮮食品を遠方から運ぶ事は出来ない。

 時間経過を無視出来る、謎空間を使えるのは、今の所私だけなので、遠方の国から魚介等を運ぶ事は出来ないのだ。いや、出来なくは無いか。倉庫に入れてマッハ2で飛んでくれば良いのだから。でも、それが出来るのは、限られた人だけなので、流通革命とまでは言えないのがもどかしい。



 「冷凍魔導倉庫があればー、我が国でも美味しいお魚料理がー……」


 「あーあーあー、きこえなーい。」



 0歳児に負担掛けたくなーい。イブリスは私が守る!



 「でもー……」



 くそ、粘るな。



 「月に1本程度なら、お願い出来るかも……」


 「はい! 約束取り付けました! どうもありがとう、ソピアちゃん、イブリスちゃん。」



 くそー、私は押しに弱いタイプなのかもしれない。助けてケイティー。



 「ソピア、こっちに来なさい。ヴィヴィさん、いけないと思います。」



 ケイティーが手招きして私をギュッとして庇ってくれた。嬉しい。



 「あらぁ~、わたくし悪者みたいじゃーない。」


 「ごめんね、ヴィヴィさん、気持ちは分かるんだけど……」



 そこまで言った所で、あ、アレが来るのが分かった。



 「来るな。」


 「ええ、来ます。」


 「「「来るよー、来る来る!」」」



 竜達が騒ぎ出した。

 皆一瞬、ハテナという顔をしたけど、直ぐに理解した。



 「きゃあっ!!」



 私を抱きしめていたケイティーが弾き飛ばされた。

 私の体に光の柱が突き立つ。



 ドーン! ……



 天と地を繋ぐ光の柱は、屋敷の天井と床も貫いている。

 その光の柱は、太さを徐々に太さを増し、体全体を覆う程の太さにまで成長する。

 私の体は、床から離れ、1ヤルト程の高さに固定される。

 まあ、何時ものあれだよねー。終了時に床に落とされるのは勘弁だけど。

 王様もエバちゃまも、心配そうに見ているのが認識できる。頭の中はクリアーなんだ。

 そして、徐々に光は太さを細めて行って、……床に落ちるんだろ、と思った瞬間、もう一本が来た。



 ドーン!! ……



 おお、前回は一回終わってからもう一本って感じだったけど、今度は連続か。

 今度の二人は、どんな専門職の人なのかなー、なんて考えている余裕もある。

 二本目の光も、徐々に細くなっていって、やっと終わるか、と思った時、まさかのもう一本が来た。



 ドーン!!! ……



 今回は3人かよ!

 やれやれ、どんどん人数が増えてくるぞ。うーん、これの時間をもっと短縮して欲しい。

 もうさ、どんどん人数が増えてくるんだからさ、時間がかかってしょうがないよ。一本に纏めてよ!


 光の柱は徐々に細くなって行き、私はやっと開放された。



 「まさかフェイント掛けてもう一本来ないよな!?」



 私は天に向かって突っ込んだ。





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