第163話 神格
その後、何時も通り寝込んだ訳だけど、半日もしたら目が覚めた。
おお、ダウンロード回線が、素晴らしく速くなっている。
「5G通信かよ!」
説明する必要も無いと思うが、5Gとは、2020年あたりから主流に成ると言われている、第5世代の通信技術の事らしい。とにかく、凄く速いんだって。2時間映画が僅か3秒でダウンロード出来るらしいよ。
そして、ちょっと寝すぎちゃった、お昼寝かよ!
私が『5G通信かよ!』とか訳の分からない叫び声を上げて起き上がったので、側で看病の支度を整えていたメイドさんがビックリして飛び上がってしまった。
「あ、ご免なさい。ちょっと天に向かって突っ込みを入れてしまいました。」
いけね、更に訳の分からない事を口走ってしまった。
あれれ、メイドさんが慌てて走って行っちゃったよ。私が気が触れたとでも思われちゃったかな?
ドヤドヤと大勢が部屋に入ってきて、エバちゃまに涙目で抱きしめられてしまった。
「本当にびっくりしたわ。前も見ていたけど、本当に心臓に悪いわ。」
「うむ、前回よりも更に凄かったからな。今回は早く起きたが、体は何とも無いのか?」
「うん、エバちゃま、お師匠、何とも無いみたいです。ご心配掛けました。」
「看病に付けたメイドが、お前が妙な事を口走ったと言っておったのが気になったのじゃが、まあ、何時もの事じゃったな。」
はい、何時もの事ですよー。
「どう? 立ち上がってみて、ふらついたりしない?」
「はい、大丈夫です。エバちゃま、どうも有難う御座います。」
再び、ぎゅっと抱きしめられた。エバちゃま大好き。
「今度は3人か? どんな人物の知識が降りて来たのじゃ?」
「うーんとね、薬学と、天文学と、地質学……かな。」
正確に言うと、アメリカの製薬会社の社員と、ハワイの天文台の職員と、フランスの大学の地質学の研究員。名前は割愛。製薬会社と天文台は女性だ。
大分各方面の知識が揃って来て、ある程度専門外でも雑学でカバー出来るように成って来たけど、いかんせん、私の脳の処理能力をオーバーしちゃってるみたいで、ど忘れが頻繁に発生している。
一人で抱えるには知識が膨大過ぎて、やばい。外部ストレージが欲しい。
そう思った瞬間、すっと軽くなった感じがした。
ん? 何かが修正された? そんな感じがした。
「今回は寝てたのは半日なんだから、肉を食べても良いよね。」
「おまえは、本当に肉が好きじゃのう。」
「うん、育ち盛りだからね!」
お師匠と王様、エバちゃま、ケイティーやその他メイドさん達とぞろぞろ歩いて食堂へ戻ったら、竜達がざわついた。
「これは……凄いです。」
「神竜に匹敵するかもしれん……」
ヴェラヴェラと、学校から帰って来ていたクーマイルマが、呆気にとられている。
私がクーマイルマの所へ歩いて近付いたら、尻餅を突いてしまった。危ないよ、大丈夫?
「女神様、もうお隠しにならないで下さい。どうか、どうか、お認め下さいませ。」
ガタガタ震えながら、涙を流して指を組んで祈っている。
「えー、嫌だなー、止めてよー。」
「冗談ではありません! どうか! どうか……」
目線を合わせようとしない。ヴェラヴェラの方を見ると、言葉を発せずにコクコクと頷いている。
竜達の方を見ると、片膝を着いて、頭を下げている。
これは、何の悪い冗談だ?
私は、頭痛がして来て、食事を食べる気も起きずに自分の部屋に引き籠もってしまった。
直ぐにケイティーが追いかけて来てくれて、慰めてくれたんだ。
コンコンコン
「ソピア、ちょっといい?」
ケイティーがドアをノックしたので、私はドアを開けて彼女を中へ導いた。
ケイティーは、私の顔を見て、ハッとした顔をした。
「ソピア……、泣いてるのね。」
自分では気が付かなかった。
自分は泣いているつもりは無かったのだけど、いつの間にか涙を流していたみたいだった。
指摘されて、やっと自分は泣いている事に気が付いた。
「うわああぁぁぁぁ、家族が、友達が、居なく成るよぅ!」
家族だと、友達だと、そう思っていた人達が、ことごとく私を神と崇め出してしまった。私に向かって祈る、傅く。
私はそんなの要らない。
私は家族が欲しかっただけなのに! 笑い合ったり悲しんだりバカやったり出来る、仲間が欲しいのに!
私は、ケイティーに抱きついて泣いた。
…………
………
……
ソピアを追って二階に駆けて行ったケイティーが、暫くしてから階下に降りて来て、皆に向かって文句を言った。
「ちょっと皆酷いよ! ソピアが何時もあんなに嫌がっていたのに!」
「でも、でも! ソピア様は本当に女神様なんです!」
ケイティーの非難に、竜達は困惑顔だが、クーマイルマは頑固にそう主張する。
今までは神の御命令として、己を偽り芝居をして来たが、最早、これ程の大きな神威を前にしては、傅かずには居られないと言う。もう無理だと泣く。
「人間には見えないのかも知れないが、我々竜族の目には、あの者の神格の輝きが見えるのだ。これは誤魔化し様が無いのだ。」
「ちょっと待ってくれ、神格の輝きだと? 本当なのか? 本気で言っておるのか?」
「例え大賢者様でも人間には見えないみたいだねー。あたいもクーマイルマも見えているんだーよ。」
「私も見えております。」
ウルスラの様に人間でも稀に見える者は居るみたいだ。だが、その場にいる殆どの者は、半信半疑だ。
魂の輝き、特に神格と呼ばれる神の高みの格にまで至っている魂を、肉眼で見る事の出来る者が居るという事実は、皆受け入れ難い様だった。
実際問題として、例えば、幽霊が見える人と見えない人が居たとして、見えない人は幽霊の存在を認められるだろうか? おそらく、その見える人は嘘を吐いている、でまかせを言っていると思うのが普通の反応だろう。
だけど、科学者の場合は、信じる為には証拠の提示を求めるのが普通だろう。
大賢者のロルフも、賢者の称号を持つヴィヴィも、ウルスラがいとも簡単に神格を認めたのが不思議でならなかった。
しかし、ウルスラにすれば、見えるものは見えるのだ。しかし、証拠を示す事が出来ないもどかしさに苦しんでいた。
両者はあくまでも平行線なのだ。
ただ、一つ、手がかりとなるものが有った。宝珠の指輪である。
「確かに、四神竜の神格を感知して作動し、記録を開始する宝珠が、あの子が持つと作動してしまっていたのよ。」
「神格と言うものが何かは分からぬのじゃが、神竜の持つ、人や精霊の物とは明らかに格の違う、何らかの強大なエネルギーの事じゃな。それを神格と呼んでおるのじゃろうが……ふうむ。」
「我々竜族や精霊、魔族等は、それを視覚で捉える事が出来るのだ。」
もしも、人に見えない物が見えると主張する人が、信頼に足る人であったり、尊敬する人であった場合、どうすればよいだろうか? 自分で判断する知恵が無ければ、信じるという事を正当化するために、信者となるのが手っ取り早い心の動きかもしれない。
これは、人間という生物に備わった、有る種本能の様な物だ。
例えば、人間特有の心理に、人と同じ物を身に付けたいとか、同じ格好をしたい、行動をしたい、という心理がある。すると、安心出来るのだ。
そんな馬鹿なと思われるかも知れない、自分のファッションは個性的だと主張するかも知れない。が、今年流行の色だとか素材だとかは、取り入れていたりするだろう。ブームに乗るという事は、深層心理では他人に追従したい、だけど自分は個性的だと主張したい。つまり、隠れた心理の補償行為なのではないのか?
人は、イワシの群れの様に他人に追従し、同じ方向へ走るのを公然と出来るブームが大好きなのだ。そこに波があれば、それに乗らずには居られないのだ。乗れば安心し、乗り遅れれば恐怖を感じるのだ。
ある研究では、人間は、全体の1割の人がブームを作り、2割の人がそれを敏感に察知し、動く。4割の人が、その動きを察知し同じ方向へ追従して走る。そして、2割の人が、ブームに遅れて気づき、1割の人がブームが有った事すら気が付けないという。
つまり、ブームは、【創造者1】>【先導者2】>【追従者4】>【流行遅れ2】>【蚊帳の外1】、となる。
大半の人間が、何かの切っ掛けで同じ方向へ走り出す、羊と同じ行動原理を持っているのだ。
ブームに乗っている人間は、自分で考えて行動していると思い込んでいるが、実際は先頭の1割の人間に操られているという事になる。
キリストが、民衆を羊の群れに例えたのは、強ち間違っては居ないのだ。
自分で判断出来なければ、皆が走っている方向へ走ってしまえば、大方の場合間違わない。
この人間の習性を利用して、ブームを仕掛けたりトレンドを作ったりしている人間が、注意して見ると、あちこちに居る。
自然発生のブームなど、この世の中には殆ど無いだろう。必ず仕掛け人が居る。何でこんな物が流行っているのだろうと感じる場合、それは作られたブームである可能性が高い。今これが流行ってますよ、ブームですよと言う人間には要注意だ。
話が脱線したが、人間は、他人に行動を決めてもらったり、命令されたりするのを好む人が、6割強居るという事なのだ。
リーダー格の人間が子分を引き連れたり、カリスマ性の有る政治家や宗教家が信者を引き連れたり、子どもの世界を見ても、ガキ大将と子分みたいな関係は、幼稚園、学校、会社問わず、あちこちに見受けられる。
だが、それは時に、リーダー格の人が必ずしも力で子分を従えている訳ではなく、子分側がリーダー格を祭り上げ、自分は従属する側に入る事で安心出来る立場に居たいと思っている場合もあるという事なのだ。つまり、子分、又は信者側の人間が、ボスを祭り上げている構図だ。
正にソピアは今、信者によって女神、つまりボスに祭り上げられようとしていると感じ、恐怖と絶望を覚えていたのだ。
今まで友達だと思っていた人間が、実は自分の安住の地を作る為に、私を生贄にしようとしている……
逃げ出したい、だけど、皆がそれをさせてくれない。途轍も無い恐怖を感じていたのだった。
「ロルフ、これはどういう事なのだ。説明してくれ。」
「そうよ、あの子に一体何が起こっているの?」
エイダムとエバが説明を求めている。
ロルフも確信は無いのだが、と、前置きをして、これまで起こった事、経緯を出来る限り詳しく、自分の知る限り詳しく、我が王と王妃に説明した。
「なんと! 神竜の内の2柱を眷属とな。」
「あの光の柱が立つ毎に、神格が成長して行くというの?」
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