第160話 冷凍冷蔵庫

 「それって、ケイティーがやるみたいに、自分の体の外の物にも魔力を及ぼして、性質を変更出来るなら、魔力の無い人のシワやたるみを取ってあげたりして、商売出来るかもしれないね。」



 そこまで喋ったら、おばさま3人組が一斉に私の方へ振り向き、そして、キッとケイティーへ視線の矛先を変えた。

 こ、怖い。私、何かヤバイ事言っちゃった?



 「ちょっと、こっちへ来なさい!」



 ケイティーが、おばさま3人組に腕を引っ張られて拉致された。

 3人に取り囲まれて、質問攻めになっている。

 ケイティーごめん、私が余計な事を言ったから。


 おてての節と節を合わせて、不幸せ、な~む~。


 ケイティーが、助けてという様な視線をこっちへ向けて来るけど、私に出来る事は何も無いよ。

 4人を置いて、私とプロークとヴェラヴェラは、先にお風呂を出た。

 脱衣場で、備え付けの香油を塗ってあげる。石鹸で洗い流してしまった皮膚の油分を補ったり、乾燥から保護したり出来る、オール天然成分の香油なんだよ。



 「ねえ、プローク、なんかカッコ良くなったよね。」


 「ん? そうか? パワーは以前よりも満ちている様に感じるが、人間の美感というのは、どうも良く分からぬのだ。」


 「そのサイズだと、ケイティーの服を着られないのだけど、変身術で服を再現出来無いかな?」


 「うむ、パワーが増えたと言っても、こればかりはイメージの力だからな、あまり複雑な事は難しいのだ。」


 「見たまんま作れば良いだけだから、難しくないだよー。」



 出たよ天才の理屈。ヴェラヴェラは感覚の人だから、人にやり方を伝えるのは下手なんだ。

 再現と言っても、何も複雑な布の質感を作らなくても、体の要所要所を隠せれば、鎧でも何でも構わないと思うんだけどね。



 「鎧か、ふむ、鱗が無くなってしまったので、皮膚の部分に新たにスケイルメイルみたいな物を再現してみるか。」



 プロークは、そう言うと体の各部を隠す様なプレートメイルというか、鱗? なんというか、ビキニみたいな金属質な鱗を再現してみせた。

 もっと露出は減らした方が良くない? またメイド長に怒られるよ。とそう言ったら、若干隠す面積を増やしてくれたけど、マイクロビキニが普通のビキニに成った程度だなー。なんとも、防御力ゼロそうなファンタジーの女性戦士みたいな物が出来上がった。これでメイド長の許可降りるかなー?


 廊下へ出たら、メイド長とすれ違ったけど、何も言われなかった。合格って事かな?

 プロークは、何日も食事を摂っていないのだから、お腹が空いてるだろうと思い、食堂でスープを出してもらう。



 「我は、肉が食いたいぞ?」


 「だーめ、お腹がびっくりしちゃうから、最初はスープから徐々に慣らして行くんだよ。」



 私が倒れる度に言われていた事だ。

 今度は、私が言う番。



 「我は5000年間、そんな事を気にして来た事は無いのだがなぁ……」



 ぶつくさ言いながら、出されたスープを豪快に飲み干し、おかわりを要求している。



 「して、プロークよ、今度はその大きさが通常となるのか?」


 「うむ、この大きさでこの姿が、変身をしていない、標準状態になるな。」


 「なんかもう、岩竜って感じじゃ無く成ったよね。」


 「うむ、だから、人竜だぞ。」


 「あ、やっぱり、竜人じゃなくて、人竜なんだね。」


 「やっぱり、とは?」


 「竜の人じゃなくて、人の形をした竜だから、人竜かなって、第一印象でそう思ったんだ。」


 「ははは、そうか。」



 何で嬉しそうなんだ?

 あっそうだ、大事な話を忘れていました。

 プロークは、まだイブリスに会ってないよね? 紹介しなくちゃ。



 「うむ、休眠中も思念は聞いていたので知ってはいたのだが、見せてくれ。」



 私は、魔導鍵を取り出すと、呼びかけた。



 「出て来いイブリス!」


 「はいはいさー、お母様。」


 「それ、毎回やるの?」



 いつの間にかお風呂から上がって来ていたケイティーに突っ込まれた。

 自分を見捨てて逃げたので、ちょっと機嫌が悪そう。



 「プローク、この子が、イフリートのイブリス。イブリス、こちらが、竜族の観察者にして記録者の元岩竜、今人竜のプロークです。ご挨拶。」


 「プロークさん、イブリスです。お母様が何時もお世話になっております。」


 「わはは、お世話になっているのは我の方だ。宜しく頼むぞ、イブリス。」


 「まあ、可愛らしい。ヴィヴィから報告は受けていたけれど、イフリートがこんなに可愛らしい男の子だとは思わなかったわ。」


 「王妃エバちゃま、イブリスです。宜しくお願い致します。」


 「まあ、礼儀正しいのね、良い子良い子。」



 王妃様にナデナデされて、イブリスは嬉しそう。

 挨拶を終えると、イブリスは煙の様に成って、鍵の中へ戻っていった。

 用事が済んだらすぐに戻っちゃうんだなー。まだ体力は戻っていないのかな?



 「あっ、そうだ、プロークが食べたいって言っていたお魚を沢山捕って来たからね、お昼に出してもらうよ。」


 「おお、それは有り難い。」


 「えっ、えっ? お魚食べられるの? 私、お昼までここに居て良いかしら?」



 それを聞いていた、料理人達に緊張が走った。

 私は、謎空間に入れて来た魚を厨房へ放出し、お昼に使う分を取り分けて、残りを再び時間経過を無視出来る、謎空間の方へ仕舞い直した。

 料理人さん達も食べたいだろうから、その人数分も余計に出しておく事は忘れていないよ。



 「我は生のままで構わないぞ?」



 マジですか、試しに1匹出してあげたら、プロークは、しっぽを掴んで頭からバリバリと食べてしまった。

 もう1匹出したら、それもバリバリとあっという間に食べてしまった。

 う~ん……美女が生魚を頭からバリバリ食っている姿は、あまり見たく無かった。


 昼食の時間になって、食卓に付くと、あれ? 王宮に戻ったはずの王様もまた来てる。



 「うむ、新鮮な魚が食せると聞いてはな。」



 そうっすか、人間の食に対する欲求は、公務に対する責任感を上回りますか。

 私は、そっと厨房へ行って、人数が増えたけど魚の数は大丈夫か聞いてみたら、大丈夫だとの事。

 イブリスも呼んで、テーブルで待っていたら、納得。

 形の分かる料理は、半身の焼き物だけで、後は切り身だったり、シチューの具だったりして、一人一匹という感じではなかったんだ。

 バターで焼いた香草焼きは、とても美味しゅう御座いました。

 でも、日本人の感性から言わせてもらうと、浜で食べた塩焼きが一番美味かった。魚は直火で焼くのが結局最強だと思うの。

 プロークも、美味い美味いと食べてくれたのは嬉しかった。プロークの為に捕ってきたみたいなものだからね。だけど、今度一緒に海へ行って、浜で豪快に焼いたのを食べさせてあげたい。



 食後に、冷凍庫を作りたいという旨をお師匠に断ってから、料理長に調理場へ入れて貰う事になった。一応、調理場は料理人の聖域だもんね。屋敷を改造するのに、持ち主のお師匠にも許可を得ないといけないので、筋は通しておくのだ。



 「冷凍庫というのは、例の氷の剣を使うのか?」



 今回の旅では、私の思念も会話も筒抜けにするのを条件に赦してもらったから、アイスⅧソードの事も既に知られている。

 お披露目するのにも丁度良いかな。と、思ったのだけど、全員ぞろぞろ付いて来た。


 料理長に案内されて、厨房の奥にある、地下への階段を降りると、そこには地球の感覚で20畳位の広さかな、食料保管庫があった。地下なので、ヒンヤリしている。

 このままでも、食料保管庫としては十分なのかもしれないけど、冷凍庫があればなお良いよね。

 私は、壁際の空いている棚や板を移動したり、カーテンを吊るしたりして、奥の三分の一位のスペースを分けて、冷凍庫にする事にした。



 「本当は、冷気が逃げない様に、もっとしっかり部屋を分けたかったんだけどね。取り敢えず、これで。」


 「よし、後で大工を呼んで、工事をしてもらおう。」


 「では、今からお待ちかねの、アイスⅧソードを生成します。イブリス、お願い。」



 私は、イブリスを呼び出し、漁村でクラーケンを凍らせる為に弱めた剣の更に十分の一程度の冷気で良い事を告げて、ソードを生成してもらう。

 イブリスは、お安い御用ですと言うと、私が倉庫から水を出そうとするのを止め、空気中の水蒸気を集めて水球を生成した。

 そっか、この子全属性魔法使えるんだった。……それって、私の上位互換なんじゃないの?

 その水をダガー程度の大きさの短剣に纏め、圧力と冷却を加えながら、アイスⅧを作成する。



 「パパラパー、出来ました、お母様。これで良いですか?」


 「もう、バッチリだよ! 私の想像したとおりの出来栄えです。有難う、イブリス。」



 空中に浮かんだその氷のダガーは、冷気を放出しながらキラキラと美しく輝いている。



 「ほう、これが……」



 手を伸ばそうとしたお師匠の手を制し、触ると全身が凍り付いてしまう事を告げると、お師匠は慌てて手を引っ込めた。

 その剣を奥の壁の天井付近の石積みの隙間に突き刺して置くと、そこから常時冷気が降りてきて、この区分けした一角は冷凍庫になるという寸法です。

 この冷凍庫から漏れた僅かな冷気は、手前の食料庫も冷やして、こちらは冷蔵庫になります。



 「なので、一番奥は氷を作る部屋、その手前は、生鮮食品などの保管に、一番手前は、野菜等を置いておくと良いと思います。」


 「なる程、これは素晴らしい。」



 料理長も喜んでくれました。




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